-adabana-
「さくらぁーさくらぁー」

桜が散り始めた頃。
その桜の木の下でぴょんぴょん飛び跳ねる年頃の女が一人。
名を名前。
綺麗な桜吹雪に心躍らせながら、デタラメな歌を歌っている。
すると、急にびゅんっと何かが目の前を掠める。

「名前っ!居たのか!」

その正体は小太郎の振るう刀だった。ついでに叱咤の声もかかる。
そんな小太郎に少しムッとしたのは理不尽に怒られた名前。
「ヅラ。危ないじゃない。もうちょっとで鼻落とされるか、脳天ぶち込まれると」

「ヅラじゃない、桂だ!危ない、はこっちのセリフであろうが。桜ごときで何をはしゃいでいるのだ。」
「ごときって、なんですかぁ?桜に謝りなさい!」

えへんと胸を張り、片手を桜の幹に当て、まったく怖くもない顔に一生懸命凄みを効かせる名前。
小太郎は痒くもなんともないと言った感じたが、そんな名前がとても可愛らしくて、つい刀を振っていたのを謝ってやろうと思ったが、

「わ!見て見て!風が吹くと桜が散って綺麗なんだよ!」

名前は桜吹雪に夢中である。
そんなところも可愛らしいと思ってしまうのは、もはや重症ではないか、と小太郎は自嘲気味に短く溜息を吐いた。
庭の桜は満開を越え、風によって花びらを散らせていた。もうじきに、その花も絶えてしまうのだろう。ならば、その一瞬を名前と共有するのも悪くなかろう。

「ごとき、と言って悪かった。」
「なあに?急に謝ったりして。あ!ヅラも遊びたくなったんでしょう。いつも剣ばっかり振ってるから。」
「ヅラじゃない桂だ。いや、そうではないんだが。まあ、いい。名前は桜の木に登ったことはあるか?」
「ないよ、ヅラはあるの?」
「ヅラじゃないと言っておろうが!俺もない。」
「あははっ。ごめんごめん、じゃあ二人で登ってみる?」

「小太郎。」と名前は目の前で刀を鞘に収めている人の名を呼びかけると、無邪気に笑った。
最初は小太郎が軽々と桜の木に登る。一本の太い枝に腰掛けると、名前を見下ろした。
「名前ー、ここからの眺めはなかなか良いぞ」

「むー、小太郎どうやって登ったの?むつかしい・・」
「その出っ張ってるところに脚を掛けるだろう。右手はそこを掴む、それだそれ。で、左はそこ。そうだ。そして上を見ろ。」
「こう。で、上を・・・?」
「俺の手を掴め」
「ん。わっ!」

名前の身体が宙に浮く。もちろん、地面に落ちるでなく、小太郎の隣にすっぽりと落ち着く。小太郎が軽々と名前の身体を持ち上げたのだ。最初こそ、枝の上から眺めるいつもと違う景色に恐怖はあったものの、名前はだんだん楽しくなってきて、普段と違う桜を眺め回した。

「すごいすごい!あたしたち、桜になったみたいだね!」
「その喩えはよく分からんが、名前が喜んでいるのはよーく分かった。だが、はしゃぎすぎて落ちるなよ。」
「あたしが落ちる時は、小太郎も道連れだね。」

名前と一緒に落ちるなら、またそれも悪くなかろう。
そう小太郎はまた自嘲気味に心の中で笑って、いやしかし、名前に怪我をさせてはいけないから、やはり落ちるのは何としても止めなければと思い直す。名前に怪我をさせたとあっては、銀時や高杉や坂本に何を言われるか分かったものじゃない。
風が再び吹くと、二人を包むように桃色が散ってゆく。それはまるで友と戯れているようだ。


「名前、しっかり俺の腕を掴んでおけ。」

「わかった。死ぬまで掴んでるね。」


底までちたら
また笑おう



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