■ ■ ■
寮生活の日数イコールなまえと2人になれていない期間。
そんな状況に爆豪はイライラしていた。
「いつでも一緒にいれる」となまえは安心していたが、クラスメイトにバレずに2人きりになることがかなり難しくなったので、その点では全く同意できなかった。自分がヴィランに攫われたことを受けて学校側が生徒の安全を最優先に考えた結果だとしても、なまえに触れられなくなった事態は決して軽くない。
寮と校舎の移動中に寄り道などできないし、校舎はどこもまばらに人がいる。寮は男女別棟だから互いの部屋に行けるわけもなく、共有スペースは必ず誰か居るから論外だ。仮になまえを呼び出して寮の外で会ったとしても、その場に誰がいて誰がいないかなど数えなくてもわかってしまう。高頻度で「あれ、なまえは?」と口にする芦戸辺りが一番に気付くだろう。2人きりになれる場所もタイミングも皆無だった。
寮生活になる前は放課後学校の外で待ち合わせをしたし、たまに週末にも会っていた。
その頃からはまだ数週間しか経っていないが、それらの日々が何ヶ月も前のことに思えるくらいには不満が溜まっていた。もうメッセージや電話だけではこのモヤモヤを誤魔化しきれなくなっていた。
だから放課後、相澤に呼ばれたなまえが二言三言交わした後「ちょっと仕事頼まれたから先に帰ってて」と女子に言ったのが聞こえた時はチャンスだと思った。
男子は寮や演習場に散り散りにばらけ自然に離れることができた爆豪はスマートフォンを耳に当てた。
「ありがとう。誰か誘えばよかったって思ってたから助かった」
備品が積まれた棚の間で、演習中に使う救急セットの在庫とAEDの動作確認をしていた。業者に注文する週末までに不足分を確認したいらしく、ヴィラン対策の緊急会議が入った相澤になまえが頼まれたようだった。
「こんな数チェックさせるなら、もう一人声かけといてよって感じだよね」と眉を下げたなまえに、無言で視線を寄越す。爆豪の下心に気付かず黙々と作業を続けるなまえに欲が膨らんでいく。爆豪がどんな気持ちでここへ来たのかも、後ろ手に掛けた鍵のこともなまえは全く知らないのだ。
バインダーに挟んだリストになまえが確認結果を記入していく。
伏せられた瞼、落ちた髪の毛を耳にかける指、小さく数を数える口許。ひとつひとつフォーカスしてしまう自分は相当ヤバイと自覚しつつも、どうしても見つめてしまう。
「見た、見た、見た…。ん、おっけー!全部確認できました!」
満足げにバインダーを閉じたなまえは「職員室に出してくる。爆豪くんは先帰ってくれて良いからね。ありがとう」と言い、ドアに向かう。
なまえがドアに手を掛けると同時、後ろからドアを押さえた。瞬間、なまえの身体が揺れた。
「2人の時は名前で呼べっつったろうが」
全身に力の入ったなまえの髪に触れる。自分のものとは違うさらりとした感触に目を細める。
「…ご、ごめん。学校の中だとつい癖で」
そう言いながらゆっくり振り返るなまえの顔は少し赤らんでいた。驚きと羞恥と、そして期待を孕んだ表情に爆豪は笑う。
ドアを押さえた右腕に体重をかけ、なまえをドアに押し付けるように身体を寄せる。少し顔を逸らしつつもこちらを見上げるなまえの視線を受け止めながら、どうしてやろうかと思案する。
「か、勝己くん、帰らないの?」
「あ?このまま帰るわけねーだろ」
そう言って左手を頬に添えこちらに向かせる。
「なまえ」
合図を送るときゅっと唇が閉じられ、瞼が伏せられた。爆豪は顔を傾けて唇を合わせる。
ちゅ、ちゅ、と軽いリップ音を立てては離し、を繰り返す。時折舌で撫でていると、次第になまえの唇が緩んでいく。その隙に舌を差し入れてなまえのを絡め取る。震えながらも懸命に応えようとする姿を薄目に確認する。
なまえが両手で抱えるバインダーすら邪魔に感じた爆豪は、なまえの力が抜けた合間にそれを引き抜く。
「ふっ、か、かつき、くん」
「なまえ」
バインダーを近くの棚に放ったと同時、より深く唇を重ねた。瞬間なまえの身体はびくつき、反射的に爆豪の身体を押し返す。その手を取ってドアに縫い付ける。
ぴちゃ、ぐちゅ、と互いの舌と唾液が絡む音が響く。止まらない。
「……っん、ちょ、っとま、って…!」
「…っせ、黙れ」
息苦しくなったのか、顔をずらし抗議の声を上げるなまえの唇を再度喰む。逃げる舌を捕まえて自分の唾液を送り込むと、こくん、と喉が上下した。
次第になまえの膝が抜けてきたのを感じた爆豪は唇を離す。息を荒げながらズルズルとへたり込んだなまえの前に胡座をかき、視線を合わせた。
「はぁ…待ってって、言ってる、のに…!」
「ハッ、この程度で息上げてんじゃねーわ。肺活量なさすぎんだろ」
「…っだって、早すぎる」
「ハァ?意味わかんね」
口許を隠しながら肩で息をするなまえに悪態をつきつつ、肩から流れた髪に指を差し入れる。
赤く濡れた目元で睨まれても加虐心を擽るだけだと何回やれば気付くのだろうか。
少し満たされたことで落ち着いた爆豪が言葉を紡ごうとした時、なまえの右手が爆豪の膝を撫でた。
「…勝己くんだけじゃないよ」
「あ?」
「わたしだって、勝己くん不足だったんだよ」
「……ッ」
「だから、ゆっくりしたい」
────バカかよ。
煽るような言葉になまえも自分を求めていたと知った爆豪は、ごく軽い舌打ちを落とした。
噛みつきたい衝動をぐっと抑え、頭を掻きながら長い息を吐いた。
胡座を崩して距離を縮めると、なまえの左手が胸板に置かれこちらを見上げてくる。見つめ返すと期待に満ちた色に変わった。そのあざとさは自分だけに向けられるものだと爆豪はよく知っている。
どちらともなく唇を合わせ、ただひたすら啄むようなキスをする。少しねちっこくて柔いリップ音にゆるゆると溺れていく。胸板と膝に触れた手に力が入ったのと同時、爆豪はなまえの顔を包むように両手で抑え込んだ。
「ん、ふ、ぁ、」
時折漏れるなまえの吐息に今以上の刺激を求めそうになりつつも、これはこれで気持ち良くなってきた。耳朶を親指でなぞり柔い刺激を増やすと、縋る手の力が増した。
────やべえな、
いつも深いキスで感じようとしてきたが、いつもと違う緩く断続的に続く快楽に嵌っていった。
しばらくしてちゅう、と唇を離す。ゆっくり瞼を上げると、朱に染まったなまえと目が合う。うっとりと濡れた双眸が厭らしい。
「は、赤ぇ。タコかよ」
「やだ、言わないで」
その顔にどきりとしたことを悟られないよう誤魔化すために揶揄う。胸元に埋められた頭を撫でる。
胸がざわざわする。
もう一度、その刺激が欲しい。
「…なまえ」
「ん?」
「もっかい」
「……うん」
会議終わってるかも。
そろそろ行かないと。
互いの頭を過ぎった考えは、衣擦れの音に脆く崩れ去った。
甘やかな密室
どうか、長い会議でありますように