同居人が告白をしかけてきた!


『付き合ってないんだろ』

あの日確かにキバナにそう言われた。それは事実であり、俺が必死に目を逸らしてきた事だ。俺達は付き合ってない。同居している。ハグもする。キスもする。そういった、深い、甘い行為だって、もうしているしこれからもたくさんするだろう。しかし、俺たち二人の間に確約された物はない。口約束も、輪による束縛もしていない。

そして何より、彼を好いている人物が一定数以上いるということ。キバナだってそうだし、多分幼少期に世話になったホップも。ネズはどうなのかは分からないが、よく2人でどこかへ行っているのを知っている。

漠然とした不安を抱く。彼はこのまま俺のモノでいてくれるのか。ほんとうに? 俺は彼に嫌われていないか? この間、疲労しきって酒を浴びるように飲んだあの日、彼は俺以外では満足できないと遠まわしとはいえ伝えてくれた。しかしどうだ? 嘘など簡単につける。もしかしたらあの言葉は酔っ払った己が作り出した幻かもしれない。そんな事になってしまっては、ほかの男に取られてしまったりなんてしたら。俺はきっと。

「……い、おい、ダンデ。聞いてんの」
「!! あ、すまない、聞いてなかった」
「ちゃんと聞いて、大事な話したいんだから」

そういって机の上にバシンッと雑誌を叩き置く同居人。その一面を飾る俺とその隣で笑う女性。大きく書かれた見出しは『元チャンピオン・ダンデの熱愛発覚!?』などというふざけたもの。

彼の声には怒りが含まれていた。そして多分、焦りも。

________

時は数時間前に遡る。ダンデのそのスクープが初めてテレビに出た時間だ。朝食を食べ終え、コーヒーを飲みながらぼんやりとニュースを眺めていた俺に、とんでもない事件が襲いかかる。

『続いてのニュースです。なんとあの元チャンピオンであるダンデさんの熱愛が発覚しました!』
「…………あ゙?」

嬉嬉としてその事柄を告げる女性キャスターに殺意が芽生えた。いや、わかっている。彼女は何も悪くないと。映された写真にいるのは確かにダンデと最近有名になってきた人気急上昇中の女優。その女優を抱きしめるダンデは確かにかっこいい。たくましい身体に痺れる声。そりゃその女優も虜になる訳だ。

そうか、ダンデは女性が好きだったのか。そうかそうか。そうだったのかぁ。

「んなことあるわけないだろ」

コーヒーを飲み干し、空になったガラスのカップを床へ投げつけた。バラバラと割れた破片が散らばる。スリッパを履いた足でそれをぐりぐり踏みつけて、心の中で昇華しきれない怒りを治めようとした。
ありえない。そんなことがありえるわけがない。その写真が合成であるとはいえないし、多分これは事実の切り取りだろう。おそらく転んだ女優をダンデが支えただけのことだ。その二人の間に何も無いことは俺には分かる。分かるが……純粋に、腹が立つ。

ダンデは世の女性が憧れる男である。かっこいい、強い、少し抜けているところも可愛い、そして権力だって財力だってある。ここまで完璧な男はいないだろう。しかし可哀想で可愛いことに、この男は既に俺によってメスにされているのだ。俺に開拓されて、俺だけを求めて、俺じゃないと満足できなくて、俺じゃないと、俺が俺が。俺のなのに。

「…………ダンデは俺のなのに」

俺以外にそんな簡単に触れていることに、触れられていることに腹を立てているだけだ。分かってる、俺の勝手な感情でアイツに迷惑をかけるのは良くないとわかっている、のに!

「…………くそ、帰ってきたら覚悟しとけよ」

飲み友であるネズへメッセージを飛ばした。今空いてるかと、良ければ会えないかと。秒でイエスの返事が来たので、俺は携帯の電源を落として風呂へ向かった。とにかく今は、物理的にでも頭を冷やさなければならないと本能的に動いてしまっていたのだ。

冷えた身体にネズと会う時に着ている自分の好きな衣服を見にまとい、耳や首元にはたくさんのアクセサリーを付けて家を飛び出した。割れたカップなどそのままにして。


「なんでキバナもいんの?」
「暇だったから!」
「元々今日会う予定だったんですよ。それを断ったら理由はなんだとうるさかったのでつい……まあいいでしょう、どうせダンデのことなんでしょうし」

さすがネズ、俺の考えなんてお見通しのようだ。あれだけ大きく騒がれちゃこの2人も知ってるかあと納得しつつ、カウンター席に腰掛ける。俺を挟むように両隣りへ座るキバナとネズ。この2人の間に居るとさすがに萎縮してしまう。ジムリーダーたちだぞ、一般人の俺が囲まれていいようなとこじゃない。だがしかし待て? 俺はあの元チャンピオンダンデの同居人……だ。そう、同居人止まりなのだ。俺たちは。

「で、あのニュースなんだったんだ? 写真は本物っぽかったけど」
「あれは多分事実というか……切り取り? 抱きとめたかなんかしたんじゃねーんですか」
「多分そう。というかそうじゃないと俺が精神的に死ぬ」

耐えられない。あれだけ懐いてくれていたダンデに本命が居たとか言われても今更すぎるだろと文句が飛び出してしまうのは仕方ないだろう。

「好きな自覚はあるのか。なんで付き合わねぇの?」
「付き合う必要性を感じなかった」
「これまたどうして」
「付き合おうと今とすることは変わらないし、このままでも一緒にいられるから」
「一緒にいられなくなるかもしれねぇんですよ。今回のコレみたいなことがあった時」
「む…………」

たしかに、恋人の存在というのは周囲へも影響する。ダンデに恋人みたいな存在がいると知られれば、周りは気を遣うようになるだろう。一部、例外ももちろんいるだろうが。しかし俺たちはただの同居人。それ以前に幼なじみだ。それだけで完結してしまう簡単な関係の呼び名に、ざわつくほど人間は疑い深い生物ではない。

「付き合いたくない訳では無いんだろ?」
「まあ……付き合いたいとは思うけど」
「じゃあなんで言わねーんですか」

呆れたように言われてしまえばさすがにしょんぼりする。なんか俺が責められてて泣きそうだ。ここは慰められる場面だと思っていたのにどうして俺が……。

「告白されてないし」
「はぁ?」「んん?」

2人の声が重なる。

「向こうからしてくるもんじゃないの」
「お前、××お前ほんっと……」
「………………本気かコイツ。まさかとは思ったけどお前、まさか」

告白した事ねぇんですか。ネズは言葉に軽蔑の意を込めながらそう吐き捨てた。そうだ、その通りだ。俺はこの人生、告白というものをしたことが無い。受けることはあろうと、自ら呼び出して気持ちを伝えるなどしたことがなかったのである

「まず人を好きになったことがそもそも」
「そういうタイプでしたね……めんどくせぇ奴らですよホント」
「ふ、××らしいじゃん。オレさまお前のそーゆーとこ大好き」
「キバナはこいつならなんでも好きでしょう?」

ネズに首根っこ捕まれズイッとキバナの方へ差し出される。痛い、ネックレスで首が絞まるからやめてくれ

「まあ好きだけど。だから今めっちゃ嫉妬してるけど。勝てないのなんて分かってるから悔しいけど、応援してやっけど!」

自暴自棄になったキバナはぐいっと酒を煽り俺たちそっちのけで愚痴を吐き始めた。主に俺の事。彼が俺に対して熱烈な思いを抱いているのはとっくの昔に気づいていたが、それを受け入れることは無かった。ごく稀に危ない場面はあったけれど……それでもがんばって避けてきたつもりだ。

「今告白して、もし断られたりしたらどーすりゃいいの」
「まずそこまでいっといて断るやつのがおかしいでしょ」
「でも俺告白ってそういうもんなんだと思って__」
「アンタの告白像はもういいんです。問題はダンデ側……あっちもなんで告白してねぇんだ」

前髪をくしゃりとかきあげて呆れたようにため息をつくネズ。さすが、そんな姿も様になっていてかっこいい。ここだけの話、憧れと言っても過言ではない。俺の理想の男の姿は、ネズのようなクールな男だ。もちろん、俺がそうなりたいだけでダンデには純粋無垢なままでいて欲しい。彼の純潔を汚したのは俺だが。

「ダンデが告白なんて出来るわけないだろ。あいつ未だに嫌われてると思ってんだぜ? よく相談受けるけど、愛されてる自覚ってもんがねぇよな」

あとオレさまに対する配慮がない!オレに聞くな!! といい感じに酔いが回り絡み始めたキバナ。どうもダンデがご迷惑をおかけしているようで……その元凶として存在するのが俺なのが納得いかないが。既に3杯目に突入して随分思考が回らなくなってきてるようなので、キバナは放っておくことにした。

「することしてんでしょう。どうして心配になんかなるんでしょうね」
「……そんな目で俺を見るな。何もしてないぞ、浮気とか、そういうの」
「分かってますよ、ダンデ以外にそんな気が起きねーのは。でも心配されるってことは伝えてないってことでしょう。そういうことしてる時、ちゃんと伝えてます? 好きだとか、そういうの」
「好き…………」

情事の時に限らず、彼にその言葉を言うのを躊躇っていたのは確かだ。付き合ってないのだからと遠慮してきたのだが、それが逆効果だったらしい。そうなのか、言わなきゃいけないのか。面と向かって言えるだろうか? 考えているだけで気恥ずかしくなり、誤魔化すように酒を煽った。こんな真昼間から、3人で酒を飲み明かすなど……案外楽しいが、帰った時のことを考えると不安でならない。

「ちゃんと言うか」
「そうするべきかと。付き合おうってちゃんと言うんですよ。またアイツが不安にならねーように。相手の意見もしっかり聞いとくべきです」

ふと笑みを見せたネズが、単純なことだろうと目を伏せる。ああ、やっぱこの人、サイコーにかっこいいな。こうなりたいものだ。彼のようになりたくて付け始めたこんなアクセサリーなんかじゃ届きそうにもない。友達になれて良かったと思えた。

「……ごめん、俺先帰るわ。金ここ置いとくからお前らの分もどうぞ。足りなかったら自分で払って。話聞いてくれてありがとう、それじゃ」

数枚の紙をカウンターの上に置き、残っていた数滴の酒を飲み干した。大して喉も焼けないほんの少量だというのに、これからのことを考えると身体が火照り出す。戸を開けて外へ踏み出してみれば、景色は一段と明るくなったように見えた。


「……あいつらが付き合っちゃったら、オレが入る隙間なくなっちまうな」
「元々そんなんねーだろ、飲み過ぎです、そろそろやめとけ」
「ネズもオレに優しくない……やっぱ××に優しくよしよしされてぇな〜〜よしよしセッ」
「それ以上言ったら蹴り上げますよ」



逸る気持ちを抑えながら、必死に歩みを進める。帰ったらまずなんて言うべきか。というかダンデは帰ってきてるのか。それとも今夜は帰ってこないのか。同棲しているにも関わらず、俺達は思っている以上にお互いのスケジュールを把握していない。今日だって、もしかしたら仕事ではないのかもしれない。会見とか、取材とか、そういうのに追われてるのかもしれない。そう考えると少し心苦しいが、彼とて子どもでは無い。幼稚な解答はしないだろう。

伝えなければいけない。

今まで避けてきた言葉を、想いを、しっかり声に出して、正面から目を合わせて、伝えなければならない。そうしないと俺はまた、進めないまま後悔を重ねていくことになる。

ぐちゃぐちゃな脳内で整理もつかずにあれこれ考えていたらあっという間に我が家が目の前に迫っていた。今更怖気付いてどうする。今夜ちゃんと、言わないと。

「ただいま」

鍵の開いている扉に何の疑問も抱かず、静かに扉を開く。玄関に投げ出されている俺のモノ以外の外履きにも何の疑問も抱かず、廊下を進む。それはいつもの光景だったから。いつもこれが普通だったから。半端に開いたリビングの戸を見て、やっとダンデが帰ってきていることを認識した。一瞬ドキリと心臓が跳ねるが、身体は進むことをやめず容赦なく最後の扉を開いた。

「ただいま……ダンデ」
「っ……! ××、」

しゃがみこんでぐすぐすと泣いている彼の手には、ガラスのカップの破片が突き刺さっていた。

「っ! おま、なにしてっ」
「これ、××が割ったんだろう……? 何かあったのか? それとも、俺がなにかしてしまっただろうか……」
「たしかに割ったのは俺だけど、でもお前が触ること無いだろ。ほら、指見せて」
「ん」

何故ダンデが泣いているのかは分からない。なぜ破片を拾い集めようとしていたのかも分からない。けどボールを投げるこの大切な指からぷつりと溢れ出た赤い液体の存在に、うるさく心臓がなり続けた。

「素手で触るやついるか。これは俺が自分でちゃんと片付けるから先に治療……」
「…………すまない、迷惑かける」
「あ……いや、ごめんな、片付けようとしてくれたんだろう? 分かってる。強く言って悪いな。ちゃんと分かってるよ」

顔を俯かせたまま、床にぽたぽたと涙が落ちていくのをぼんやりと眺めていた。気持ちを伝えるとか、さっきまで考えていたことは全て消え去って、目の前で呆然としながら涙を流し続ける彼をどう宥めれば良いのか、そんなことばかりに気を取られている。

「どこに行っていた?」
「……食事。ちょっとわかんない事があって、ネズに話聞いてもらってた」

きっとここで、キバナの名前を出すのはまずい。そう思い片方だけにしたのだが……

「…………そうか」

必死に笑おうとしても笑えてないダンデ。涙は止まらない。もしかして本人は、自分が泣いていることに気付いていないのかもしれないな。教えてやるべきか、落ち着かせてやるべきか。

「××、話さなきゃいけないことがあるんだが」
「……奇遇。俺もある」

ぽろぽろ零れ続ける涙を親指の腹で拭い、視線を合わせた。するとダンデがハッキリと話さなきゃいけないことがあると言ってくれる。それはなんとも都合がいい。俺もそうだ、告白を、しなければならない。

「……でもちょっと待ってて、その血、止まるまでこのティッシュで抑えてな。俺はこれ、片付けちゃうから」
「ああ、ありがとう」

軽くパニックを起こしていたのが落ち着いてきたようだ。震えていた声は芯を取り戻し、いつも通り話せるようになっていた。涙も止まり、いつものダンデのように……とはいないが、素直に止血に専念してくれた。



そして初めに戻る。指先に貼られた絆創膏。隣に座る彼。目の前に広げられた週刊誌。無表情な彼。拳を握って焦りを隠す俺。そんな俺の顔を覗き込む彼。

「そ、そんなに見られると照れるぞ」
「あぁごめん。つい。で、これ説明して貰えるか?」

さっきまでの怒りが混じっていた声ではなく、優しく問いかけられる。たしかにこの写真は偽物ではない。このような場面があったのは事実だ。しかしお互いに恋愛感情など一切なく、抱き締めていた訳でもない。けど二人で食事に行っていたのは事実。お互い、溜まった鬱憤を晴らすためにお喋りをしただけ。

「これは……二人で食事に行っただけだ。理由は話したいことがあったから……」
「なんで抱き締めてるの?」
「段差に躓いた彼女が体勢を崩してこうなった。俺はもちろんそんな気持ちは無いし、向こうにもそんなに気持ちは無い」
「どうしてそう言い張れる?」
「…………その、」

これを言うのは少しはばかられた。彼女に誰にも言わないでくれと頼まれていたから。しかしこの相手に隠し事をするのは俺自身が嫌で、どちらかを裏切ることになると……

「恋愛相談を、受けていたんだ」
「……え、ダンデが?」
「ああ。……その女性、どうやら俺と同じようでな。同情というよりは共感から、つい」
「なるほどねぇ」

顎に手を付き考える仕草をする××。そんな彼もかっこいい。彼女の恋愛相談を受けていたのも確かだし、俺自身も恋愛相談をしていた。そう、同じだったのだ。想いを伝えられない、同性同士の恋愛。伝えるべきではない関係でも、好きになってしまったこと。重なりすぎていて、むしろ嬉しかった。仲間がいたのだと。

「…………まあ、そっか。疑う余地もないな。ダンデを信じるよ」
「ありがとう、というのもおかしいか? ……でも、信じてくれるのは嬉しい」

頬が緩む。彼に信頼されている、嬉しい。しかしあの割れたカップのことを考えるとどうにも冷静ではいられなかった。彼は怒っていたのだろう。俺が、怒らせてしまったのだろう。

「で? ダンデの話したかったことって?」
「あ」

帰ってきてすぐ、××に伝えたかったこと。今回の件でソニアから連絡を貰い、ついでに××のことを相談したら「さっさと付き合え」と言われてしまったので、告白というものをしようとしていたのだが……恥ずかしい、好きというのは慣れているのに、付き合ってくれなんて……言えそうにない。

「いや、俺は後でいい。××の話したいことが先に聞きたい」
「いいのか? ……いやでも、その、俺は」

恐怖でなかなか見れなかった顔を一瞬だけ覗き見た。額に汗をかき、照れたように首元を右手で弄っている。彼の癖だ。恥じらっている時の。

「恥ずかしいことなのか?」
「えっ、いや別に恥ずかしいってことは無いけど、その……」

俯いて「あー、その、えーと」と言い淀む彼が、不意にバッと勢いよく顔を上げ、俺の肩を掴んだ。そうすると視線が絡み、彼の揺れている瞳に映った己の間抜け面に笑い出してしまいそう。

「好き、だ」
「え………………?」
「その、ダンデのこと、好き。異性というか……性的な意味で」
「…………?」

今まで頑なにそれだけは言ってこなかった××が、顔を真っ赤にして視線を泳がせながらそう告白した。待て、なんだこれは。夢だったのか? 昨日のことから全部。肩に置かれた手は震えていて、その感触はたしかに彼のものだ。疑ってなどいない。目の前の男は俺が惚れた男で、ずっと、付き合いたいと思っていた相手。そんな人が好きだと、言ってくれた。

「俺も、好きだ。多分何回も言ってきたと思うが、××のことが好き」
「……いや、聞いたことない気がするのは俺だけかな。俺が寝てる時に言ってるのはカウントするなよ?」
「シてる時、さんざん言ってきた」
「それは…………うん、そうだったな」

言おうとして口を塞がれることが多かった気もするが、それでも伝えてきたつもりだ。ドロドロになっている時が多いから、自分でも記憶が曖昧だが。

「今回のニュース見てさ、ダンデが俺のだっていう約束が欲しくなったんだ。だから、ぜひ、ダンデさえ良ければ……俺と、恋人同士になってほしい」
「……! なるほど、そういう言葉もあったな」
「んん? なにが」
「付き合ってくれというのはどうにも恥ずかしく違和感があって。でもそれなら俺でも言え……ぁ……?」

自分は今なにを、と一瞬思考に耽り、その言葉の意味を理解した途端身体が熱くなった。リザードンの火の近くにいる時よりも熱く感じる。じわじわと焼くような、彼の視線が痛い。

「…………え、なに? もしかしてダンデもこれ言うつもりだっ」
「まっ! まて、待ってくれ! なんでもない、取り消し! 今のなかったことに……!!」
「しないよ」

表情が思い通りに動いてくれない。隠したい感情が隠せない。せめて顔を隠して逃げようとした右手が彼に取られ、しっかりと顔を合わせることになる。いつになく真剣な彼が、かっこよくて堪らない。

「無かったことになんてさせない。もっかい聞かせて、ダンデの気持ち」
「ぁ……そ、の」

射止められてしまってはもう逃げ場は無い。もうどうしようもない、伝えるしかない。そもそも、彼はちゃんと言ってくれた。好きだと、恋人同士になりたいと。俺も、返さなければ。

「××は! ……俺なんかを、恋人にしてくれるのか……?」
「なんかってなんだよ。俺はダンデがいいの。それを自分で否定しないで。俺の想いなんだから」
「ぅ……」

今まで一方通行だと思っていた感情が、相手からも見られていたという事実に心臓が跳ね上がる。そうか、あの行為も、言葉も、独りよがりなんかじゃなかった。彼は、××は、いつだって俺を見てくれていたんだ。

「俺も君が好きだ。ずっと前から、10年以上前から。だから……恋人なんかで終わらない関係になりたい」
「あ、そういうことだったのか。ふふ、気が早いんじゃないか?」
「今は恋人でも、いつかそれ以上になってくれるか」
「…………あれ、俺が告白したはずだったのに逆告白されている。というかプロポーズっていうんだぜ、それ。まだ早いぞ」

頭をぽんぽんと撫でられ嬉しくなった。気が早まっていく。恋人になっていいのだと思うと、それ以上を望んでしまう。傍若無人な態度をとってしまう。それでも彼は、俺の事を嫌いになったりはしないのだ。

「ああ、そうだな! 今まで何をそんなに不安がっていたのだろう。バカバカしく思えるぜ。今日から、いや今から! 俺と××は恋人だ!」
「……あっはは! お前らしいや。人の人生初告白を中途半端なものにしやがって。そういうとこだぞ、俺が好きなの」

たまらず彼に抱きつき、首元に顔を埋めて情けない顔を隠した。今、俺、最高に幸せだ。背中に回る彼の腕から伝わる体温が暖かい。今までこんなに想いのこもったハグをしたことがあっただろうか。ダンデ、と名前を呼ばれ彼の顔を見る。顎を持ち上げられ、髪をくしゃりと巻き込みながら頭を抑えられた。そのまま重なる唇。やさしい、こんなにやさしいキスがこの世に存在したのか。今までの物がお遊びに思えるほど違うように感じた。もっとして欲しくて、離したくなくて、彼の首に腕を回す。俺の体格で細身の彼に抱きついても揺らぐことの無い彼が好き。少しだけ驚いたようにぴくりと肩を跳ねさせただけで、変わらずキスを続けてくれた。

「ん……! ぅ、っ……はぁ……」
「んん? ふ……っ、ダンデ、舌出して」
「あ……んむっ」
「は……、ん」

くちゅ、ぴちゃ、と音が響き舌を吸われる。上から垂れて流し込まれる唾液を飲み干したくて口を離そうとするも、頭を強く抱えられて許してもらえない。飲み込めず口の端から零れるのはどっちの唾液なのだろうか、ぼんやりと考えながら貪られる快感に浸った。腰が揺れて、もっと先を求めてしまう。こんなに淫らでは嫌われてしまうだろうか。

「っは……はは、かわいい。シたい?」
「…………ん、」

彼の薄い胸板に触れ、彼のキスのせいで酔眼したまま言葉を発するべく口を開くも何も出てこない。まともな単語は喋らず、出るのは喃語ばかりで意思が伝わりそうにもない。

「うん、分かった。とりあえずダンデ、ひとつだけ聞かせて」
「ん……?」
「お前のこと……一生大事にしていいか」
「……………………うん、してくれ。大切に、丁重に、」

時に優しく、激しく愛して欲しい。彼のわがままを聞き、彼にわがままを聞かせ、俺にとっての全てにして、彼の全てになりたい。

「愛してくれれば、なんでもいい」
「良い答え。じゃあいこっか。持ち上げるぞ」
「ん」

体格差なんてものともせず、お姫様でも扱うかのように抱き上げられる。彼の腕の中で、彼の首に顔を埋めてリラックスできることのなんと幸せな事か。もうここは俺だけの場所。俺の物。俺の人。俺の恋人。俺の彼氏。

ところで、プロポーズなんじゃないのか? それ。

その晩、もちろん優しく抱いてもらったし、たくさんキスもした。今までとなんら変わらない行為であっても、気持ちが通じるだけでこんなに救われるような気分になるのだ。彼に恋をした俺の選択は間違ってなどいなかった。これからももっと、好きになっていく。あの時と変わらない好戦的な瞳に、またバトルを挑まれる日を楽しみに待ちながら。


後日________

「あっ! ダンデさん!」
「ん、君か」
「お久しぶりです!」
「……たしか、女優の」

おかずの買い出しという名目で彼とデートしている時だ。街中を歩いていたところを彼女に見つかった。そう、彼女はあの日俺と雑誌に載った例の女優。お互いに恋愛相談をしていた人だった。

「ま、まさか抜け駆け!? 私を置いて先に告白したんですか!?」
「すまない……付き合えてしまった……」
「うぅ〜〜!! 信じてたのに! ダンデさんよりは先に告白できると信じてたのにー!!」
「ついていけねぇや」

俺と彼女の会話についてこれない××がかわいい。戸惑ったように頬を掻き、俺の腰を抱き寄せるのがかっこいい。独占欲の表れだろうか? 好きだ。

「あ! あの、××さんですよね! ダンデさんから聞いております!」
「ああうん、なんで聞いてるのかはなんとなく察したけど、初めまして。××です。よろしくね」
「こちらこそ! あの件はおそらくお騒がせしたと思いますが……」
「全然大丈夫だよ、気にしないで」

大丈夫ではなかっただろうに。お気に入りのカップを割るほど怒りの炎を燃やしたり、ネズに相談したり、あとキバナの事も聞いた。あの二人に相談なんて××なら滅多にしないことだ。相当悩んでいたのか。

「私もダンデさんと似てて……好きな人居るんですけど、なかなか言えなくて。2人で作戦立ててたんです。……先越されちゃったけど」

恨めしそうにこちらを睨む彼女。サングラスを付けているあたり、今日はオフなのだろう。

「今日はルリナはいないのか?」
「ルッ……!! ルリナさんは今日もお仕事ですぅ!! だいたい、ルリナさんとデートなんて私っ……私!! 考えただけでどうにかなっちゃいそう……!」
「あーーーー、なるほどね」

そう、彼女の想い人とはルリナのことだったのだ。彼女が芸能界入りした理由で、憧れで。その信仰の強さには、宗教じみたものを感じる。

「付き合ってないの?」
「告白なんてできないですよ!! ……私になんて、興味もないでしょうし」
「ダンデもそうだけど、君も自己肯定感が低いな。もっと自惚れて生きてってもいいんじゃない? 案外ルリナさんも君のこと好きかもよ」

俺たちみたいに、と付け足された言葉は余計なようにも思えたが彼なりの反撃だろう。彼女には効いていないが。

「好き……? ルリナさんが……わたしを……」
「俺はルリナさんと会ったことないから分かんないけどね。だからダンデに相談してたんでしょ? と言ってもダンデじゃ大したアドバイスとかできてないと思うけど。興味無さそうだし」
「ゔっ」

事実である。彼女の境遇は確かに似ているものであったが、興味があるかと問われればそうではない。単純な共感を求めただけだったからだ。

「まあそんな気はしてましたし気にしてませんけど……ルリナさん、今度一緒にバラエティの撮影に出る事になったからお誘いしてみようかしら……」
「小さな積み重ねが大切なんじゃない、頑張ってね。ああ、あと」

ぐいっと引き寄せられた。大して身長差もないので彼の首元にこてっと頭を預けただけだが、公共の場でこういったことは、とても、恥ずかしいというか

「ダンデとご飯行く時は今度から俺もついてくから、それだけ理解しといてくれると助かるな」
「…………もうダンデさんは誘いませんよ、まともなアドバイス貰えなさそうですし」
「そっか! なら助かる。話なら電話で聞くからさ。出れなかったらごめんね」
「××さんが謝るんですね?」
「まあ、コイツが電話出れないのって仕事中かそういうことしてる時かのどっちか」
「××!?? それ以上は!!」

爆弾を落とそうとする彼の口を両手で塞ぎ、彼女に手を振りながら挨拶をしてその場を離れる。なんてことを言ってくれるんだ。

「君という人は……」
「……顔真っ赤。はは、恥ずかしがってんの?」
「当たり前だろう。せっかくのデート……いや買い出しなのに」
「へ〜、じゃあさっさと終わらせて家帰るか。お前の為にもな」

人のこと言えないくせに、と彼の脇腹を小さく肘でつつく。ヴッと呻き声が聞こえたが気にしない。××が悪い。

「ダンデ、あの子の恋応援してんの?」
「応援はしている。……結果は、気にしていない」
「案外淡白だよな。そういう所が好きだけど」

××が、カッコイイのが悪い。