初めてのお酒

夢主が20歳になった頃の話


「は、初めてのお酒」
「緊張してるね、怖い?」
「はい……吐き散らしたらすみません……」

 私の20歳の誕生日……は先日イタリアで仕事をしていた際に過ぎてしまったのだが、日本に帰国して自宅に戻った今夜、恭弥さんの部屋で私の20歳祝いとして高級な日本酒を開けようということになった。目の前に鎮座している一升瓶、流石にこれを全部飲む訳では無いが、アルコールが入った自分がどんな行動に出るか分からない。そもそも強いか弱いかも分かっていない。アルコール消毒で皮膚がかぶれたりすることはなかったが、喉や胃が耐えられるかは未知である。

「開けるよ」
「お願いします」

 恭弥さんが慣れた手つきで栓を開けると、日本酒独特の香りが部屋に広がってクラクラした。匂いだけで押されてどうする、私はボンゴレの守護者なんだ、これくらいで負けないんだ……。

「うう、お酒って感じです……」
「当然でしょ、酒なんだから」

 やっぱり甘いカクテルや芳醇なワインの方がよかっただろうか、恭弥さんがいつも飲んでいるものとお揃いが良くて日本酒がいいと言ったが、アルコール初心者の女には厳しい選択だったかもしれない。しかしイタリアで本場のワインを飲んでみたいと話した時、恭弥さんの機嫌が悪くなったので彼も一緒に日本酒を飲みたいと思ってくれているのかも。だったら嬉しいからもう少し頑張ってみようと意を決して唾を飲み込んだ。

「初めての君でも飲みやすいように、甘い物にしたんだけど。合わなかったらやめてもいい」
「ありがとうございます、いただきます」

 お猪口に注いでくれた少量のお酒を口元に持っていく。近い位置で嗅ぐとさらに匂いが強く、このままだと怖気づいてしまいそうだと思い切ってグッと口へ流し込んだ。

「んく……む、ん!あ、美味しい!」
「それなら良かった。これは君のために買った特別な物だから、好きなだけ飲んでいいよ。僕は自分のを持ってくる」

 そう言って立ち上がり部屋を出ていった雲雀さんの背中を見ながら、ちびちびと残りを飲み器を空にした。
 それにしてもこの濃厚な口当たり、想像していたよりずっと飲みやすい!口に入れた途端広がる甘みと香りが、ただ鼻から嗅いだだけの香りと違って喉を熱くする。雲雀さんが帰ってくる前にもう一杯いただこうと、自ら瓶を持ってそのお猪口へ注いだ。今度は味わいながらぐっと一気に飲んでみる。舌の上を滑り味蕾を刺激した後、アルコールで体まで暖めて血の巡りを良くした。こんなに美味しいなら、初めてが日本酒で正解だったかも!雲雀さんも満足そうな顔してたし……

「もう一杯……いいかな」



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 驚いた。まさか彼女がこれほど酒に弱いとは。

「んにゃぁ〜きょーやひゃん!どこいってたんれすか!!」
「自分の酒を取りに行くって言っただろ、それより××、飲むペースが早すぎるよ」

 秘蔵庫から年代物のお気に入りを持ち出して乾杯でもしようと思ったがそれは叶わないようだ。目を離した隙に追加で何杯が飲んだらしい彼女は、床をごろごろと転がって僕の足元に抱き着いた。

「早くないです!きょうやさんが遅いんです〜〜」
「着物、乱れてる」
「え〜?わかんない……そんなのいいから飲みましょうよぉ」

 焦点の合わない目が、アルコールによる発熱のせいかやけに涙で濡れていた。その状態での上目遣いだけではなく、僕に抱きついて胸元に頬擦りまでしている。この状況自体は僕にとっては好都合であり、今のうちに普段は聞けないことを聞いておくのも良いだろうと彼女を引き摺りながら所定の位置に戻り、自分の酒の封を開けた。

「恭弥ひゃんそれ飲むの?いいなー」
「君にはまだ辛口は早いよ」

 彼女に用意したのは甘口の酒の中でも更に飲みやすいよう製造された特別な1本だ。それでも日本酒の香りにはまだ慣れていないようで顔を顰めていたのも知っている。そんな彼女に無理に辛口など飲ませる必要はない。そう考えながら自分の杯に酒を注ぎ、それを口元へ運び香りを楽しみながら口に入れ――

「いいなー、貰っちゃえ」
「……ん」

 両頬を掌で包まれたかと思えば、彼女は小さい唇を僕の口に重ね必死に口内の酒を貰おうと舌を差し出す始末。

「んむ、ぅあー……っく、んぐ!?こ、これちょっと、スーってする!」
「っは、君にはこっちの方がいいだろ、ほら」

 向こうのペースに乗せられないよう挑発的な誘いを流し、×× のために用意した酒瓶に軽く口をつけ、中身を自らの口に含んだ状態で彼女に口付ける。

「んむ!? うぅ、ゆ……ッ」
「ん……」
「ふ、ぁ、きょーやひゃ……」
「零れてる」
「え、ごめんなひゃ」

 開いた口の端から顎を伝う酒を親指で拭い、そのまま彼女の唇を撫でた。柔らかい、アルコールのせいか熱を持っている。下唇を撫で続けていると、彼女の舌が指先を舐めてきた。

「恭弥さん……もっと……」

 熱を孕んだ目で見上げられ、もっととキスを強請られているのにしない理由はない。もう一度溶けるほどどろどろに甘やかすキスをしてやろうと顔を近づけた――が。

「もっとお酒……飲みましょうよぉ……えへへ〜」
「……君には今後酒は飲ませない。外で飲むのも禁止する」

 酒に負けたことか、はたまた勘違いさせるような事を言う彼女にか。燃え上がった欲を一瞬で冷めさせた言葉に怒りを覚え、今後彼女には酒を飲ませないと誓った。


 尚、数ヶ月後に僕に隠れてひっそりと酒を飲む彼女を観測した。