ある雨の日の出会い(ラース・A)
【ある雨の日の出会い】
突然襲ってきたゲリラ豪雨に、人々は烈しい雨の中を駆け足で逃げて行く。
ラースも雨にやられ、ようやく逃げ込んだのは古い家屋の軒下だった。
「参ったな」
今日はクライアントとの初めての顔合わせの日なのに、よりによって雨に祟られるとはついていない。
「あのう、これをどうぞ」
「?」
声をかけられ、初めてラースは自分の他にも人がいる事に気が付いた。
「私二枚持っているので、どうぞ使って下さい」
微笑みながらタオルを差し出している女性。ラースは淡いデジャヴュを感じていた。
(どこかで会った事があるのだろうか?)
記憶を辿るが思い出す事は出来ない。
「あの……?」
じっと顔を見つめられている事に気付いた女性は、ちょっと困った表情でラースを見ていた。
「……すみません。ありがたく使わせていただきます」
女性の視線に気付きラースは慌てて視線を外す。
「……」
「……」
ラースは濡れた身体をタオルで拭きながら、ちらりと女性を見つめた。
整った顔立ちの美人な女性だった。セミロングの黒髪を一つに結いあげている。夏用のパンツスーツをすっきりと着こなし清涼感があふれている。
彼女は降り続ける雨を静かに眺めていた。
「ひょっとして雨がお好きですか?」
じっと微動だにせず雨を眺めている女性が気になり、ラースは声をかける。
「雨は全てを洗い流してくれて新しい季節をもたらしてくれます。だから雨は好きですわ」
ラースの問いに笑顔で女性は答えてくれた。
それから二人は他愛のない話しをしながら雨が止むのを待っていた。
やがて雨は止み眼前には真っ青な空に白い雲。目に鮮やかな風景が広がっていた。
「それでは失礼致します」
「お気をつけて」
二人はそれぞれの方向へと歩き出した。
―――――数ヶ月後。
ラースは李超狼と会うためにヴァイオレット社に東郷と共に出向いていた。
「本日14時に李社長と面会の予約をした東郷と申します」
「!?」
ラースは受付の女性に息を呑んだ。
「少々お待ち下さいませ」
ラースには気付かず慣れた手つきでパソコンを操作する黒髪の美しい女性。
「東郷様、本日予約の確認が取れました。ニ名様でよろしいでしょうか?」
女性はビジター用のカードを二枚差し出す。どうやらラースには気付いてないらしい。
「すみません」
ラースは東郷を押しのけ受付の女性に声をかける。女性の視線がラースに注がれた。
「うそ……?」
女性の瞳が大きく見開かれた。信じられないといった表情をしている。
「またお会いしましたね」
ラースは柔らかく微笑んだ。
「はい」
女性もつられて笑顔になる。
「お名前を伺ってもよろしいでしょうか?俺はラース・アレクサンダーソンです」
「私は七瀬ナーナと申します」
数ヶ月前のあの豪雨の日に出会った二人は、まるでそれが当然であるかのように再会した。
「おい!」
いまいち状況が見えない東郷が二人の間に割って入る。
「ラース何なんだ?」
「何って言われてもな」
「あ、李社長との面会時間過ぎてます。お急ぎ下さい」
二人の言い合いが始まりそうな様子にすかさずナーナが間に入る。
「そうだった!ほらラース行くぞ」
「ではナーナさんまた後ほど」
ビジター用のカードを受け取り二人はエレベーターに急いだ。
二人を見送ったナーナはフーッとため息つく。
━━━━こんな偶然があるのだろうか?
「ラース・アレクサンダーソンさん。か」
彼の名前を口にしてみると、不思議と胸が高鳴る。
あの日言葉を交わした時から気になっていた人だった。
今までずっと心の中しまっていた気持ちが騒ぎ出した。
「七瀬ナーナさんか。いい名前だ」
李の部屋に向かうエレベーターの中で、ラースは彼女の名前を口にしてニヤニヤと笑っていた。
「だから何なんだ?」
さっきから問い掛けているのだが、一切答えないラースに苛立ちながら東郷は問い詰める。
「巡り会いってやつだよ」
「答えになってないぞラース」
東郷はラースに掴み掛かろうとするが、タイミングよくエレベーターは最上階に到着する。
「後で絶対吐かせてやる」
「はいはい」
エレベーターから降りたラースと東郷を容姿端麗な美人秘書が出迎えた。
偶然が重なり合い再会したラースとナーナ。
これからどのように二人の関係が変わっていくのか、今はまだ誰も知らない。