5.明日は春(風間仁)
5.明日は春
隣で眠っている彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出した。
素肌にシャツを羽織るとナーナは窓辺に足を運ぶ。
静かにドアを開けテラスに出てみると、まだ冬の名残を残した風がナーナの頬を撫でて行く。
夜明け前の西の空には、有明の月が名残惜しげに夜空を照らしていた。
「……ふぅ……」
自然と溜息が出る。
眼下に広がるのは光の洪水と、眠らない摩天楼群。
ここには自然が感じられない。
もう屋久島を離れてどれくらい経ったのだろうか。
幼なじみである風間仁に連れられて、彼の側で様々な仕事に関わってきた。
仁は現三島財閥頭首で、現在全世界を相手に戦争を起こしていたのだ。
「……ナーナ?」
目を覚ました仁は、隣に寝ているはずのナーナの姿が見えない事に気が付いた。
慌てて起き上がり部屋の中を見渡す。
不意に微風が仁の頬を掠めて行く。
テラスにナーナが佇んでいた。月明かりが彼女の物憂げな横顔を照らしている。
━━━━胸騒ぎがした。ナーナが消えてしまうのではないかと。
仁の身体は自然とテラスへ向かっていた。
「ナーナ!!」
名前を呼ばれ振り返った瞬間、いきなり抱きしめられていた。“キャァ”とナーナは驚いて小さな悲鳴を上げる。
「もう!いきなりビックリするじゃない」
顔を上げて抗議しようとした。しかし、身体に回された腕が、密着する仁の身体が、微かに震えているのにナーナは気が付いた。
「仁?」
「ナーナが消えそうで……」
仁の言わんとしている事に気付いたナーナは、彼の背中に回した腕に力を込めた。
「大丈夫よ。私はあなたを置いていなくなったりしない」
「ナーナ…」
仁は最愛の母親を突然失った過去を持っており、その事にトラウマがあるのをナーナは知っていた。
「仁も私の前から黙っていなくならないでね」
約束だよとナーナが笑う。仁もそれに応えるように笑うと、そっとナーナに口づけた。
その時一陣の優しい風が、二人を包み込むように吹き抜けていった。
明日は春