4.一緒にいるだけ(風間仁)
4.一緒にいるだけ
クラスメイトで友人である神谷真に連れられて、仁は学校近くの神社に来ていた。
今日は三島高専の近くにある木人神社の夏祭りが行われている。
参道にはずらりと露店が並びたくさんの人で賑わっていた。
「凄いな」
「本当だ」
二人は人混みを掻き分けるように約束の場所に向かっていた。
ようやく参道を抜けて境内に入ると約束の場所には浴衣姿の女の子が二人で待っていた。
真の彼女の凜と彼女の友人のナーナである。
「……真…お前っ!?」
「気付いたかい仁?」
何かに気付いた仁が真を見ると彼はニヤリと笑っていた。
「じゃあ後はよろしく。(上手くやれよ仁?)」
「おい真!」
仁に耳打ちをし、笑いながら凜と仲良く手を繋ぎ人混みに消えて行く真。残されたのは仁とナーナだけだった。
「……行っちゃったね」
「全く、真の奴」
残された仁とナーナは顔を見合わせて苦笑いした。
「ここにいても仕方ないから俺達も行こうか?」
「あ……うん」
繋がれた手と手。大きな仁の手がナーナの手を包んでいた。ナーナは驚いて仁を見つめる。
「人が多いから逸れると困るだろう?」
そう言った仁の顔は少し赤かった。
「ここね穴場なんだ」
ナーナの胸元には仁が射的で取ったペンダントが光っている。
初めは緊張していた二人だったがすぐに打ち解け合い祭りを楽しむ姿は、まるで恋人同士のようだった。
「それにしても良くこんな場所を知ってたな」
「去年凛とはぐれて歩いていたら、偶然見つけたの」
仁とナーナは花火会場を見渡せる小高い丘に来ていた。ここからは花火会場が一望出来るが、二人の他に人は誰もいなかった。
「人、いないね」
「俺たちだけか?」
二人が同時に放った言葉は同じもの。変に意識してしまう。
ぎこちない空気が二人の間を流れていった。
やがて花火が打ち上げられる。ぎこちない空気を取り払うかのように、色とりどりの花火が夜空を彩っていく。
「綺麗!!」
「凄いな!」
思わず漏れる感嘆の声。大小様々な色や形の花火が次々と打ち上げられていく。
二人はその光景にしばらく目を奪われていた。
ふと仁は隣のナーナ#を見つめる。瞳を輝かせて花火に魅入っているナーナが綺麗だと思った。
真がお膳立てしてくれた今日。ナーナとはクラスが違うが委員会で出会った。明るくてちょっとおっちょこちょいなナーナから目が離せなかった。
『仁ってさ七瀬の事好きでしょう?だって彼女といる時のお前の態度、明かに違うもんな?』
真の言葉で仁は初めて自分の気持ちに気付いたのだ。
「……七瀬?」
「?」
呼ばれて仁の方に視線を動かすとナーナを真っ直ぐに見つめている仁の瞳があった。
「風間、くん?」
「俺……」
さっきまでとは違う仁の様子に少し戸惑っていたが、彼の自分を見つめる瞳に胸がトクンと高鳴った。
花火はクライマックスに向けて次々と大きなものが打ち上げられている。
「俺は……七瀬が好きだ……」
「!!」
その時ひときわ大きな花火が夜空を明るく照らし、二人の横顔を写し出していった。
新学期が始まり二週間が過ぎていた。
放課後帰り支度をしていた所を真に捕まってしまった仁は、夏祭りの事を根掘り葉掘り聞かれていた。
真は新学期が始まってもなかなか登校して来なかった為、今日が初めてだった。
「好きだって伝えたらナーナも同じ気持ちだって分かった」
顔を赤らめながら仁は真の質問に正直に答えていた。
「それだけか?」
「それだけって……。おい真!お前何を言っている!?」
真の突っ込みの意味を理解した仁の顔が、カアッと赤くなる。
「やれやれ……」
お手上げと言わんばかりに真は両手を上げた。
「じーん!帰ろう!!」
廊下から仁を呼ぶ軽やかな声が聞こえる。
「真、じゃあ俺行くからな」
仁はその声に弾かれるように立ち上がると教室を出て行った。
二人は並んで下駄箱まで歩いた。今日の出来事を報告しあう。
「古典の課題やらなきゃ駄目だから今日は図書館に寄ってもいい?」
「構わない」
仁はナーナの手をそっと握った。
このナーナと過ごす穏やかな時間に、仁は幸せを感じていた。
一緒にいるだけ