押して駄目なら引いてみろ(NARUTO)
伝説の三忍の存在は、幼き日の私の心を熱くさせた。もっと分かりやすく言うのならば、彼ら彼女らに夢を見たのだ。

同時に発動させる口寄せの術は圧巻、けれどまた個々の能力が素晴らしいからこその迫力なのだと知る。

中でも自来也様への「憧れ」は凄かった。一際派手に力強く放たれる火遁。私では到底足元にも及ばないであろう、仙術。ただ派手なだけじゃない、繊細かつ派手なのだ。

私も自来也様のような忍になりたい…!!

追いかけて追いかけて、ついに、自来也様にお近付きになれた。ナルトへの修行を付けるという自来也様は、いくらか木の葉の里に滞在するという。

今までにも度々木の葉に戻って来られた事があるものの、それは一瞬の出来事。用事を済ませればすぐに旅立ってしまい、挨拶を交わす程度の話しか出来なかった。

だからこそ、修行の無い合間にお近付きになりたいと、ストーカーだと思われない程度に自来也様の元へ通った。どれだけ自来也様に追いつきたかったか、どれだけ自来也様が素敵か、時間の許す限り話した。

そのうち自分ではかなり親しくなったと思うようになったが、結局自来也様は私の事をどう思っているのか、いまいち分からないままでいる。

しかし急がねば。また旅立たれてしまえば、今度はいつ会えるかもまた分からない。


「ナーナは頑張り屋さんだのぅ。強さは努力、諦めないってのはいずれ自らの力となる」


自来也様は、いつものように大きくてゴツゴツした手で私の頭を撫でる。


「じ、自来也様!もう子供ではありません、恥ずかしいのですが…」

「おお、それはすまんかった。ワシにとっては、いつまでたっても可愛い里の子らよ」


優しく細められた目からは、全てのものを包み込んでしまう程の愛情が垣間見えた。

この笑みを独り占めしたい。…醜い感情に気付いてしまった時、同時に私の中の「憧れ」は崩れ落ちていた。

いつの間にか、それは「恋心」へと姿を変えていたのだった。子供だと思われたくない。一人の女として、私を見てほしい。


「自来也様…」

「ん?どうした、そんな改まって」

「私は自来也様をお慕いしております。それはただの憧れではなく、男性として、です」

「…」


自来也様は、困ったように眉を下げる。俯いたままの私の頭を一度だけ撫でて、ゆっくりと、それでいてハッキリと、返事をした。


「ナーナはまだ若い。恋心と憧れは、似て非なる存在よ…」


その言葉は、遠回しに私の失恋を意味した。

「暗いねェ、本当にどんよりしてる。そんな顔されるとこっちまで気分が悪くなるんだよ、ナーナ」

「申し訳ございません、綱手様。…はぁ」

「だからため息を吐くなって言ってんだろ!」


再度同じ台詞で謝罪の言葉を述べる。まぁまぁと宥めるシズネさんを横目に、私はベンチの上で縮こまった。

目の前に広がる小さな池で、真っ赤な鯉がポチャリと跳ねる。


「いつも煩い程明るいナーナが、こんな所で座っているのも珍しい。何かあったんだろう?」


そう言いながら横に座る綱手様の優しい言葉に、涙が溢れそうになった。

この里の火影は、どうしてこうも温かい方ばかりなのだろう。三代目様の時も、こうして話を聞いてもらった事があったっけ。


「綱手様、実は…」


私は何一つ隠さず、全てを話した。

今更恥ずかしがる事なんて何も無い、私が自来也様に憧れを抱き追いかけていた事ぐらい、この里では有名な話だ。まさかそれが恋愛感情に代わっているとは、誰も思っていなかっただろうけど。

全てを聞き終わった綱手様は、口元に手を当てて、何か考えているような素振りを見せた。


「こりゃ驚いた…あの自来也が、年下の女の子にねぇ。確かナーナとは、20程歳の差があるんだったか?」

「そうですね、圧倒的にそこが原因なのも分かっているのですが、年齢など関係無いと私は思うのです」

「まぁ、あいつも心は少年のままだからな」


好きになってしまえば、そんな事は関係無い。本当に嫌われているのならどうしようも無いが、自来也様の断り方に嫌悪感は無かったと思う。

どうしようも無い部分ではあるし、生まれた時代が少しだけズレていただけだ。私が自来也様より年上なら泣く泣く諦めていたかもしれないけれど、年下ならば話は別。一度突き放されたとて、すぐに諦めてしまう程、簡単な想いじゃなかった。

それは今の私だからこそ分かる、絶対的な自信。自来也様の事が、好きだと言う心。


「少し面白い事を考えた。上手くいく保証は無いが、ちょっと乗ってみないか?」

「…と、言いますと」

「自来也は女に優しいが、何も想っていない奴に構う程暇な男でも無い。もし可能性があるとすれば…」


綱手様の考える「面白い事」、耳打ちされた内容はあまりにもぶっ飛んだ作戦だった。

成功するとはとても思えないが、自来也様を誰よりも近くで見守ってきた綱手様が考案したのだから、きっと光はあるのだろう。私は大きく頷いた。

作戦の日取りは、約一か月後―――。

里の外れにある、小さな教会。黄緑と白に彩られた式場は、とても綺麗で豪華なものだった。

来客席は綱手様とシズネさんのみ。ウェディングドレスには花とリボンがあしらわれ、けれど下品な飾りではなく、色が統一されているからか落ち着いた印象を受ける。

となりに立つ彼を見上げてみれば、私より顔一つ分ほど身長が高く、整った顔立ち。


「すみません、カカシさん…」


相変わらずマスクはしたままのその顔だけれど、細めた目を見れば優しく笑っているのだと分かる。


「いーのいーの。綱手様とナーナの為なら、たまにはこういう楽しい任務も悪くないからね」


丁度私と年齢の近いカカシさんのおかげで「花嫁争奪、偽装結婚式作戦」は始まったのだった。

要するに、私は一か月前に失恋をしたばかり。けれど嫌いだから振られた訳では無いという所で、少しでも気があるならば、式に飛び込んででも花嫁を攫って行くだろうという綱手様の考え。

傷付いた心を癒してくれたイケメンとスピード結婚…そんなドラマみたいな事を。と思いつつ、女性ならばそういうシチュエーションは大好きなので抗えない。


「自来也様…本当に来てくれるでしょうか」

「大丈夫だよ、多分ね」


結婚式の事は、偽装なのは内緒で、ナルトだけに伝えたとカカシさんは言う。誰にも言わないでね、との言葉も付け足して。

本気で驚きながらも、祝福してくれる彼の姿が目に浮かぶ。

ただ、どれだけ「内緒」だと言っていても、ナルトの事だ。耐え切れなくなって、仲の良い誰かには話してしまうはず…というのがカカシさんの作戦である。


「もしナルトが誰にも話さなければ、というか自来也様の耳に入らなければ、意味無いですよね…?」

「その時は、俺とハネムーンしよっか。この格好で里中歩いていれば、どうにかなるでしょ」

「里中巻き込むつもりですか!?」

「五代目のお許しさえあれば、何でも出来るよ」


チラリと綱手様の方を見れば、グッと親指を突き立てられる。あれ、もしかして皆楽しんでる…?小さくため息を零しながら、私はスッと前を向いた。

もう式は始まる。

カカシさんの腕に手を回し、ゆっくりとバージンロードを歩いて行った。一歩進む事に高まる緊張と、不安。

私は何をしているのだろう。確かに面白い案だとは思うし、コスプレしているみたいで楽しいのだけど、もし上手くいかなかった時が怖すぎる。

そんな事を考えているうちに、今回の式を見届けてくださる牧師さんの前まで着いていた。足を止め、少し目線をあげる。


「…アスマさん!?」


小さくウインクを投げられて、ポカンとした表情を浮かべてしまう。確かに誰がこの役をやってくれるのだろうとは思っていたけど、アスマさん、優しい顔してるからちょっと似合う。

何だか可笑しくなってきて、私も「お願いします」の代わりにウインクを投げ返した。

しかし雰囲気があるのは見た目まで。
誓いの言葉はうろ覚えで交わされて、少しおかしな言葉もあったけれど、何とか無事に終わったようだ。

私はカカシ先生と向き合い、少し腰を落とす。ヴェールを脱がされるのは、中々恥ずかしく緊張するものだ。


「ナーナ、ちょっとだけごめんね」

「…はい」


目を閉じる瞬間、カカシ先生のマスクがズラされるのを見た。忍で無くても相手の気配が分かる、それ程までに空気は張りつめていた。

すぐそこにカカシさんの顔がある、あぁ、あと数十センチ、数センチ…。

「そこまで」


カン、と下駄の音で目を開ける。

後ろから抱き締めるように、私の口元にあてられた手は紛れもなく、愛しい彼のものだった。


「これはどういうつもりだ?いつもの如く悪ふざけかと放っておいたのだが、カカシ。お前本気でこいつに口付けようとしてただろう」

「…えっ!?」

「ははっ、自来也様には敵いませんね」


パっと離れて笑うカカシさんを見て、背後から静かな殺気が感じられるようだった。驚きにカカシさんの顔を見るが、その表情からは何も読み取れない。

しかしその殺気を打ち破ったのは、流石の綱手様。


「おい自来也!!こんな神聖な結婚式の、一番盛り上がる所で邪魔をしたんだ。それはつまり、どういう事か分かっているんだろうな?」

「いや、綱手これは…」

「またそうやって言葉を濁して、ナーナを泣かせるつもりかい?」

「…あぁもう煩いのぅ!!」


一気に吹き飛んだ殺気の代わりに、焦りが垣間見える。やはり綱手様に責められるのは苦手なようで、自来也様は私を素早く横抱きにすると、式場を飛び出したのだった。綱手様が手を振っていたのが目の端で見えたような気もするがあまりにも一瞬の出来事すぎて、頭が追い付く前に、ただただ私は自来也様にしがみつく事しか出来なくて。

ゆっくりと落ち着けたのは、火影岩の上まで来た時だった。横抱きにしたまましゃがむものだから、丁度膝の上に座る形となる。

頭を撫でられるぐらいが最大のスキンシップだったのに、突然ここまで密着するとなると、流石に心臓がもたない。


「じ、自来也様…」

「…すまんかったな、ナーナ。式を台無しにしてしまった。どうせ、綱手の遊びに付き合ってやっただけだろうがのぅ。ま、カカシは綱手の為なら何でもこなす男だからな」


確かに、誓いのキスをする瞬間のカカシさんに迷いは見られなかった。いかに自来也様を本気にさせるか。それだけを考えて動いていたのだろうと、落ち着いた今なら分かる。

それにしても自来也様には、何でもお見通しのようで。ナルトが秘密を喋ってしまった時から、もう既に気付いていたのかもしれない。けれど誓いのキスの瞬間に出てきたと言う事は、最初からどこかに隠れて式を見ていたのだろうか。


「自来也様に嘘は吐けませんね」

「ナーナは素直で一途だからな。そういう女は、嫌いじゃない」

「…。私、あれから憧れと恋心の違いを考えました。自来也様は似て非なるものと仰いましたが、似ているならそれで構いません。だって私にとって自来也様は、憧れの存在であり愛すべきお方なのですから」


矢継ぎ早にそう言い終われば、直後に塞がれる唇の温もりに目を見開く。頭が真っ白になって、呼吸の仕方を忘れてしまったのだ。

離れるまでたった一秒。けれど触れたかどうか分からない程のそれは、体感的には永遠とも思える時間で、私は死んでも良いとさえ思った。


「あの、あ、の…」

「カカシと触れそうになるのを見て、居ても立ってもいられなかった。難しい言葉を並べてみても、結局はシンプルな話よ。頭で考えるより先に体が動く、それこそが本当の自分の気持ちなのかもしれん」

「自来也、様…本当に、ならば私と同じ気持ちだと捉えても良いのですか…?」


もう一度瞬きでもすれば、雫が零れ落ちそうな瞳を親指で拭われた。小さく頷いた自来也様に思いっきり抱き着くと、腰に回される腕に幸せを噛みしめる。

あんなに遠かった彼が、今は私の腕の中に。忍としてはまだ同じ場所には立てないけれど、でもただの女として、傍に立つ事が叶った。


「まさかこの歳で、心を揺さぶられるとはの」


誰に言うでもなく呟いた言葉は、困惑というより、愉快だとでも言わんばかりの声色だった。

明るくも傾いた日が、二人の影を伸ばしてゆく。空がオレンジから黒に変わるまで、二つの影は、離れる事は無いのだった。

〜END〜

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虹色の金平糖 ギルル様より頂戴した、リクエスト作品です。
NARUTOは自来也様が大好きで(アニメ派)お願いしました。綱手様素敵です。
素敵なお話をありがとうございました!

不知夜月