砂漠の夜明け
月明かりが眩しくて目を覚ましたナーナはそっと起き上がると、そろりその場から離れた。
皆はぐっすりと眠っている。
「ちょっと寒いかもね」
ストールを頭からかぶり夜の砂漠を歩く。昼間の暑さが嘘のように空気はヒンヤリと冷たく、澄んでいた。
「この辺にしようかな」
みんなが寝ている場所からそう遠くない砂の上に腰を下ろした。
360度見渡しても目に入ってくるのは夜の砂漠の何の代わり映えもしない景色ばかり。頭上を照らす月の光だけが道程の頼りだった。
「すごい星の海!吸い込まれてしまいそう!!……あ、あれ?」
ふと既視感に驚く。
この旅が始まって初めて見上げた砂漠の星空なのに。
「何故?」
深呼吸をして心を落ちつかせ己に問いてみると、しばらくしてその答えが浮かんできた。
DIOを倒すためのこの旅が自分は二回目だということを思い出す。
彼の、皆の運命を変えたくて、スタンドを使ったのだと。
(絶対に変えるから)
星空に思いをはせながら、漆黒の夜空に輝く無数の星々の煌めきにナーナは目を奪われていた。

(ナーナさん?)
目を覚ました花京院は、隣で眠っていたはずのナーナがいないことに気がついた。
(一体何処へ?)
眠っているジョセフ達を起こさないように寝袋から抜け出す。
「それにしてもすごい星の数だ。圧倒されてしまう」
頭上に広がる無数の星々の煌めきは、日本にいてはまず見れない光景。
(もしかしてナーナさんもこの星空を見ているのかな)
敵スタンドの気配は感じられない。
花京院はハイエロファント・グリーンを使い砂漠をくまなく探す。ほどなくしてナーナを見つけた。
花京院のいる場所からさほど離れていない所にナーナはいた。
砂の上に座り夜空を見上げている。
何を思いながらこの星空を見ているのだろうか?

――――知りたい、と花京院は思った。

「ナーナさん」
「花京院くん!」
「お隣いいですか?」
「はい。どうぞ」
肩を並べて二人は座った。
(こうしてナーナさんと二人きりになるのは初めてだ)
今回の旅の紅一点。花京院より1才年上の承太郎の同級生でスタンド使い。可愛らしく人を和ます優しい女性だが、時折見せる影と全てを見通しているような雰囲気が印象的だった。
「眠らないと明日にひびきますよ?」
明日も1日砂漠を歩くのだから。
「それは花京院くんも同じでしょう?」
クスリナーナが笑むと、つられて花京院も笑った。
「花京院くんは星座に詳しい?」
「残念ながら全く」
「じゃあ私が」
私の指先を目で追ってね?
ナーナがゆっくりと指先を動かすと星と星が線で結ばれ様々な形が作られる。
「この夜空に浮かぶ星座には、一つ一つ神話があるのよ?例えば……」
星座の話しをしているナーナの瞳はキラキラしていて、本当に好きなんだと伝わってくる。
(ナーナさんのこと、少し知れて嬉しいな)
二人きりの貴重な時間。花京院は心の中に芽生えた淡い思いを噛み締めていた。

「そう言えば花京院くんにもう一つ」
「?」
「砂漠の夜明けは幻想的だって言われていること」
さっきまで真上にあった星座が時間と共に位置を変えてゆく。
「そうなんですか!知らなかったな」
「それを私たちはリアルタイムで見れるのよ。素敵じゃない?」
「ええ。本当に」
満面の笑みのナーナを見て花京院は何だか嬉しくなる。
「僕たちはラッキーなのかな」
DIOの部下に襲われジェット機が墜落し大破した為、砂漠を歩いて進むことになったのだ。
「災い転じて福となる。だね」
「本当に」
微笑み合い二人は再び夜空を見上げた。

(この前の時は、空条くんもいた)
あの時ここにいたのは花京院と承太郎で、ナーナは彼らと色んなことを話したのを思い出す。
(あの時より少しずつ変わっている今。だから間違わないように、迷わないようにしないと)

数ヵ月前のエジプトへの家族旅行でも、花京院は夜空を見上げたことはなかった。
(ナーナさん……)
花京院はナーナの横顔を見つめる。ナーナは星空に夢中で、花京院の視線には気づいていないようだ。
「ナーナさん、あのう」
「クシュン!」
しばらくの沈黙の後。発した花京院の言葉は、ナーナのくしゃみによって遮れた。
「寒いのですか?」
ストール一枚羽織れば大丈夫かと思ったが着ているのはセーラーの冬制服。それだけでは砂漠の夜の寒さを防ぐことはできないようだ。
「砂漠の夜を甘くみていたみたいね」
寒そうにナーナは鼻をすすった。
「ナーナさん、僕に妙案があります」
「花京院くん?」
「こうするんです」
「えっ!?……あ、あの!!」
背中に感じる体温。ストールごと回された腕。
「これなら少しは温かいと思います」
頭上から聞こえる優しいテノールの声。
「!!」
花京院に抱きしめられていることに気づき急に恥ずかしくなる。
(ううっ……は、恥ずかしい!!私の顔絶対赤い!)
(僕の顔赤いんだろうな)
そんな表情を見られなくてホッとしているのを、二人は知らなかった。


やがて風景が青に染まる、空気の澄んだエジプトの砂漠に太陽の光と闇夜のふたつの世界が共存し、溶け合う時間が訪れる。それは本当に一瞬の時。
「これは瑠璃色っていうのだろうか。とても綺麗だ」
花京院は感嘆の声を上げた。
「こんな幻想的な空の風景を花京院くんと一緒に見れてよかった」
「ナーナさん?」
その言葉通りに、良いように受け取っても構わないのだろうかと花京院は思う。

花京院、ナーナ――――っ!!

やがて白み始める空。
遠くから二人を呼んでいるジョセフの声が聞こえてくる。
「戻りましょう花京院くん」
「そうですね」
並んで歩き出す二人。
空は青くどこまでも澄んでいた。

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ジョジョの三部の長編を書こうとして挫折した記憶が。その中のお話一部抜粋してみました。典明くん大好き。

不知夜月