私の願い

「ダンテ!そっち行ったよ」
「了解!!バージルいくぞ」
「言われなくても分かっている!」

街外れの廃墟の中三つの影が動き回った。

「「JackPot!!」」

ギャアアア〜ッ!!

悪魔の断末魔の叫びが虚しく廃墟に響き渡った。

「いっちょう上がり」
ダンテはホルスターに双銃をしまい、バージルは刀に付着した液体を掃い鞘にしまう。
「これで依頼終了ね」
ナーナは悪魔が消えた場所に残された指輪を拾い上げた。

ナーナはバージル、ダンテらと同じデビルハンターである。

ある事件で知り合ったレディから二人を紹介されたが、二人に何故かいたく気に入られ彼らと仕事をする事が……。
バージルとダンテが勝手に着いてくるの
が多かった。

「どうもありがとうございました」
深々と頭を下げお礼を述べる依頼者。その姿にどれくらい悪魔から奪い返した指輪が大切なのかが伝わってくる。
彼女はナーナ達の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。

「それにしても指輪一つ、そんなに大事なのかねぇ?」
エボニィをくるくると回しながらダンテが呟く。
「彼女にとってあの指輪はね、なくなったご主人が初めてのお給料でプレゼントしてくれた指輪なんだって」
ダンテを諭すようにナーナは話す。
「ダンテも知ってると思うけど、ご主人は結婚してすぐ不慮の事故で亡くなっているから、彼女にとっては最初で最後のプレゼントなのよ」

例え安物のぽろぽろの指輪でも。
他人が見たらゴミにしか見えない物でも。

持ち主にとっては大切な宝物。そしてそれが愛する人からの贈り物ならば尚のこと。

「ダンテにも大切な人から貰った何かはあるでしょう?あの指輪はね彼女の命より大切な物なのよ。だから『たかが』なんて言わないで」

話し終えた後ナーナは少し悲しそうな顔をした。
「……でもよ」
「ダンテ?少しは考えて発言しろ」
ダンテの言葉はバージルによって遮られてしまった。
行き場を失った続きの言葉は、ダンテの口内で消化される。
「……さっぱりわかんねぇなそう言うことはよ」
ダンテはお手上げだというポーズを大袈裟にすると、すたすたと歩いて行ってしまった。
「ダンテ?」
「じゃあな。今夜は帰らないから」
そう言って歓楽街の方へ消えて行く。
「まったく、デリカシーのない奴だ」
バージルは呆れたように言葉を吐き捨てた。

「ねぇバージル」
しばらく無言で歩いていたナーナが急に立ち止まった。
「バージルは今回の依頼人の指輪の話し、どう思った?」
ナーナの質問にバージルは僅かに眉を動かした。
まあ聞かれるだろうと思っていた質問だったが、いざ答えを口にしようすると上手く表現出来そうにない。
「亡くなった人をいつまでも愛し想い続けるのは一つの「愛のカタチ」だと思うから、悪くはない。むしろ俺も同じようになるんじゃないか」
それでもなんとかそう答えたバージルを
、ナーナは少し驚いたような顔で見つめている。
きっとダンテと同じだと思っていたに違いない。
「双子だからと、ダンテと同じに見るのは止めてくれないか?」
バージルは少しムッとしてナーナから視線を離した。
「え、あ……そんなつもりじゃ……」
バージルの様子に慌てるナーナ。
「ならどう言うつもりだ?」
グイと乱暴にナーナの顎に手をかけ自分の方を向かせると、怯えたようにバージルを見上げるナーナの黒い瞳に自分の姿が映った。
「俺は……」
「……」
「自分が愛した女を生涯かけて愛し護りぬくと、そう決めている」

力強い言葉。
真っすぐな青い瞳。

……ズキン!

バージルのその言葉に、胸が痛んだ。

「バージルには……そういう人がいるの?」
聞きたいけど聞きたくない答え。それでも聞きたくて口から滑り出した声は、微かに震えていた。
「……気になる奴ならいるがな」
「!?」

バージルには愛する人がいる。

聞かなければよかった。
聞きたくなかった。

バージルに愛する人がいるなんて!!

「俺は」
「嫌っ!!」
バシッと顎に添えられているバージルの手を弾くナーナ。
「ナーナ?」
「聞きたくない……聞きたくないよバージル!!」
突然手を払いのけられたバージルは、ナーナが何故急にヒステリックになったのか分からないでいた。
「落ち着けナーナ!」
「嫌っ!触らないで!!」
ナーナを落ち着かせようと腕を伸ばすが払いのけられる。
「落ち着けと言ってるだろう!?」
「!!」
強引にナーナの身体を引き寄せると、バージルはナーナを力強く抱きしめた。
彼のその予期せぬ行為にナーナは驚いたのか、ピタリと大人しくなった。
「……人の話しは最後まで聞け」
バージルは苦笑いしながらナーナの身体に回していた腕をほどいた。
「……バージルの気になってる女の人の話しなんて聞きたくないよ」
俯いたままでバージルの顔を見ようともしないナーナ。

何かを勘違いしている。

そんなナーナの姿が堪らなく可愛くて、自然と表情が緩んでくるのをバージルは感じた。
「俺が気になる奴は……」
「……」
ナーナは何かに耐えようとギュッと拳を握った。
「俺が気になる奴は俺の目の前にいて、人の話しを最後まで聞かないはやとちりな奴だ」
「!?」
何だ?鳩が豆鉄砲くらったような顔をして」
驚いて顔を上げたナーナに、バージルは柔らかい表情になる。
「あ……」
ナーナはバージルのその一瞬の表情にドキッとした。
「どうした?」
すぐに消えてしまったそれは初めて見た彼の人間らしい表情。

本当に一瞬だけ見えたバージルの笑顔「今……バージルが笑った」
「何だ?俺が笑うのは不思議か」
少し照れたように、また柔らかい表情になるバージル。
もっと、もっと色んな表情を見せて欲しい。
「ナーナ、落ち着いたか?」
「うん……」
「ではさっきの続きをだな」
「続、き?」
バージルはそう言うと再びナーナを抱きしめる。
優しく包み込むように抱きしめた。
ナーナは顔を上げてバージルを見つめる。
「俺はお前をほっとけない。はやとちりでドジでおっちょこちょいなナーナがとても大切だ……」
「あ……」
近付くバージルの顔にナーナはそっと瞳を閉じた。

愛している――――。

言葉では言い表せない想いが、唇を通してナーナの心に伝わっていった。


---アトガキ---
元題は Desire. 11111hits キリ番リクエストのお話です。

不知夜月