ふたりの小夜曲(セレナーデ) 第1部【連載中】

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  • 第12話 再会と戸惑う心

    「ナーナちゃん今日の午後お客様が来るからよろしくね」
    艶やかな唇。ぱっちりした瞳。学生時代にモデルをしていたと言う通り羨ましいくらいのスタイル。
    「お客様ですか?」
    「何でもDL23号事件の詳しい資料を見たいって昨日連絡をもらったのよ」
    「確かにうちの管轄ですね」
    検事2年目に入ったばかりの美人検事を一目見ようと色んな人たちが面会を希望してくる。
    今回もそれかと思ったけど、どうも違うみたい。
    「来られるのは検事さんですか?」
    「そう。私も会うの久しぶりだから楽しみなのよ。それじゃあ行ってくるね」
    「はい。行ってらっしゃい」
    分厚いファイルを片手に軽やかにヒールを鳴らしながら、波里魔緒(はりまお)検事が執務室を出て行く。彼女を見送り私は早速資料の用意に取りかかった。
    この検事局に赴任して彼女の事務官となって半年が過ぎた。地域がらなのか関東1区よりのんびりしている雰囲気だった。御剣さんのところと比べたら、当たり前だけど少し物足りないと感じる時があった。

    「これでよし」
    資料をファイルにまとめる。検事さんが持ち帰ってもいいように。
    「グウゥ……」
    お腹が盛大に鳴いた。そう言えば今何時だろうか。ずいぶん集中していたのか時間を気にしてはいなかった。

    「かなり凶悪な虫を飼っているみたいだな。外まで聞こえてきたぞ」

    背中からかけられた声に心臓がドクンと強く脈打つ。
    まさか、と思った。
    「久しぶりだなナーナくん」
    はっきりと聞こえるのは懐かしい声。半年前までは毎日聞いていた大好きだったあの人の……。
    「!!」
    振り返った視線の先に飛び込んできたのは黒いウェストコートにワインレッドのスーツ。首に巻かれた白いクラバット姿。見間違いなんかじゃなく、幻でもない。
    「ど、どうしたのだナーナくん!?」
    驚いたような御剣さんの表情。自分がどんな表情をしているのか考えることは出来なかった。
    「御剣…さん、どうして…」
    それだけ言うのが精一杯で。
    「う、ウム。DL23号事件の資料を確認に来たのだ」
    「あっ」
    そう言えば波里検事がそんなことを言っていたのを思い出す。
    「し、失礼しました。波里検事のお客様って、御剣さんだったのですね」
    同じ検事なのだし二人に面識があるのも考えみれば当たり前なのだけど、少しだけ戸惑ってる。
    「まあ、そうだな。それよりも元気そうで何よりだ」
    「御剣さんも……」
    何も言わずに異動したのに、自分で壊したのに、交わす言葉はあの頃と変わらなかった。

    「なかなかメニューが豊富だ」
    「そうなんですよ。何を食べようか迷っちゃいます」
    余りにも私のお腹がグゥグゥ鳴るのでお昼がまだだと言ったら『食べに行けばいい』と言われ、検事局の食堂にいる。
    お昼のピークを過ぎているので人はまばらだ。それにしても御剣さんは目立つ。その容姿もそうだけど、検事局に勤めている職員で彼を知らない人はまずいないだろう。
    「……」
    「どうしたんだ」
    「視線が痛いです」
    分かっていたことだけどみんなの視線が気になる。
    「気にする必要はないと思うが。今までもそうだったじゃないか」
    「そうなんですけど……」
    あの時は専任の担当事務官。今はただの事務官。もう違う関係だからとは言えなかった。
    「それにしても君が突然消えてしまって、探すのに苦労した」
    「よくここが分かりましたね」
    父親に言って官報にも異動が載らないように頼んだ。急に決めたのもあるが、知らたくなかったから。この仕事をしている限りいずれまた再会することがあると思ったけど、あの時はとにかく全てをリセットしたかったから。
    「私の特別優秀な部下たちが君の居場所を探してくれたのだよ」
    糸鋸刑事と美雲ちゃんか。懐かしいな。ふたりは元気だろうか。
    「御剣さんは、どうして私を探してくれたのですか?もう、ただの事務官なのに」
    まさかこんなに早く再会するとは思わなくて、驚きと戸惑いと嬉しさで気持ちの整理がつかないでいた。
    「そうだな……」
    少し考える素振りをしてから御剣さんの表情がスッと引き締まった。
    「御剣さん?」
    「本当のことを言えば、ナーナくんに会いに来た」
    「!!」
    予想外の言葉に心臓がドクンと跳ね上がる。
    「キミに会って伝えなくてはならないことがあるからだ」
    そう言った御剣さんはあの時とは違う、とてもすっきりとした表情をしていた。

    不知夜月