第13話 私って、お邪魔虫?
結局御剣さんが何を言いたかったのかは持ち越しとなった。いつの間にか野次馬が増え話をする状況にならなかったから。
私たちは食事を手早く済ませ執務室に戻った。
「相変わらず御剣さんは大人気ですね」
「全くそのようなアレは困るのだが」
眉間のヒビが深く刻まれている。いつも通りの御剣さんだと嬉しくなる。
「これがDL23号事件のファイルで、こちらのファイルは持ち帰り用です。必要な資料をまとめてあります」
「さすがナーナくんだ。ありがたくこちらのファイルは持ち帰らせてもらおう」
御剣さんは茶色い革製のアタッシュケースにそれを入れた。
「そうだ、これを渡すのを忘れていた」
代わりに取り出したのは1通の封書。
「過日の短歌・川柳コンテストの景品だ」
「あっ…ありがとうございます」
そんなコンテストに応募したことなどすっかりと忘れていた。
「ナーナくんの短歌が最優秀賞だ」
「ええっ!?」
「こちらの検事局でも結果が張り出されていたと思うのだが」
そんなこと全く覚えてなく、私は手渡された封書をまじまじと見つめるだけだった。
「それは最優秀賞の賞品だろう」
「?」
私は封を開けて中身を確認してみると、世界の首脳や政府要人御用達の老舗高級料亭への招待券だった。
「検事局も太っ腹過ぎますよ」
しかも二人分。
(できれば御剣さんと行きたいな……でも……)
あの頃だったら気軽に誘えたのに今は躊躇してしまう。
「最優秀賞の賞品だからこれくらいはいいのではないかな?せっかくだから行った方がいい。何事も経験だ」
「他人事だと思って適当なことを」
「そんなことはない」
「じゃあ御剣さん一緒に行って下さいよ」
「ナーナくんさえよければかまわないが」
「えっ!あっ!!」
売り言葉に買い言葉というほどではないけど、何となくのノリの勢い。
「どうしたのだ?」
「あ、いぇ…で、ではお言葉に甘えて…約束ですよ?」
「ああ約束だな」
私の願いはあっさりと叶ってしまった。
それからたわいのないことを話していたら、御剣さんが急に黙り込んだ。
「御剣さん?」
「……」
彼は腕組をし右手の人差し指を動かしている。これは何かを考えている時の御剣さんの癖だ。懐かしいな……。
「ナーナくん」
「は、はい!」
そんな風に思いながら御剣さんを見つめていたら、不意に見つめ返された。
「キミに伝えなくてはならないこととは、あの日の…その、花見の返事だ」
「……」
忘れられていなかったことに驚いた。でも…どういう答えが返ってくるのか期待と不安で胸がドキドキする。
「あの時は突然だったから動揺してしまい何も出来なかった。だが今ならばきちんと伝えることが出来る」
真っ直ぐに見つめるその瞳。御剣さんの瞳には私が。私の瞳には御剣さんが。互いの他誰も映らない。
「ナーナくん。私は」
「御剣検事!お久しぶりです!!」
「ぐっ、うおおおおおおおおッ!!」
第3者の登場に御剣さんは驚きに上半身を反らす。私はビクッとして声の方へと視線を向けた。
「お、おおお帰りなさい波里検事」
声が上ずってしまう。
「ただいま〜。あれ?私お邪魔しちゃったかしら?」
「えーと」
誰もが魅力される笑顔でにっこりと微笑む波里検事に何も言えない。
「魔緒くんか。久しぶりだ。とても頑張っているみたいだな」
ゴホンと咳払いをして何事もなかったように御剣さんは波里検事に話しかける。
「はい」
嬉しそうに返事をする波里検事は、デビューから今のところ負け知らずだった。
ふた組のティーカップに紅茶を注ぎテーブルに置く。
「御剣さんと波里検事はお知り合いなのですか?」
「ああナーナくんはあの時研修でいなかったな。新人研修時私は魔緒くんを担当したのだよ」
去年の年明けから年末まで私は事務官の専門の研修でアメリカに留学していたからその間の出来事は知らない。
「そうなんですね」
「御剣検事とのあの研修があったから、私は今ここにいるんですよ」
「魔緒くんは優秀だったな」
懐かしむように波里検事と会話に花を咲かせる御剣さん。そんな彼の姿を見ていたら胸がもやもやした。
(……なんだろう…この気持ちイヤだな……)
結局御剣さんから何も聞けていないし、何を言おうとしていたのか分からずじまい。
「波里検事。もうご用が無いようでしたら時間なので帰りますね」
これ以上仲良く話しているふたりを見ていたくなかった。
「はあいお疲れ様。ナーナちゃんまた月曜日ね」
「お疲れ様です。積もる話しもあるでしょうから、御剣さんどうぞごゆっくり」
「ナーナくん!?」
ふたりに頭を下げて私は退室した。