貴方へと伝えたくて


天挑五輪大武會が終わって一ヶ月が経った。桃達は傷を癒す為に特別休暇をもらい、一ヶ月振りに登校した。
新学期は既に始まっており、今年は新入生が入学して賑やかだ。

桃達は二号生に、赤石は三号生に進級した。

「邪鬼様が亡くなって、もう半年か」
口に出してみたものの、未だに信じられないでいる。
己れの骨すら残さずに命を散らせた。見事な最期だったと。

天挑五輪大武會への出場が決まったあの時、胸に芽生えた不安。
その大会は世界中から腕自慢や拳法家達が集い、己れの命と名誉を賭け戦う壮絶な武道大会だという
『大丈夫だ。俺は必ず戻って来る』
『邪鬼様……』
『何だその顔は。俺が今まで約束を違えた事があるか?』
大きくて温かい腕の中に包まれても、優しいキスを幾度交わしても不安は拭えなかった。

ナーナは大豪院家と所縁の深い寺社を訪れていた。
広大な寺社の敷地の奥。見晴らしのよい場所にそれはあった。
「こんにちは邪鬼様」
たくさんの花や供え物がぐるりと周りを囲んでいる。
ナーナも花を供え線香を焚く。ゆらゆらと立ち上る白い煙を目で追うと、真っ青な空が目に映った。
「今日は邪鬼様に嬉しい報告があります。本当は邪鬼様に直接伝えたかったのですけどね」
言っても仕方ないことだけど、つい恨み節になってしまう。
「今、私の中に新しい命が宿っています。邪鬼様の血を継ぐ命ですよ」
妊娠が分かった時、迷いはなかった。
「絶対に男の子だと思います。邪鬼様に似た……」
不思議と確信があった。
とてもよく彼に似ている男の子だろうと。

「……それは本当か?」

「えっ!?」
自分以外に誰も居ないはずだと、驚き振り返ったナーナの瞳に映ったのは、何処までも続く清んだ青い空を背にまるでそれが当然のようだと立っている、

────会いたくても会えなかった貴方。



不知夜月