万年桜は巡り合い
「豪毅、様?」
「お前はナーナか!?」
宵闇に舞い散る薄桃色の花びら。桜花咲く男塾の万年桜の下で、二人は七年ぶりに再会した。
「まさか豪毅様が男塾に入塾されるなんて驚きました」
「それはこっちの台詞だ。急に俺の前から姿を消して行方不明だからな」
驚きの時間が過ぎ落ち着いた二人は、万年桜の幹に腰を掛けていた。
『闇の牙』により拉致された塾長。助けるには『七牙冥界闘(バトル・オブ・セブン・タスクス)』に参加し、指定された闘場で戦い抜かなければならなかった。
そんな中、天挑五輪大武會が終わり敵として戦った漢達が男塾に入塾してきた。
塾長代理の王大人の計らいであるが、先の戦いで男塾と戦いその男気に感銘をうけた漢達である。
傷の癒えない死天王らに代わり次なる戦で彼らは戦う。
校庭では新塾生歓迎との意味を含めた結成式が行われていた。
「俺はずっとお前を探していた。俺の前から姿を消した理由を、今なら聞かせてくれるな?」
「はい……」
探していたと言う豪毅の言葉に胸が温かくなる。
「兵衛様のボディーガードをしていた父がなくなって……」
父親は藤堂兵衛のボディーガードで、母親は病弱ながらも藤堂家で住み込みの下働きをしており、ナーナも子供ながらも母親を手伝っていた。
藤堂家に豪毅が正式な養子となり、彼が屋敷に来たその日二人は出会った。年が近いこともあり豪毅はナーナを気に入り、自然と好き合うまで時間はかからなかった。
「父が亡くなった後も兵衛様は私達母子によくしてくれました。ただ」
「ただ?」
「ただ、豪毅様とこれ以上仲良くするなと強く言われて……」
「……」
ある日を境によそよそしくなったナーナ。
何かあったのかと訊いても何もないとの一点張りで、豪毅はいらいらしていた。
だが、それからしばらくしてナーナは姿を消したのだったと思い出す。
「豪毅様は藤堂財閥の跡継ぎですから、好きになってはいけない方だと分かっていました。ところが……」
豪毅との事を兵衛に言われ始めた頃から、母親が体調を崩し始めた。
病弱とはいってもそれまで一度も体調を崩す事などなかった。
おかしいと思いながらも母親の分も頑張っていたナーナだったが、ある日衝撃的な場面を見てしまった。
「私は母が兵衛様にレイプされているのを見てしまったのです」
母親は兵衛にレイプされていた。
それも初めてではなく何度も。
「それが原因で母は自ら命を絶ちました」
「!!」
彼女は病気で亡くなったと、豪毅はそう父親から聞かされていた。だからそれを信じていた。
だが現実は違ったのだ。
胸の奥がチクリと痛む。
葬式はなくひっそりと埋葬された。
「母の埋葬を終えてから私は遺書に目を通しました。そこには信じられないない事が書いてあったのです」
遺書には衝撃的な事実が書かれていた。
兵衛のボディーガードだった父親が、無実の身で兵衛に殺されたこと。
兵衛の目的がナーナ自身に向けられていること。
それに気づいた母親は、自ら身代わりとなっていたこと。
それは10才に満たないナーナには余りにも衝撃的すぎる内容だった。
「あの外道め!!」
豪毅は怒りに声を震わせた。
あいつを父親と思ったことなど一度もない。豪毅にとって兵衛は父親ではなく役に立つ道具としか見ていなかったのだから。
「その手紙の最後にこう書いてありました。『逃げなさい』、と」
母親の訃報を風の噂で聞きつけたのか、父親の知り合いだという江田島平八という人から連絡がきたのだ。
兵衛とは日本の闇の権力に頂点に立つ男──藤堂兵衛であった。
「……親父から、よく逃げてくれた」
「っ!」
豪毅の腕がナーナを優しく抱きしめる。
安心感からなのか、今まで独りで耐えてきたものなのか、張り詰めていた糸が切れたようにナーナは泣きじゃくった。
校庭で焚かれているたき火の炎が夜空を焦がす。
昼間から始まった結成式は、夜になっても終わる気配は見せない。
「落ち着いたか?」
「っ、はい……」
服を涙で濡らしたのが恥ずかしいのか、豪毅の前で子供のように泣いてしまったのが恥ずかしいのか、ナーナは頬を紅く染めて俯いている。
「顔を上げてくれ」
「あ……」
豪毅の手が顎に触れるとくいっと持ち上げられる。
「もう黙って居なくなるな。俺の側にいろ」
「豪毅様……」
「あの頃と違う。今なら俺はお前を守れる」
二人の視線が甘く絡み、ゆっくりと唇が重なった。