9.幸せは続いてゆく
天挑五輪大武會が終わり半年が経った。
豪毅はあの後自らの意思で男塾に入塾した。財閥総帥と塾生とを特例をもって二足の草鞋を両立させている。
ナーナとは天挑五輪大武會終了後の次の日に入籍をした。
一応父親である藤堂兵衛の生死が不明であるので、式などは未定だった。
ナーナの実家にも入籍後の報告になったが、特に問題もなく承諾された。
兵衛側から持ち込んだ二人の見合い。水面下では結婚させる事が密約されていたのだから。そして学園在学中の結婚という事に大問題になったが、明郎老人の一言で不問とされた。
七瀬明郎。彼はこの学園の裏の理事長であり、藤堂財閥もその設立に関わっていたのだ。
友人達には『高校生人妻』『幼な妻』等と囃し立てられたが、そんなごたごたも落ち着いたある日の出来事。
その日も朝から体調が優れなかったナーナは、体育の授業中に倒れてしまい医務室で休んでいた。
数日前から続く微熱と身体の怠さに悩まされている。
まさか……と思った。
元々生理不順だったので1・2ヶ月来ない事もあり、今回もそれだと思っていた。
けれども明らかにそれと違う症状。
「また一悶着ありそうね……」
まずは自分で確かめてそれが本当ならば、きちんとしなくては。
幸いにも今週末から冬休みで、実家に帰るし豪毅にも会う予定だ。
(もし妊娠してたら、豪毅さんはどんな顔をするだろう)
まさか『子供はいらん!』って言われちゃうのかな。でも夫婦になってるし……。
出口のない答えが、ぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。
「気持ち悪い」
冬休みに入り実家に帰省したナーナだったが、体調の悪さに辟易していた。
母親に事情を話し、到着早々レディースクリニックへ付き添ってもらった。
「早速お祖父様に御報告をしましょう。喜ぶわよきっと」
結果は予想通りで現在妊娠8週目。予定日は来年の夏頃と診断された。
その日の夜の夕食時に母親から祖父母達に報告され、それは驚きをもって家族に祝福された。
入籍してからの妊娠判明ならば問題はない。その順序が逆ならば大問題になったであろうが。
「豪毅さんには私から伝えさせて下さい」
こういう事はきちんと自分の口から伝えたいとナーナは祖父に頼む。
「分かった。きちんとお前が伝えなさい」
「ありがとうございます」
気持ちを汲んでくれた祖父にナーナは頭を下げた。
「我が家の初孫か」
「本当に嬉しいかぎりですわ」
二人の兄はまだ独身だった。
ナーナの妊娠はそれは喜ばしく受け入れられた。
男塾も冬休みに入り豪毅は溜まっている仕事を片付ける為に、財閥が所有するビルの一室にいた。
豪毅と約束していたその日受付で名乗ると、
「ナーナ様ですね。私は豪毅様の第一秘書の神崎と申します」
スタイル抜群の美しい女性が魅力的な笑顔で迎えてくれた。
「初めましてナーナです。豪毅さんがお世話になっております」
ナーナは挨拶を返す。その所作がとても美しく、周囲にいた人達は見とれた。
「こちらへどうぞ」
「はい」
エレベーターを降りると大理石の廊下が続いており、突き当たりに大きなドアがあった。
そのドアの前にはカウンターがあり、これまた美しい女性がいた。
「お待ちしておりました」
二人の姿を確認するとドアが自動で開く。
ナーナは彼女に会釈をして部屋の中に入った。
「豪毅様。ナーナ様をお連れ致しました」
「ご苦労」
案内された部屋は建物の最上階にある社長室。一面総ガラス張りの窓の前に豪毅は立っていた。
「豪毅さん!」
「久しぶりだなナーナ」
「はい。お元気でしたか?」
見慣れていないからなのか、背広姿の豪毅にドキッとした。
入籍したといっても二人は一緒に住んではいない。互いに学校があり、会えるのは大きな休みの時だけだった。
「それではごゆっくりとお過ごし下さいませ」
一礼をして秘書は部屋から出て行った。
「余り顔色がよくないな。それに痩せたか?」
ナーナを抱きしめた豪毅はその変化に気がついた。
「あ、あの……」
今は治まっている悪阻。それが始まってから食欲はなく余り食べてはいなかった。
さて、どう妊娠の事を切り出そうか。
「どうした?」
どこか困っているようなそんな様子のナーナに豪毅は優しく問い掛ける。
「私っ…その…豪毅さんにお伝えしなければならない事があります」
「言ってみろ」
「あの、私…その…赤ちゃんが出来ました」
頬を赤く染め、恥ずかしそうにナーナは豪毅を見た。
「それは本当か!?」
豪毅の瞳が驚きに見開かれ、それはすぐに喜びの色を湛える。
ナーナとの出会いが豪毅の全てを変えた。
豪毅の忌まわしい過去を知っても、ナーナは変わらずに豪毅を愛してくれた。
かけがえのない最愛の妻。
「はい。今妊娠8週目で、来年の夏頃に出産予定です…って豪毅さん!?」
そして豪毅はナーナを抱き上げた。
「元気な子を産んでくれ」
「ご…豪毅さん!!」
しばらく続く上機嫌な豪毅の姿。
豪毅が既に結婚をしたという事は世間には公にされておらず、彼の男塾卒業をもって公にするという事になっていた。
けれども今まで見たこともないソレに、社員達は天変地異の前ぶれかと訝しんだ。