1.血統と縁が結ぶ赤い糸


ソドム世界会議での死闘が終わり、訪れた束の間の休日。

獅子丸は宛てもなく街をぶらぶらと歩いていた。

「助けて────っ!!」
「ん?」
突如聴こえた女性の叫び声に獅子丸は視線を動かす。
そこには体格のがっちりとした黒服の男達に囲まれた女性がいた。
「おい!嫌がってんじゃねぇか!!」
その場に近づいた獅子丸は、女性に手をかけている黒服の男の肩に手を置く。
「何だ貴様!?」
「兄ちゃん怪我したいのかい?」
黒服の男達が獅子丸を囲み、そして一斉に動き出した。

「怪我はないか?」
「はい。ありがとうございました」
そう言って淡い若草色の振袖に身を包んだ美しい女性は、獅子丸に頭を下げた。
二人の周りには大量の黒服の山が出来ている。
強さを求めて世界を放浪していた獅子丸にとってSPだろうが、ボディーガードだろうが、相手ではなかった。

「やり過ぎたか?」
場所を変えて二人は近くの公園にやって来た。
「大丈夫です。気にしないで下さい。彼らには良い薬ですから」
妙に落ち着いている彼女に少し違和感を獅子丸は覚える。
「彼ら?」
「あっ!」
しまったという顔をする彼女に、ひょっとして、とんでもないお嬢様を助けたんじゃないのかと獅子丸は内心思う。
「その、彼らは父のボディーガードで……」
「ボディーガード?」
「はい」
彼女は申し訳なさそうに話し出した。
父親から今日お見合いをすると突然に言われて逃げて来たのだと。
「会って断ればいいだけじゃないのか?」
「それが出来ないから逃げてるんです」
父親の決めた事は絶対に従わなくてはならない。もし従わなければ……。
「そりゃあ大変だな。でもよく家を抜け出せたな」

そんな事を話していた二人だったが、

「こんな所にいたのか」

第三者の登場でその時間は終わりを告げた。

「お父様……」
上品な色合いの仕立てられたスーツに身を包んだ男。その場に立っているだけで威圧感がハンパない。
(この人、何処で見た記憶がある)
「帰るぞ」
「……はい」
有無を言わせない迫力。相当な修羅場を経験している男だと獅子丸はひしひしと感じていた。
「何やら娘が世話になったらしいな」
「いいえ俺はただ困っていた彼女を助けただけです」
その男の迫力にも動じず獅子丸は彼を見た。
「フッ父親譲りの正義感も、時に困ったものだな」
「貴方は、父を知っているのですか?」
その言葉は獅子丸を驚かせるのに充分だった。
「奴とは今でも好敵手(ライバル)だ」
男はそう言葉を終わらせると、娘の手を引きながら歩き出す。
彼女は申し訳なさそうな表情で獅子丸に何度も頭を下げていた。

「あの男の人はひょっとして」
思い当たる人は一人いる。父親から聞いた話しに出て来た風貌そのままだ。
「それにしても綺麗な娘だったな」
二人の姿が見えなくなっても、獅子丸は彼らの事を考えていた。

数日後授業が終わり寮へと戻る途中、獅子丸は女子高生に呼び止められた。
「あのう……剣獅子丸さんですよね?」
「ん?アンタは」
そこに立っていたのは、超名門お嬢様学校「S女子学園」の清楚なセーラー服姿の女子高生で、彼女の美しさに獅子丸は目を奪われていた。
「この間はご迷惑をおかけしました」
彼女は深々と頭を下げた。
「?」
この間と聞いて獅子丸は記憶を辿る。
女性を助けた記憶は確か……。
「別に迷惑とか思ってねぇ。困っている女性を助けるのは当然だろう?だから頭を上げてくれ」
「はい……」
振袖姿しか知らなかったので、あの日の女性だと思い出すのに獅子丸は多少の時間が必要だった。
「お時間がありましたら、少しお話ししませんか?」
通り過ぎる人達の大半が振り向くであろう美しい容姿。
はにかんだその顔が可愛いと獅子丸は思った。

「父に貴方の名前をうかがいました」
「アンタの親父さんは藤堂豪毅だよな?」
「はい。私は藤堂奈々と言います」
藤堂豪毅──藤堂財閥の総帥で、未だ日本の闇の権力の頂点に立とうとしている藤堂兵衛の息子である。自身の意思で後に男塾に入塾し桃太郎らと卒業した。
今では剣桃太郎の同士として、時に彼に協力し助けているらしい。
「また剣さんにお会いしたかったんです私。……ご迷惑でしたか?」
温かい缶コーヒーを獅子丸に渡し、奈々は隣に座る。
二人は場所を公園に移していた。
「あの日と一緒ですね」
「ああ、そうだな」
出会った日を思い出したのか、奈々の唇が綻ぶ。
その顔に獅子丸は見とれた。
綺麗だと思ったのだ。
「剣さん私の顔に何かついてますか?」
「あ……い、いや!!」
どうやら奈々をジッと見つめていたらしい。無意識に。
獅子丸は慌ててあさっての方向を見た。
顔が少し赤いですよ。大丈夫ですか?と奈々は可愛くクスリと笑った。
「それにしても、父親同士が知り合いなんて驚きました」
「そうだよな」
考えて見れば、それはそれで不思議な出会いだった。

────まるで見えない力に導かれるように。

「しかし、藤堂の親父さん厳しそうだな」
世界を動かす財閥の総帥なんだから、それくらい当然か。
父親である桃太郎から聞いた話だと、互角の強さだったらしい。
「でも母には弱いんですよ」
「マジか」
そんな他愛のない話で盛り上がる獅子丸と奈々。


出会った二人が不思議な縁で結ばれているのを、

────今はまだ誰も知らない。


不知夜月