【18. 巧妙な罠】

「間違いないのですね……」
「残念ながら、事実です」
「……」
知らされた事実にナーナのショックは図り知れない。
まさか同僚であり友人の速水茉巳、神井梨華、山奈香子の三人がG社のスパイで、自分を狙っていたのだから。
「……っ」
悲しくて涙が溢れ出してくる。ナーナは両手で顔を覆った。その身体が震えている。
「ナーナさん……」
ラースはたまらずナーナの肩を抱き寄せる。
「ラースさ……ん」
ナーナはラースの胸に顔を埋めて泣いた。
(……ラース…お前まさか!?)
ハンドルを握りながら二人の様子を見ていた東郷は、沸き起こる思いに心の中で溜息をついた。
ラースは頭首の彼女であるナーナに好意を持っている。薄々感じてはいたが、今日それは確信に変わった。
だとするとラースがとる行動は一つである。

「東郷、悪いが車を止めてくれ。ナーナさんが車に酔ったみたいだ」
「ああ分かった」
東郷はラースの言葉に頷き車を停車させる。
「大丈夫ですかナーナさ……っ!!」
次の瞬間首筋に突き付けられた冷たい感触に、東郷は息を呑んだ。
「……ラース、お前!?」
突き付けられた銃。
ミラー越しのラースの苦しそうな表情。
東郷はラースの意図を正確に理解した。
「これは命令かラース?」
ナーナは気を失っているのかピクリとも動かない。
「命令だと言ったら?」
「……従うまでだ。上官の命令は絶対だろう?」
東郷はそう答えると車から降りた。
「頭首を裏切るか……」
「責めは俺ひとりで受けるつもりだ。お前は俺がナーナさんを拉致したと、6時間後に頭首に報告を入れてくれ」
「分かった」
「すまない東郷」
「ラース……」
それから車が発進される。
迷いのないラースの言葉に、東郷はただ彼を見送るしかなかった。


そんな事をしてもナーナには発信機がついているから無駄だろうと分かっていたが、ラースは途中で用意していた車を乗り換える。
「……」
仁の出張とナーナの送別会のボディーガードを任された時、ラースは自分に女神が微笑むのを感じていた。

━━━━この機会を逃してはならない。

彼は勝機というものを知っていた。そしてそれは一度逃すと、二度掴めないものであるという事も。
だからラースは決心した。
叶わないと思っていた想いを、叶えるために。


気がついた時には、見知らぬ天井が拡がっていた。薄明るい間接照明。

━━━━ガシャン!!

身体を動かそうとして、頭上で響いた金属音。それはナーナを手錠で拘束している音。
首を動かして部屋を見回すと、ホテルの一室であることが分かった。
そして自分が下着姿になっていることに気づき愕然とした。
「……お目覚めになられましたか?」
「!!」
バスルームから出て来たラースがゆっくりとベッドに近づいて来る。
ナーナは自分のおかれている状況を信じられずにいた。
「ああ……そんな表情しないで下さい」
「ラースさん……嘘、ですよね……」
怯えるナーナを満面の笑みでラースは見つめる。
「残念ですが、嘘じゃありませんよナーナさん?」
ギシっとベッドが軋んだ。
「いやっ!!」
首筋に這わされたラースの唇が熱い。
「ずっと貴女を抱きたかった」
眠っているナーナに気持ちが抑えられなくてキスをしたあの夜、次の朝初めて仁とナーナの情事を目の当たりにした。
仁に乱され啼き喘ぐナーナの姿にくぎ付けになった。
あの日から焼き付いて離れないナーナを思い出しては、ラースは何度も彼女を汚していた。
「っ!止めてラースさん!!」
拘束され逃げることすら出来ない状況でもナーナは抵抗して身体を攀る。
だが金属音が虚しく響くだけだで、無駄な抵抗だった。
「まったく、無駄な事を?」
パシッ!と乾いた音が部屋に響き渡る。
「!!」
頬に感じる痛みにナーナの瞳が見開かれた。
「痛い思いをしたくなければ、大人しく俺に抱かれて下さい」
ラースは薄く笑う。
「……」
絶望という言葉がナーナの心に拡がった。



不知夜月