【17.オペレーション・ルナ】

ラースからの指令を受けて東郷が動き出した。
鉄拳衆の中でトップクラスの実力を持つ特殊部隊員を擁するラース隊。
その中でもラースが一番信頼している、彼の腹心である東郷。
「正面は俺が行く。裏口は任せたぞ」
少数精鋭。的確に指示を出し東郷らは動き出した。

店の中に客はいなかった。どうやら貸し切りにしているようだ。

ならば都合よい。思う存分腕を振るえるではないか。

「すみませんお客様、本日貸し切りなんで……グハッ!!」
東郷の姿を見つけて出てきた店員らは、言葉を言い終える事はできなかった。
倒れ込んでいる男らのポケットを探ると小さな無線機が見つかった。
「副隊長、中にいる従業員らしき男たちの身柄拘束完了です」
部下が報告に訪れるまで数分。東郷の周りには、4人の男達が床に転がっていた。
「ご苦労」
G社の工作員であるだろう彼ら。それなりの腕を有しているだろうが、所詮寄せ集め。東郷ら統制の取れた鉄拳衆に勝てる訳はなかった。
こうして、静かに、ナーナらに気付かれないように、オペレーション・ルナは進行していた。


何も知らない、無邪気に同僚らと話に華を咲かせているナーナ。
東郷からの報告を確認しつつ、ナーナを見つめるラース。
(こんなナーナさんを見るのは、初めてかもしれないな……)
くるくると変わるナーナの表情は、愛らしいとさえ思う。見ていて飽きない。

「ほらナーナ、ラースさんまたあんたを見てる」
「あ……うん……」
この言葉を聞くのは何度目だろう?
ラースの視線が常に自分に向けられているのをナーナは感じていた。
確かに見すぎだと思える節はある。が、正直ラースが誰を見てようが、何をしてようが、ほっといて欲しいとナーナは思っていた。

送別会は何事もなく過ぎていた。運ばれてくるコース料理もデザート。
「茉巳?」
「ちょっと電話しに行くから」
少し前から携帯とにらめっこしていた茉巳が、慌てたように部屋を出て行く。
「失礼いたします……」
彼女が出て行くのと同時に、店の従業員の男が入ってきた。
(……あれ?)
さっきとどこか違う人のような気がして、ラースにどう思うか尋ねてみようとしたのだが、
「ナーナさん、俺少し席を外しますから」
「あ、はい」
従業員が入って来たのと同時に、ラースも部屋から出て行ってしまった。

「ねぇナーナ?あのさ……」
ラースが部屋から出て行くと、隣の席にいた神井梨華が不意に尋ねてきた。
「ラースさんって、本当にあんたの彼氏なの?」
「え?」
ナーナは、一瞬何を言われたのか分からないという表情をする。
「あたしもそれ聞きたいな?」
向かい側の席に座っていた山奈香子も、興味津々とナーナの隣に座ろうと移動して来た。
「「で、ラースさんとあんたの本当の関係は?」」
「ほ、本当の関係って言われても……」
ようやく彼女たちの質問を理解したナーナは戸惑う。

━━━━まさかラースが恋人ではなくボディーガードだという事を、彼女たちは見抜いているのだろうか。

「やっぱりアヤシイー」
「ナーナ?あんた私たちに、何か隠してるんじゃないの?」
「あの……二人とも急にどうしたの??」
楽しい雰囲気は一点、まるで尋問されているようでナーナは困っていた。
「……ラストオーダーになりますが、ご注文はございますでしょうか」
まるで困っているナーナを助けるかのように言葉を発した従業員の男。
「注文?おかしいわね」
コース料理のためラストオーダーを店員が取りに来ることはありえない。
彼女たちは顔を見合わせる。
「まさか!?」
「はめられたの!!」
その男の言葉に“何か”を感じたのか、二人はナーナから離れた。
「二人とも、どうしたの?」
「(あなたはこのまま、動かないで下さい)」
「?」
ナーナを庇うように二人の女性と対峙するこの男。
「お前は誰だ!?」
二人はただならぬ男の気配に構える。
そこにはナーナの同僚としての顔はなく、G社特殊工作員としての顔があった。

「俺達は三島財閥私設部隊の鉄拳衆だ!この店は既に制圧した!!」
消えていたラースが姿を現す。その腕には速水茉巳の姿があった。
「ラースさん?茉巳!?」
ラースの腕に抱えられている茉巳は、意識を失っているのか動く様子はない。
「この女性は気を失っているだけですよナーナさん」
そう言いながら茉巳を畳に置くと、ラースは彼女たちを見る。
「生憎たが、ナーナさんをお前らG社には渡さない!!」
「G、社?……梨華……香子……、嘘でしょう!?」
ラースの言葉が信じられなくて、ナーナは二人を見つめ問い掛ける。
「嘘じゃないのよナーナ」
「私たち三人はG社の特殊工作員」
ナーナをG社に連れて行くことを命令された。そう二人は淡々と話す。
「……」
ナーナは言葉を失っていた。
「東郷ここはお前に任せた。俺はナーナさんを先に連れて行く」
「了解した」
5分で片付けろとラースは東郷に指示し、それからナーナの手を取る。
「さあナーナさん」
「……」
語られた真実に、目の前で起こっている出来事。
ラースの声など聞こえていない。
「ナーナさん……失礼!」
「……え!?」
ようやくラースに気がついた時には、彼の腕の中だった。
「今は何も考えず、俺を信じて下さい」
いつになく真剣なラースの表情に、ナーナは頷くしかなかった。



不知夜月