【3.交わらないふたり】
三島財閥本社ビル最上階頭首の部屋に連れて来られたナーナは、頭首の寝室でニーナに用意してもらった洋服に着替えていた。
頭首の寝室は黒を基調としたキングサイズのベッドが置かれた簡素な部屋だ。
殆どの時間を財閥本社で過ごす仁が仮眠を取るために作られた部屋だという。
「っ!?」
不意に込み上げてくる吐き気。
引き裂かれたブラウスと泥まみれになったスカート。それらはナーナに数時間前の恐怖を甦らせ、身体の変調を引き起こさせる。
「!!」
激しい身体の震え、大量の発汗、急激に下がる体温。
(……だ……れ……か……)
ナーナは意識が遠退くのを感じていた。
「ナーナとは三島高専時代のクラスメイトで、俺たちは付き合っていた」
仁はニーナに話し始める。あの時記憶の奥底に封印した高専時代の想い出を。
「ニーナも知るように俺は第3回鉄拳トーナメント決勝戦の後姿をくらませた。高専4年生の時だ」
信頼していた血縁に裏切られ仁の中で何かが弾けた。
誰も信じられなくなった。
「俺は三島の血を呪い、三島を滅亡させる為に全てを捨て去る決意をした。ナーナとの想い出も何もかも……」
全ての想いを吐き出すように仁は話す。ニーナは黙って仁の話しを聞いていた。
「二度と会う事がのないと思っていたナーナに、偶然とはいえ俺はまた出会ってしまった」
正直戸惑っていると仁は唇を噛み締めている。
「仁……?」
そこにいるのは三島財閥頭首風間仁ではなく、21才の不器用な青年の姿の風間仁だった。
「……」
仁はナーナの寝顔を見つめていた。
着替えの為寝室に行ったナーナ。しかしいくら待っても姿を現さない。
心配した仁がニーナに様子を見に行かせると、ナーナは床に倒れ込んでいたのだ。
「何故俺達はまた出会ったのだろう。二度と合わないと、そう思っていた」
頭首専用のベッドで眠っているナーナに仁は問い掛ける。
ふとニーナとの先程の会話が思い出された。
『仁、昔の恋人と再会して戸惑っている気持ちは分からなくもないわ。でも感情に流されて今の自分の立場を忘れないで頂戴。一つ間違えると命取りになるわよ?』
世界の三島財閥頭首と昔の恋人。自分の戦いに関係のないナーナを巻き込むわけにはいかなかった。
「俺はもう違う道を歩んでいる。本来なら俺達は再会する事はなかった」
「……」
「でも会えて嬉しかったよナーナ?君は更に綺麗になっていて、とても驚いた」
今ならまだ思い出した気持ちを忘れる事が出来る。
仁の中でいつまでも大切な存在のナーナ。彼女には普通に穏やかな日々を過ごしてもらいたい。
戻れない、俺の分まで━━━━。
眠っているナーナの唇に、仁は自分の唇をそっと重ねた。
不知夜月