【30.エピローグ 不器用なふたり】

数日後退院したナーナは、しばらくは自宅マンションでの静養になった。
体調は戻っているだろうが、今三島財閥に起こっているある出来事についてナーナに知らせたくないという思いが仁の中にあったのだ。

ラースの三島財閥離反。

これをナーナが知ってしまうとまた思い煩うのではないかと心配で、いずれ知る事になろうとも今は知らせたくない……。


「おかえりナーナ」
自宅玄関。仁が先に上がりナーナに向かって腕を広げる。
「仁……ただいま」
面と向かって言われると少し恥ずかしいのか頬を赤く染めて、ナーナは躊躇うことなくその腕の中に飛び込んだ。
「また仁に会えて嬉しい……私を繋ぎ止めていてくれて、ありがとう」
仁の腕の中は温かくて、どれだけ愛されているのか実感する。
「ナーナ、もう離さない」
「仁……」
見つめ合い引き寄せ合うように唇が重なった。
触れ合った箇所から熱は拡がり、わき起こるいとおしさ。もう二人の間に言葉はいらなかった。

寝室のキングサイズのベッドは一人では広すぎて。ようやく今日から二人のベッドになった。
「大丈夫か?」
仁の身体の下で微かにナーナは震えていた。
やはりあの出来事が、未だナーナの心を苦しめているのかと仁の胸は不安でざわついた。
「……仁だから、仁が欲しいの……」
頬を赤く染めながら自分の言葉が恥ずかしかったのか、ナーナは瞳を伏せる。
その言葉は仁の不安を吹き飛ばすには充分で。
仁は優しく笑み、ナーナの瞼にそっとキスを落とした。


『手違いでも生者が死者の世界に存在するのは有り得ぬこと』
仁の下へ戻ると選択した私に、彼の人のは対価が必要だと言った。
「戻れるならば、どんな対価を差し出しても構いません」
『そなたには悪いが、そなたの残りの寿命の3分の1を貰いうける』
対価は己の寿命だった。それでも迷いはなく。
「分かりました」
自分の寿命がどれくらいなのか分からない。戻った途端に死ぬかもしれない。でも、残り少ない寿命でも、仁の傍にいたい。
もう死にたいなんて思わなかった。
それから眩い光に包まれてその世界から消える瞬間に、
『幸せに…………』
姿は見えないのに彼の人が微笑んでいるような、そんな気がした。

………………


…………


……。


「!?」
ふと目を開いた時、ナーナは一瞬自分がどこにいるのか分からなかった。
「ナーナ……」
目の前で仁の瞳が笑った。その指先がナーナの前髪を掻き上げる。
「ゆ、め……?」
仁の片手が肩までシーツを引き上げてくれて、ようやくナーナはベッドの中にいる自分に気付いた。
「大丈夫か?」
「……うん」
仁とのそれを思い出し照れたように答えるナーナの声は、少し掠れていた。軋む身体が情事の激しさを物語っていた。
ようやく訪れた幸せを噛み締めたその時、さっきの夢……ではないあの出来事が脳裏を過る。
忘れてはいない。忘れることなどできないのだから。
「仁……」
不安にぎゅっとナーナは仁に抱きつくと、
「大丈夫だずっと傍にいる。いつまでも一緒だ」
仁の抱く腕に力が込められた。

肌で感じる温もりの優しさが、ゆっくりと二人を眠りに引き込んでゆく。


願わくば、いつまでも━━━━━━。


不器用なふたりシリーズ

■ FIN. ■




不知夜月