【6.あふれだした想い】
最近の仁はふとした時に何かを考え込む事が多くなったとニーナは感じていた。
だからといって三島財閥の運営や戦況に関しては支障をきたしてはいない。
やっぱり彼女が関係しているのかしら?
三島財閥本社ビル最上階の頭首執務室。仁の姿はそこにない。
あの夜の出来事があってから確かに仁は遠い目をするようになった。
学生時代の恋人との再会。
抑えつけていた想いを彼は制御出来るのか。それとも解放するのか。
「仁にとって彼女はプラスに?それともマイナスに?」
ナーナについての調査書を読みながらニーナは呟いた。
仁は一人バイクで深夜の高速を飛ばしていた。何処へ行くとも誰にも告げず、ただ走っていた。
ナーナと再会してからというもの落ち着かない気持ち。それを封じ込めようとすればするほど大きくなる。
『情に流されてはいけないわ』
ニーナの言葉がずっと頭から離れないでいた。
(分かっている)
充分過ぎるほどその意味する事を分かっていた。
だから自分の為、ナーナの為、二度と会わないと決めたはずだった。
今日も仕事が立て込んでしまい帰宅が深夜になってしまったナーナは、家路を急いでいた。
「タクシーにすればよかったかな」
あれ以来近道もう使わないようにしている。明るい道を歩く事を心がけたため少し遠回りになるがあんな怖い思いをしたくはなかった。
だが今日は残業4日目。流石に身体の疲れが限界だった。
駅から歩く事20分。
ようやく見えてきた我が家にホッと安心する。
「あれ?」
マンションの脇の道にバイクが止まっていた。見た事のないスポーツタイプのバイクだ。
「……凄く珍しいバイクだけど、どんな人が乗ってるのかな?」
そう思いながら階段を昇り、3階の自分の部屋へと重い足を運ぶ。
「……誰?」
部屋の前に人影があった。
こんな時間に誰かと思いながら目をこらす。
「えっ?」
部屋の前の手摺りに寄りかかり佇んでるのは、黒のライダースーツに身を包んだ長身の男性。
「!?」
ナーナの瞳が見開かれる。
そこにいたのは二度と会うことはないはずの“彼”だった。
その姿に胸がトクン、トクン、と騒ぎ出す。
自然と駆け出していた。
玄関を入るとすぐにキッチンがありその奥にフローリングの部屋がある。必要最低限の家具や小物以外何も置かれていない質素な部屋だった。
「随分待たせちゃったね」
申し訳なさそうな表情をしながらナーナは仁の隣に座る。
「いや、俺が勝手に来ただけだからナーナが気にする必要はない」
仁はナーナの煎れたお茶をすすった。冷えた身体に心地好い。
「いつもこんなに遅いのか?」
既に時計の針は、深夜1時を回っていた。
「今仕事が立て込んでいてね、私仕事が遅くてすぐ溜めちゃうんだ」
「ナーナらしいな」
仁は何かを思い出したのかナーナの顔を見つめ笑う。
「あっ……ひどい!」
仁が思い出した事に心当たりがあるのかナーナは頬を膨らませて彼を睨んだ。
あの事件以来まともに会話するのは今日が初めてだった。だが二人にそんな事は関係ない。
あの頃の二人がそこにいた。
仁は笑いながらナーナの頬にそっと触れてきた。
「じ、仁?」
予期せぬ仁の行動に頬を染め戸惑うナーナ。仁の表情が引き締まる。
それから彼は口を開いた。
「本当はナーナとはもう会わないつもりでいた。俺と君とは生きている世界が全く違う。俺のいる世界に君を巻き込んではいけないと思った」
穏やかな世界で生活をして欲しい。
それは手紙にも書いた仁の本当の気持ちだ。彼と再会したナーナも世界の違いは感じていた。
だから互いを想う気持ちが自然と二度目の別れを決めたのだった。
「もう会わないと決めたのは俺だ。それなのにナーナを想う気持ちは日々大きくなるばかり」
真っすぐに見つめてくる仁の瞳をナーナも真っすぐに見つめ返す。
感情で動くのは危険だとニーナに言われた。だが心がナーナを求めてしまう。
こんな苦しい想いをずっと抱えていなければならないなら……。
「どうしてもナーナに会いたくなって、気がついたらここに来ていた……」
あの再会は偶然なんかじゃない。必然だったのだ。
「仁!!」
ナーナは仁に抱き着く。
互いに抑えていた想いは溢れ出し一つになる。
「俺の傍にいてくれナーナ」
気持ちが通じ合えばそこからもう二人に言葉はいらない。
ゆっくりと唇が重なる。
お互いを抱きしめながら、相手を確かめるようにそっと舌を絡ませる。
誘うように、焦らすように、時に強引に仁はナーナを翻弄した。
不知夜月