私の彼氏である黒尾鉄朗は外では態度が全然違う。2人きりの時――と言っても、研磨がいても――だと甘えてくるしイチャイチャしたがるのに、学校だとその逆であっさりとしている。例えば、廊下で会っても手を挙げて「よぉ」と言ってすれ違うだけ。これが家だったらすぐさま抱き着いてくるのに。何だか悶々とする。学校でイチャつくの恥ずかしいのかな。研磨は倦怠期早くと急かしてくるのに対して、学校の子たちは黒尾くんと恵麻って付き合い長いだけあって落ち着いてて熟年夫婦並みだねって言ってくる。そのせいで、鉄朗と私の関係が冷え切ったものだと思う人たちがいて、隙あらば鉄朗を狙い告白している人がいる。

「さっき鉄朗が告白されている現場に出会ってしまったよ」
「あー、何か呼び出されてたな黒尾」
「『黒尾先輩、好きです。藤代先輩とは冷え切った関係なんですよね。私だったら黒尾先輩と…』って言ってる所でダッシュしてきた」
「実際お前ら冷え切ってるっていうか、落ち着いてるよな」
「………」

バレー部内で鉄朗の甘えっぷりを知っているのは研磨くらいだから夜久にそう言われても仕方ないけど。けど、そうなんだけど、本当はまだまだ熱々なんだーと叫びたい。待てよ、熱々だと思っているのは私だけなのかも。学校の鉄朗が彼の本当の気持ちで、2人きりの時は仕方なく甘えてくるだけなのかも。私への気持ちなんてとっくの昔に冷めて、情のせいで別れを切り出せずにいるのかもしれない。

「お、噂をすれば」

夜久の言葉に反応して体育館の入り口を見れば、鉄朗が入ってきた所だった。今しがた告白されたはずなのに、何事もなかったような顔でいつも通り手を挙げて「よぉ」と言ってくるのには、流石に腹が立った。その感情を隠せなくて表情に出たのだろう、鉄朗は私の異変に気が付いて体調悪いのかとトンチンカンなことを聞いてきた。

「告白されたの知ってるんだから」

私の言葉に鉄朗の表情がピシっと固まったのが分かった。

「…断ったよ」
「………」

だから、何だ。一度湧いて出た不信感はそんな言葉じゃ拭えなかった。

「恵麻?」
「冷え切った関係の私たちなのに…」

隣にいた夜久が修羅場になりそうな気配を感じて焦っているのに気が付いていたが、そんなことどうでもいい。

「冷え切ってないだろ」
「だって皆そう思ってる」
「じゃあ、何?人前でイチャついていいの?」

は?と思う前に夜久が「え、何?」と言っていたので、今の言葉を鉄朗が言ったのだと理解できた。人前でイチャついていいの、なんてことは学校では絶対に言わないようなことだ。鉄朗の言葉を理解したけど、私の考えが追い付いていかなくて戸惑っていると鉄朗は更に言葉を続けた。

「人前で抱き締めたりキスしたりしていいの?」
「はっ、え…いや、それは……え?」

いやいや、何言ってんの?理解したと思ったけど理解できていなかった。意味不明。

「恵麻が言ったんだろ。そういうことは2人きりの時だけにしろって」
「へ?え…えぇ?そんなこと言ったっけ?」
「言ったよ、中学入ってすぐぐらいに」
「そ、そんな昔?そんなの覚えてるわけないじゃん」
「はぁ!?」

えぇー、何か逆切れし始めた。中学入ってすぐ?そんなこと言ったっけ?と、遠い記憶を呼び起こそうとするが出てきてはくれない。

「おい、マジかよ。オレが今まで学校でどんだけ我慢したと思ってんだ」
「え?我慢、してたの?」
「当たり前だろ!」

恵麻大好きと言いながら鉄朗にぎゅうっと抱き締められて、緩み切った顔でエヘヘといつものように笑っていれば、存在を忘れていた夜久のことを思い出したので、視界に入れると何とも言えない表情で立っていた。

「え…」

背後から聞き慣れた声がしたので、鉄朗に抱き締められたまま振り向けば、幼馴染みの研磨がいつものごとく吐きそうな顔で私たちを見ていた。研磨に続いて入って来た部員たちは声を出して驚いており、状況を把握できていないので私たちの近くにいた夜久に視線で説明してくれと訴えるも、夜久も状況を把握できていないので首を振った。

「はぁ……これが通常運転だよ」

研磨が呟いた言葉がやけに体育館に響いて、夜久を含めた部員がどういうことだと研磨に詰め寄った。けれど、海だけはフフと微笑んでいた。何か知っているのかな、今度問いただそうと誓った。

どうやら冷え切った関係だと思っていたのは私の勘違いだったようで、私たちにはやはりまだまだ倦怠期は訪れないようです。

-------------

2016.09.29


私の彼氏を紹介します2


 

backTOP


ALICE+