01_水柱様はストーカー
..........
どうしてこうなったのか。
なぜ私はこの男に追われる日々を過ごしているのか。
「なまえ」
「ヒッ!み、水柱様…」
音もなく現れ、背後から私の腰を抱くこの男。
鬼殺隊の最高位である”柱”の一角を担う、冨岡義勇である。
合同任務でもない限り、柱である彼らの姿を見られる機会はほぼ無い。
しかしここのところ、比較的ではあるが鬼の出現数が減っていた。
時折市井で彼らの姿を見掛けることも増え、たまに特別に柱直々の稽古なども企画されるようになった。
彼らを尊敬する一隊士としては喜ばしい限りである。
ただ、最近の私にとっては決してそうも言っていられなくなってきた。
全てはこの男のせいだ。
「…なまえ、いつになったら俺の屋敷に住むのだ。俺はずっと待っているというのに」
「何度も申し上げておりますが、私は水柱様の御屋敷には参りません」
「何故だ」
「何故も何も、行く理由がありません!」
ひと月ほど前の合同任務で顔を合わせてから、この男、冨岡義勇に追い回されているのである。
日中はこうしてふいをついて背後に現れては追いかけ回される。
彼が非番の夜は自宅周辺をうろつかれていることもある。
単独任務で疲れきって帰宅した際、玄関に寄り掛かっている彼の姿を見て悲鳴を上げたことも数え切れない。
もしかして継子のお誘いですか、私は風の呼吸の使い手なのですが…と言えば、俺は弟子は取らないと言う。
では一体何用で、と問えば途端に身体を寄せ屋敷に来いだの次の非番はどこか出掛けようだの一方的にのたまうのだ。
「なまえは俺の嫁になるのだろう」
「なりませんよ!!!いつそんなお話になりましたか!?水柱様、どうか気を確かに!」
あまりの悪寒にじたばたと抵抗すると案外あっさりと解放された。
珍しいこともあるものだと思いつつ身体を反転させ、彼の様子を伺う。
ああそうか事を急いてしまったな、まずは恋仲から始めるのが筋だな、うむ、とひとりぶつぶつ呟く眼前のこの人は、本当に尊敬すべき柱なのだろうか。
顎に手を当て虚空を見つめながら時折ムフフと笑っている上官に私は頭を抱える。
本当こわいどこ見てるんだろうこの人。
prev next→
back