2_淡いスイートピー
数十秒後、少年は青年を抱えて水面から顔を出し、細い腕で青年を陸へと放り投げる。やっと呼吸をすることができた青年は盛大に海水を吐き出した。その様子にホっとした少年は力が抜けてその場に座り込んでしまう。
さっきまでの威勢はどこにいったのか、少年は大きな瞳から大粒の涙を溢し始めた。とめどなく流れる涙を止めることなく少年は声を荒げる。
「何してんだよ! 僕が助けなかったら……!」
「そうだな、助けなかったら俺は死んでいた」
「なら何でっ…」
「敵なら放っておくのが正解だろ?」
仰向けで、息絶え絶えに青年が小さく笑う。青年は身を投げだす際に落としてしまった帽子を拾い、胸に置いて両手を広げてまた小さく笑った。
「もう俺らは敵じゃねぇ。ダチだからな、信用してんだよ」
「は? 何言って」
「敵だって助けちまうお前だから誘ってんだ」
「いや、だから僕は…」
「知ってるさ、お前が頷くまで何度でも誘いに来てやるよ」
よっと立ち上がった青年は少年を指さしてそう伝えた。びしょびしょになった自分を乾かすように炎を出し、すぐ傍に待機させていた船へと飛び乗って”じゃあ、次会ったときは冒険しような”と手を振った。さっきまで死にかけていた男とは思えない元気な姿に思わず笑ってしまった少年は”馬鹿じゃんあいつ”と言葉を漏らす。
幼い頃から海兵として訓練を積み、海賊は悪であり排除するものだと学んできた彼に取って、あの青年は今までに出会ったことのない異質な存在であった。初めて出会った時からもう何度目になるか分からない冒険への勧誘。自分勝手でお調子者。海兵だ、海賊だ、そういった垣根を簡単に越えて踏み込んでくる敵であるはずの彼への嫌悪は何故か無い。
海賊なのに憎めない存在になりつつあったのだ、彼であれば背中を任せてみてもいいと思うほどに。少年は”次はいつ来るんだか”と、この大海原へと旅だった青年の姿をいつまでも見送った。
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