人質のおまけ組



「オレはもう喧嘩はしねえ」
「あいつは何言ってんの?」

 屋上での騒動が終わり放課後、俺らは近くの海に来ていた。
堤防で男鹿がべる坊に宣言をし、貴之はその隣で釣りを、残る俺たちは海の家でかき氷を食べていた。俺の隣でヒルダさんとアランドロン(さっき紹介されたおっさん)が魔王育成候補者について語っている。まぁ確かに腕力だけはあるよな……。
ヒルダさんに「椿様はどうお考えでしょうか」なんて聞かれるけどたまったもんじゃない。正直魔王とか興味ないし、それよりも様付けされるのほんとやめて欲しいんですけど。
 まぁ、なるようになんじゃない?と適当に返事していたら堤防方面が少し騒がしくなっていた。ふと視線をやると、そこには男鹿達の他に知らない男達がいて、いかにも地元の不良ですってかんじの奴らは男鹿を囲んで何か言っているが、暴力をしないと決めた男鹿はまっすぐ海に飛び込んでしまう。
何やってんだよほんと……あ!てか次は貴之が狙われんじゃんかよ!早く助けに行かないと。そう思い席を立った時、ヒルダさんが何かを思いついたように「椿様、少しお付き合いして頂きたいことがあるのですが」と言った。あれ、敬語やめる気ないのかな??



「はい、君たち。貴之とヒルダさんを解放してあげて」
「なんだ、お前」
「あ、こいつアレじゃねえ?転校してきたって噂の女」
「人質として連れてくか……?」

「見つかった時点でもうこいつも人質だよっと」
「んん……!!」

 ヒルダさんに言われた通り、俺は彼女たちがどこかに連れて行かれそうなタイミングを見計らって行動を開始した。さっさと連れていけばいいものの、少し迷っていた連中だったが、1人の男に拘束され、口元に布を当てられる。
たぶんきっと睡眠薬だろうと思いながら俺はされるがままゆっくりと目を閉じ、意識を手放した。
 次に目が覚めた時にはどこか使われていない廃墟の一室に寝転がされていた。顔をあげてあたりを見回すと貴之と目が合う。


「椿!大丈夫か?!」
「ん〜ちょっと変な薬嗅がされたっぽい〜」

 その言葉に真剣に心配してくれる貴之だけど、ごめん本当は睡眠薬くらいでピンピンしてんだ。と心の中で謝罪する。この拘束されている縄も解こうと思えば簡単にできるけど、これも合図があるまでそのままにしとかなきゃならない。
チラリと貴之の顔を見れば、結構な傷跡があった。もしかして俺が寝ている間に殴られたのだろうか、まじで許さねえ。あとで絶対貴之殴った奴フルボッコにしよう。


「余計なことすんだよっ」
「(あれが主犯っぽいな)」

 リーゼント頭の男が手下と思われる男を足蹴にしていた。どうやら今回の目的はヒルダさんらしく、俺と貴之はおまけ感覚で連れてこられたらしい。貴之が小声で「姫川……」と言ったので、こいつは多分きっと石矢魔の4大勢力東邦神姫の1人、姫川でしょうね。
立派なリーゼントしてんなぁ、と呑気に考えていたら本人と目があってしまった。
 姫川は俺と手元の紙を見比べてニヤリと笑う。あ、気持ち悪いですその笑顔。もしかして手元の紙は盗撮した俺の写真だったりします?姫川は俺の側でしゃがみ込み、俺の頬をペチペチと軽く叩く。


「広末椿ねぇ……お前一体何者だ?」

 この男、なんかめっちゃ情報収集して念入りに計画たてるタイプらしくて、俺のことも頑張って調べたらしい。でも何故か俺の情報が全く出てこなかったようで、そのことについて聞かれていた。
ああ、なるほどね!俺ん家、祖父さんがヤクザなのに父親が警察だったり、ほかにも色々込み入った事情がある家系だから情報管理にめっちゃ力いれてるんだよね、だからじゃねえかな。そう思ったけど、そんな事わざわざ教えてあげる義理もねえし、ここは全力で挑発してやろうと口角をあげた。


「あんたの力不足じゃない?」
「いーね、威勢のいい女は嫌いじゃない」

 カチャッと眼鏡を触った姫川は、今度はヒルダさんの前に立ち「ケータイをかしてもらおうかな」と言った。勿論彼女は携帯を持っていないし、持っていたとしてもきっと男鹿の連絡先なんて登録していないだろう……。案の定、ヒルダさんは「そんな物持っておらんぞ」と答える。


「お前はどーなんだ?」
「はッ、持ってても渡すわけねーじゃん」

 ヒルダさんの次は俺か。俺にケータイを所持しているか確認した姫川は「そう言うと思った」と口角を上げ、嬉しそうに手に持っていた拳銃の銃口を俺とヒルダさんに向ける。どーちらにしようかなと交互に銃口を向けていた姫川は俺のところでピタリとその手を止めた。


「お……おい、何をする気だ」
「やれるもんなら、やってみやがれ」

 貴之が俺に挑発すんな!と声をあげるけど時すでに遅し、安い挑発に乗った姫川は俺の顎を持ち視線を合わせる。そうして拳銃を俺の前にちらつかせてから何故か移動させ、俺の背中付近で引き金を引く。


「最後まで威勢がいいねぇ。まぁ、サービスサービス」
「なっ……!」

 次の瞬間、銃口から液体が飛び出して俺の制服にかかり、服が溶けていった。もしかして酸か?!姫川は愉快そうに何度も引き金を引いて俺の服を溶かしていく。
こいつ……愉しんでやがる。女の服を溶かして愉しむとか趣味悪すぎだろう、あいにく俺は女ではないので恥ずかしげも何も感じない。ただただ嫌悪感だけが増していく。
上から下まで、まんべんなく溶かした奴は、俺だけでは飽き足らず、次にヒルダさんを狙った。


「おま、やめろ!!」
「くッ……ゲスが」

 俺と貴之が声を荒げるも虚しく、ヒルダさんの服が溶かされていく。ほんと悪趣味!!抵抗ができないヒルダさんは心底不快そうな声を出す事しかできず、されるがままだった。
拘束されているだけで身体の自由はきく、ヒルダさんに合図があるまでおとなしくしといてくれって頼まれたけどこれ以上は我慢できねえ……。
縄を解こうとした俺にヒルダさんは無言で首を振った。その間にも姫川は引き金を引き、服を溶かしていく。


「うーん、困った。本当に持ってなさそーだ」
「やめろって……言ってんだろ!!」
「貴之!」

「ケータイならオレが持ってる。オレのを使えばいいだろ」
「……だよねー」

 俺が持ってるからやめろ!そう言おうとした時、貴之が力任せに動き、姫川の前に飛び出した。貴之の一言を待っていたかのように姫川が拳銃を下ろし、貴之のポケットからケータイを取り出す。


「もしもーし男鹿くん?用件だけ言うからアホみたいに聞―てろ」


(ごめんヒルダさん……)


 
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