王の処刑



「バーカ、あいつが来るわけねーだろ」

 姫川が男鹿に電話をしてから随分と時間がたった。おせーなと呟く姫川に貴之が笑い、その言葉にキレた姫川が理不尽な暴力を振るう。俺とヒルダさんの貴之を呼ぶ声が重なり、殴られた貴之は俺に向かって「何情けねー顔してんだよ椿」と笑った。


「あいつは来る。大丈夫、そーゆー奴です」
「貴之……」

 必ず来る。そう言い切った貴之の言葉通り、ビルに人が来たようだった。姫川の手下たちが部屋から飛び出して侵入者と交戦を始める。やっと来たのかよ男鹿の奴……。
でもそうじゃなかった。静かになり部屋の入口から入ってきたのは男鹿ではなく、手下たちに縛られたアランドロンだった。絶望した貴之はその場で男鹿への悪口を思いつき限り叫び出す。
 するとその声に反応する声がどこからか聞こえてきた。ここにはいないはずの、男鹿の声が聞こえたのだ。割れたアランドロンから出てきた男鹿は手下の1人を殴り飛ばす。


「ったく、てめーら……世話やかしてんじゃねーぞ」
「わ、割れた……?!」
「おまたせ(はあと)」

「ケンカしねーんじゃなかったのかよ」
「ケンカじゃねーよ。今からすんのは……王の処刑だ」
「んは、最高」

 男鹿が登場したことに驚く手下たち。まぁ普通驚くよね、常識的に考えておっさんが割れてそこから人が出てくるなんてありえねえ話だし。
全員消しますと宣言した男鹿の前に姫川が立ちはだかり、男鹿を勧誘し始めた。姫川は神崎と同じく、男鹿の戦力を加えたいらしい。男鹿の力が加わりゃあ怖いもんなんてないだろうからな。男鹿を手に入れるためにはいくらでもカネを積もうと話している姫川を見て貴之がありえねえって顔をしていた。案の定、男鹿はその誘いに乗らない。


「いいだろう、相手してやるよコゾー。オレに勝ったら人質ははなしてやる。ただし、負けた時は大人しく下についてもらうぜ」
「いいのかよ?せっかくの人質をそんな簡単にはなして」

「そいつらはテメーをここに呼び出すだけのコマだ。それ以上の価値なんてねーよ」
「てめえ……」

 あ、男鹿が怒った。男鹿がセラミック板をしこんだ姫川の腹を思い切り殴る。
瞬間、魔力の気配がし、蠅王紋が反応した。あっけなく殴り飛ばされた姫川は男鹿に120万Vの電撃を浴びせるが、全く効果がなかった。べる坊の夜泣きのが全然いてぇと言う男鹿は人間じゃないと思う。バケモンだバケモン。


「椿様」
「ああ、もう終わり?」

 焦った姫川が、人質を使うように指示した時、隣にいたヒルダさんが小声で話しかけてきた。やっと合図ですか、俺は無言で頷き縄を解く。
手下たちが俺らに向かってきた瞬間、ヒルダさんが拳を一振りし一掃する。その様子に口をあんぐりと開ける貴之にごめんねとだけ言い、背後に回って縄を解いてやる。


「さぁて、ザコは俺に任せてよ男鹿」
「ひ……待てっ!」
「おかえしだ。魔王の咆哮!!」



(てめえら、まさかわざと捕まってたんじゃあ)(あ、ヒルダさん約束、忘れてねーよな)


 
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