とんだサプライズ



「神崎の次男坊が入院?」

 姫川と男鹿が対峙した翌日、俺は祖父さんから入院している神崎家の次男坊の見舞いに行って来いと言われてしまった。有無言わさず渡されたフルーツの盛り合わせと新しい服。まさかコレを着て行けってことじゃあねえよな?嫌な予感程よくあたるもので、慌てて自室のクローゼットを確認するも、こっそりネットで注文していた男物の服がなくなっていた。きゅ、休日まで女装か……。
 病院の受付で神崎の病室を聞く。神崎って名前、つい最近聞いたんだよな。男鹿に負けたあの3年生を思い出す。いやいや、さすがにあの人な訳ないない、神崎なんて案外ありふれた名前だし、違う神崎さんかもしんねえ。そう思いながら病室の前まで行くと、見たことある背丈の男を発見した。


「わぁい、フラグ回収〜」
「お、お前は!」

 男鹿にワンパンされた城山が俺に気付いてファインティングポーズをとるけど、いやここ病院だしそんなケンカ大好きっ子じゃないからね。俺はお見舞い品を目の前に掲げて「広末組の組長からです」と言う。すると今度は室内からロン毛の男が顔をひょっこりと出す。ああ、この人も見たことあるや〜。やっぱり神崎ってあの神崎なんだね……。


「椿ちゃんだ〜。神崎くんのお見舞い〜?」
「なんで名前知ってんですか」
「有名人だからね〜、あ、姫ちゃんもいるよ〜」

 姫ちゃんって誰だよ……姫、姫、もしかして姫川?!まさか、さすがにそれは無理があるか!あ、ちなみにオレは夏目慎太郎と自己紹介をしながら俺の背中を押して病室につっこむロン毛。ちょ、まってまだ心の準備ができてな……!


「あ゛?」
「お前……」
「あーもー泣きたい」

 姫ちゃんとかどんなあだ名だよその顔で!と本音を漏らしたところ、本人から俺は呼ぶの許可してねえからな!と怒られてしまった。一呼吸置いて、途端に気まずくなる病室内。夏目だけが楽しそうに肩を揺らしていたけれども、この状況はっきり言って超絶つらい。
だって考えてみてよ、まず城山と神崎!この2人は男鹿にワンパンで倒された相手で、俺がそのあと大爆笑してしまった。次に姫川!こいつも俺を誘拐しといて、服ぼろぼろに溶かしておいて人質以上の価値がないとか言いやがった。あ、あと男鹿にやられてる。も、もう見舞い品だけ置いてとっとと帰ろうかな……と思ってた矢先、神崎からお声がかかってしまう。


「おい女、てめえ広末組なんだってなァ?」
「あんたが神崎の次男坊だったんだな」
「神崎さんだ、女」
「……神崎さん」

「へぇ、お前ヤクザなの」
「ちげーます、姫ちゃんさん」
「おまっ!その名前で呼ぶな!」
「じゃあ姫先輩」

 プクククと夏目が声を漏らす。ほんと勘弁してください……ベットに横たわったまま、神崎さんと姫先輩がぎゃあぎゃあ俺にしゃべりかけてくるこの状況何なの?!思わずこの中で1番マシそうな城山を見ちゃったよ!めっちゃ不安そうな顔しながら「とりあえず、座るか?」って椅子持ってきてくれたね!なんていい人!そしてその瞬間、俺の逃避は不可能になりました!はい、残念!!!!!夏目はそんな俺を見てブフゥ!と噴き出した。……あんた笑い、隠す気ねえだろ。


「あ、そうそう。面白い話あるんだけど、椿ちゃんも聞くよね?」
「なんだよ……面白い話って」
「ん〜、東邦神姫の邦枝ちゃんの話〜」

 東邦神姫の邦枝か……。夏目の話によれば、昨日、北関東制圧を終えて戻ってきたとこらしい。所詮は女の集まりだろ?と言う神崎たちだが、女で北関東制圧とか、相当手練れじゃねえと厳しいんじゃねえの?


「いやいや実際、やりずれーっすよ?強―し、人望は厚いし、なんせ1年にして石矢魔女子をまとめあげたカリスマだ」
「へぇ、すげえんだ……」

 バナナを食いながら夏目の話に感心する。邦枝葵、1年の時点で石矢魔をまとめあげる人望と実力を兼ね備えた奴か……なんか貴之が食いつきそうな話だけど、実際、男鹿と対峙する可能性が高いんだよな。注意しておくにこしたことはないだろう。
 神崎さん、姫先輩を倒した今、残る勢力は東邦神姫の東条と邦枝だけだ。夏目の話によると東条一派は石矢魔統一には正直興味がなさそうらしい。と、なると考えられる脅威は邦枝葵1人だけだな。


「こうなると男鹿ちゃんに頑張ってもらっとくしかねーっすかね」

 ねぇ椿ちゃん?と言われましても困るんですが。完全に神崎さんと姫先輩を煽ってますやん……。案の定、2人は声を荒げて3日でケガを治す宣言をしていた……。ほんとバカだよあんたら。城山は夏目と病人2人を交互に見ながらあたふたしてるし、焚きつけた本人は「楽しみだなー」とか言いながらのんびり背伸びをしている。もう、俺帰ろう。そう決意し、引き戸に手をかけた時、夏目がこちらを向いた。


「もしかしたら椿ちゃんも勧誘されるかもね〜」
「広末は現段階で、石矢魔でただ1人の女だからな」

 夏目の言葉に続いて城山が頷きながら言う。あ、そうだった忘れてた。俺、1個大事なこと言うの忘れてた。ドアから手を離し、にへらと笑う。


「言い忘れてたんだけど、俺、男ですから」


(ピシリと空気が凍った音が聞こえた)


 
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