1.突然ですが

 世の中不思議なこともあるんだなぁと思った15歳の秋。俺は頭の整理が追いつかないまま教室の前に立っていた。ことの発端は今日の朝まで遡る。


「ふぁ」

 目覚ましで起きて、大きく伸びをする。時刻は午前6時を回ったところ。教員採用試験に向けて勉強してたから寝るのが遅くなってしまい寝不足気味です、おはよう。大学3回生になったばっかりだってーのに、なんでこんなハードな毎日を送らなきゃならないんですかね? まだまだ遊びたい年頃です、はい。ベッドから這いずり出て、タンスから適当な服を引っ張りだして着替える。頭を掻いた時に寝癖を発見。


「髪も適当に直しとくか」

 なけなしの男子力を駆使して生きてます。ワックス片手に洗面所へ行き、鏡の前に立った時、ふと違和感を感じた。その違和感を確かめるためにゴシゴシと目を擦ること数回。


「あれ、黒髪に戻してたっけ」

 擦っても拭えなかった違和感。あり、俺昨日まで茶髪だったよね? 今時大学生男子のような茶髪だったはず……なのに、それが一夜にして黒髪に戻る? なんて、いや、ない、ないないない。でも違和感はそれだけじゃない。


「なんか幼い」

 顔も心なしか幼い。いや、お肌ツルツルじゃね?! 最近寝不足が祟って肌荒れもいいとこ、ガッサガサだったじゃねーか! おかしい、なにかがおかしい。起きたら幼くなってました? SFか! もしかしてトリップしちゃった? 過去に未練があってトリップするなんて話はよくドラマとかでもあるけれども。それともアレか、トリップはトリップでも妹がよく口にしてた、異世界へトリップして、退行して若返りましたパターン?


「そんな馬鹿なことがあるはずない」

 はははと笑って回れ右。これで、昨日まで使ってたかばんの中確認して、もし大学以前の学生証なんかが出てきたらアウト。完全にトリップしたことになる。とりあえず自室に戻るべく廊下を速足で歩く。するとさっきは気づかなかったが、自室のドア横にダンボール。あとその上に茶封筒が添えてあるのを見つけた。宛名は俺で、差出人は母親。


「母さん? なにかしこまって手紙かいてるの」

 その場でしゃがみこんで封筒を手にとり、まずダンボールの蓋をあける。あけて、しめた。いやいやいやいや、ないない。落ち着け俺、もう一回みよう。俺は大きく息を吸い込んでから再びダンボールをあける。


「うそだろおい」

 ダンボールの中には懐かしい高校の教科書がぎっしり詰まっていた。俺の普段使っている専門書ではなくて、数学とか物理とか古典とか書いてある教科書ばっか。慌てて手に持ってた茶封筒から手紙を取り出して読む。


『拝見息子へ。転校先の教科書一式入っていますので、頑張って勉強するように。母さんは暫く海外で仕事が入ったので帰りません。今日は幼馴染ちゃんが迎えに来てくれるから粗相のないように、がんばれ息子っ』


 なにこれ。いやいや母さん? んあ? もしかして俺ほんとにトリップしたの? しかも俺だけ?! そんでもって、あれか、大学生から若返ったパターンか? おそるおそる部屋に入る。普段と変わらない自室。ただひとつ変わっていることがあるとすれば……。


「制服がある」


 これは完全に、トリップしたパターンですわ。


(ブレザーか)

  
back両手で掴んで
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