2.トリップ先わかりました

 まさかこの歳になって制服に袖を通す日が来るなんて思いもしていなかった。パリッとした制服はサイズもぴったりで、いつ採寸したのか不思議なくらいだ。ブレザーなんて久しぶりだ……。たしか第二ボタンは好きな子にあげたんだっけ? 昔の思い出に耽っていたが時刻を見るともう6時半。


「腹減った」

 リビングに行き、冷蔵庫から卵とベーコンを取り出してフライパンで焼く。そういや、母さんが出て行ったって事は、今日から俺はここで一人暮らしなのか? あいにく父親は既に他界している。資産家だった父親のおかげで莫大な遺産を得ることになったため、生活には苦労していなかった。それなりに良い生活環境です。あり、それもここでは反映されてるかんじですか、なんてトリップ者に優しいんだ! 目玉焼きを作りながらトリップした事についてあれこれ考える。過去に戻ったわけではないんだよなー。だって、外の景色が全く違うし。俺は生まれも育ちも京都だったが、ここは違う、外を見る限り寺なんてない。つまり、過去じゃない。


「あれかな、異世界とか、魔法つかえたりして」

 妹がよく言ってたなんだっけ? 夢小説? の主人公のような気分だ。ある日いきなり自分は異世界にいました! なんかそこで、あら自分意外と活躍するじゃーん? 的な? ある意味そういう展開って、第二の人生歩んでるよなー。物は試しで「えいやっ」と指で目玉焼きを指す。某国民的アニメ真っ青の狸(ねこだっけ)の映画であったように目玉焼きが浮かないかと思ったが、目玉焼きは相変わらずフライパンの上で焼き目をつけているだけだった。浮かない、じゃあここはあれか、魔法のない世界。


「あと考えられるトリップは」

 こんな展開になるんだったら妹の話をちゃんと聞いておけばよかった。あいつ何て言ってたっけ? 焼けた目玉焼きと洗ったキャベツ、カフェオレを机において記憶を引っ張り出そうと考える。異世界トリップの種類は、何個かあったはずだけど全く思い出せない。なんだっけー、なんだっけなー、魔法つかえたりとかの特殊系もあったけど、もっと妹がキモいくらいに興奮してた、是非体験したいらしいトリップは。


ピンポーン


 悩んでいても仕方がないか。目玉焼きを頬張り、熱いカフェオレを一気に流し込んでシンクへ食器を運ぶ。カチャカチャと食器を洗っているとインターホンの音がした。時刻を見るとまだ7時前。誰だよこんな朝早くに人様の家に来る奴は。


ピンポーン


「はいはいはいはーい」

 本日2回目のインターホン。聞こえてますよー、全く朝っぱらからせっかちな輩もいるもんだ。食器をそのままにしてバタバタと玄関に向かい、相手も確認せずにドアを開けた。


「よぉ」
「よぉじゃないでしょ!」
 
 ドアを開けると目の前には見たことある人物が、しかも複数人。え?! もしかしてこれはもしかしなくても現実に、起こっていることですよね? 急展開についていけない俺の頭が一気にショートしたような気がした。あんぐりと口を開けていると不安そうな声が飛んでくる。


「もしかして私達の事覚えてない?」

 ちょっと困った顔をしながら聞いてくる女の子。いやいや覚えてますよ。覚えてるってか、知ってるってか、いや、大ファンですが?! 女の子を見ながら心の中でリアクションをしてます。めちゃくちゃ目クリックリしてんじゃん! 細っ! 実物かわいい!と、とにかく誰かいますぐ状況を説明してほしい。


「バーロー。忘れてるわけねーだろ」
「でも5年ぶりなんだよ、もしかしたらって事もあるかもしれないでしょー!」

「お、覚えてるよ?」

「ほらみろ」
「もーー、びっくりしたじゃない!」
「あ、うん、ごめんね? あと久しぶり?」

 「久しぶり」と疑問符を使いながら言う。すると目の前にいる2人は笑顔で「久しぶり」と見事にハモらせてきた。あ、母さんが言ってた幼馴染はこの2人のことなのかもしれない。


(誰かいますぐこの状況を説明ぷりぃぃいいず!!!!)

 
back両手で掴んで
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