9.後悔先に立たず


「ぶはぁああああ! つかれた……」

 帰ってきてそうそう、俺はベッドに倒れこんだ。携帯をみると新一クンからメールがきてて、「さんきゅうな」とだけ書いてあった。ああ、ほんとに。



 1週間のど真ん中、帰宅部の俺は新一クンと一緒に下校し、家に着くなり夕飯の準備をしていたんだ。1人暮らしに慣れているおかげで自炊できるし、最近は少し凝ったものを作るのがマイブームだった。今日も下ごしらえをし、あとはじっくり煮込むだけ! って時に、新一クンから電話で呼び出されて、バイクを走らせて工藤家へと向かった。新一クンは家の前で待機していたみたいで、俺が到着するなり後ろに乗り、行先を告げる。そこに何があるのかと聞いても教えてくれない新一クンにちょっと腹が立ったけど、まぁ彼のことだから必要に迫られての行動なんだろうな、と思いながら杯戸町へと向かった。
 到着した場所は人込みにあふれていて、パトカーが数台とまっていた。そこで初めて俺は事件現場に連れてこられたのだと知ったんだ。あんだけ関わりたくないと言っていたはずなのに……! そう言い新一クンを睨めば「そんな怒んなよ」と苦笑い。俺はぜってー中に入んねえからな!! そう宣言して待つこと1時間、事件はあっさり解決し、犯人も捕まった。流石は高校生探偵工藤新一。
 あ、そうそう。俺が新一クンを待っている間、野次馬扱いで追い出されずに済んだのは、新一クンが俺のことを目暮警部に伝えてくれていたからだ。でもね、そのおかげで千葉刑事に顔バレしちゃっったから。「君が秋野君? あの工藤くんと幼馴染だなんて凄いね」って。しかも高木刑事にまで見つかって「あの時の子じゃないか! 彼の知り合いだったんだね」なんて妙に納得されちゃたからね。まじかよもう、警察の人に顔も名前もバレちゃったじゃんかよ……。
 事件が解決してからすぐに、また新一クンを自宅に送り届けるためにバイクを走らせる。そうして冒頭に戻るわけです。あれね、簡潔に言っちゃえば、俺アッシー君になってたの。しかも男のアッシー君に。時刻はもう20時。煮込んでる間にお風呂にでも入ってしまおうか。今日の疲れを癒すためにお風呂のお湯を沸かしていたら、チャイムがなった。


「誰だよ……」

 チャイムが鳴ることにあまりいい思い出がない俺は恐る恐るドアをあける。今度は誰だ? また有希子さん? それとも新一クンや蘭ちゃんかな……いや、園子って可能性もあるぞ。そう思いながら開けたドアを、俺は一気に閉めたくなってしまった。ドアの向かうにいた人物は俺の顔を見てニカッと笑う。


「よっ、秋野真緒君?」
「な、んで……」

 これ、落とし物ですよって言いながら右手に俺の生徒手帳を見せてきた黒羽快斗。あの時のカフェで落としたのぁあああ! ばっか、なんで落としたんだ。あれか、慌ててカードとか鞄に放り込んだからか?! よりによってこいつに拾われてしまうなんて……! その時の俺は「なんで、お前がここにいるんだよ」とか、「女装がばれた?」とか、「普通家にまで押しかけねぇよストーカーかよ」とか! 言いたいことは沢山あったんだけど、全部言葉にできなかった。俺のばかぁあああ! そう思い頭を抱える間にも黒羽快斗は「とりあえずさみぃから入っていい?」と横切っていく。奴の侵入を許しちゃった訳ですよ。

(いやぁ、拾ったのが俺でよかったね真緒ちゃん?)(いや、全く?!)

 
back両手で掴んで
ALICE+