1.プロローグ
彼の頭に鳴り響いていた、煩わしい音がやっと静かになった。肩の力が抜けてちょうどよい心地になった時に、駆けつける足音と誰かを呼ぶ声。
「……っ、なんでだよ」
それは、つい先ほどまで電話をしていたはずなのになんとなく懐かしいと感じてしまう親友のものだった。普段では考えられないような、今にも消えてしまいそうな声に彼は力なく笑う。おい、どうした。声に力入ってないぞ。しかし彼の茶化した言葉は上手く届かなかったようで、親友は何度も何度も、壊れたブリキのように彼の名前を呼んだ。
それはこっちの台詞だよ、上鳴
本当はそう答えたかったがどうにも喉が枯れてしまったようで、口をパクパクすることしかできない。そんな彼の様子はまるで声を失った人魚のようだった。目の前で声にならない音を必死に伝えようとしている彼を見た親友・上鳴電気は、ぐっと眉間に皺を寄せて今にも泣きだしそうな表情を見せる。
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