5

 学校が長期で休みになると、その内の何日かはケイの家で過ごしていた。この日からこの日までが休みだから迎えにきて欲しい。絶対ぜったい忘れないで欲しい絶対、と日にちをすぐに忘れてしまう相手へ何度も釘を刺してカレンダーをよく見せる。すっぽかされた経験は一度ではないのでキィニチは口を酸っぱくして何度も伝えた。一年の中の貴重な一ヶ月でもケイにとってはあっという間の、なんてことのない日々であるから。北には若い君が好むものなんてなにもないと思うのだけど、と呆れたように言われるがキィニチから会いに行ける手段がない以上迎えに来てもらうしか仕方ない。それに北を好きと言うと、ケイはわかりにくく口許を弛ませるのだ。

 横を向いているケイの胸元に頭を寄せて、キィニチは眠っていた。
「……ン、……ぅ、ッあ……?」
 ふる、と身体が無意識に震えて、眠りから呼び覚まされる。ぼやけた視界、数度瞬きをした。目の前の花の香りを肺いっぱい吸い込んで、温もりに抱きつこうと動いたことで布が擦れ合う。そこでようやく、ぬるり、と股を濡らす不快感に気づいた。
(……最悪だ)
 毛足の長い毛布に隙間を作り、温もりを手放すように身体を外に滑らせる。
 原因は分かっていた。この家に来てから自慰をしていない。むしろ、来る前からしていなかった。律していた訳でも自制していた訳でもなく、ただ単純にタイミングと時間がなかった。
 生活を振り返る。休みに入ってからの数日間は母親の手伝いや家事をしていた。くたくたで帰った時に家が綺麗であれば嬉しいだろうか、好物がテーブルに並んでいると喜んでくれるだろうかと、自分を守ってくれる大好きな人が少しでも休み、幸せになって欲しい一心で動いていた。キィニチの仕事は着ている服や古くなった家の修繕、庭の草むしりや家事全般、買い出しなども含み多岐に渡る。日々は慌ただしく過ぎて、落ち着いたタイミングでケイがふらっと訪れた。
「ん、……なに、もう……寒いよ」
 部屋を満たす冷たい空気が毛布の中に入り込んでいた。
「ケイ、起こしてすまない……、ちょっと」
 長い腕がキィニチを探して抱き寄せる。あっという間に捕まって縮まった距離に喜ぶ心を今だけは無視する必要があった。身体に密着しないよう、特に下半身に気を配りながらもぞもぞ動き、やんわり距離をとる。跳ねた心臓を気取られる訳にはいかない。
「少し、出るだけだから」
 枕に半分埋まった、ケイの眉間が寄っている。目を開けるのも億劫な姿に笑みが漏れる。この油断した姿を一体どのくらいの人が見せてもらえるのだろう。
「ん゙[D:12316]……」
「すぐ、戻る」
 そう言いながら立ち上がり、努めて平然を装い部屋をでた。音を立てぬよう扉を閉め、冷たい床を踏みながら早足で風呂場へ向かう。明かりを灯しボトムスを引っ張り覗き込んだ。下着の中で、ねばっとした白い体液が陰茎に纏わりついている。溜め込んだ分だけ多く出たようで不快感も酷い。確認しなくとも分かっていた事象に思わず溜め息が漏れた。下がった気持ちと相対して、妙にスッキリしているのがことさら虚しく思えた。
 キィニチは十四歳になるが、精通を迎えてからまだ日が浅い。周りの聞こえてくる会話を聞く限り、自分は遅い方らしかった。よく分からず射精に至った時、性教育をきちんと受けていたので病気だとは思わなかったが、実際はまだ戸惑いが残る。
 母はもちろん、キィニチの友人はなぜか女性が多い。かなり個人的なことだ、さすがに相談できない。身近な相談できる男性──。それに当てはまる人材がいるにはいるが、昔から想いを寄せたケイにだけは、絶対にできない。
 下だけ脱いで服を洗い流す。忙しさにかまけて処理しないとこうなってしまうのかと面倒に思った。
 次に下半身も洗い流す。キィニチが遊びに来るようになって取り付けられたシャワーはこの国に腐るほどある雪の、解けた水を綺麗に濾過して使っているらしい。いつの日かケイが得意気に語ってくれた。
 魔法がなくとも使える装置を付けてくれたことがありがたいし嬉しいが、家という極々個人的な場所にキィニチのための物が存在していることに感動のような幸福を覚えるのだ。だって彼一人なら、かつての踏み台もこのシャワーも必要ない。危なくないように、不便をしないようにと気にかけてくれる。ぎゅうっと胸が締まる。きっと幸せとは笑いたいような泣きたくなるような複雑な味を持って心に去来するものをいう、のかもしれない。
 湯が身体に当たり続ける。上のシャツが濡れていることに気づき慌てて腹の上までずらした。もう、洗い流せたのですぐに湯を止めればいいのだが、年頃な思考が広がったまま片付かない。
(もう一回、……出しておきたい、ような)
 平たく飾らずに言えば、むらむらしていた。閉ざされた空間で、贅沢に出続ける水が重力に従い床に散る。反芻するように音がパチパチと響き合っていた。早く身体を拭いて戻らなければと思うのに性欲とは恐ろしいもので、落ち着いたはずの熱が、また籠ったように思考を鈍らせる。
 しばらく逡巡した後、諦めたように手のひらで竿を包み込んだ。浅はかにも芯を持ち始めた陰茎を撫でるように上下に擦ると、ビリビリとした快楽に襲われ目を細める。
「う……っく、……は、ぁ」
 こういう時に考えるのはケイのことだった。
 普段のケイは外出中に雪の深い静かな香りや、スパイスの混じる尖った悪い大人の香りがする。しかし家にいると決めた日は柔らかく繊細な花の甘さを薄く身体に纏っているのだ。いつの間にか安らぎのように感じられるそれが、キィニチの身体に移るほど密着して眠るのが好きだ。
「っ、ん……」
 空気を吸い込むと仄かに小さな花の香りがするような気がした。鼻から息が漏れて次第に荒くなる。幸いにも寝室と風呂場は物置部屋を挟んでおり、降り注ぐ水のおかげで外に声は聞こえていないはず。
 完全に勃ち上がりピクリ、と反応を示す熱をぎゅっと手のひら全体で強めに握りしめた。自分とは思えない弱々しく高い声が「あっ」と溢れ、取り消すように首を横に振る。濡れた髪の毛が首や顔に貼り付くのが煩わしい。
 それでも悦を手放すことができず、今度は強弱をつけて扱いてみる。焦らすように手首から動きをつけて刺激すると鮮明な性感に身体が熱くなった。
「……っく、ぅ……[V:9825][V:9825] っ、ん」
 降り注ぐ湯が頬を滑り落ちた。
 親指でカリ首の僅かな段差を優しく擦ると、経験のない刺激に腰が震え、立っていられなくなり背を丸めながら壁伝いに座り込む。くらくら視界が揺れて飲んだこともない酒の甘美な酩酊を味わっているようだ。
「ん、んっ……、ぅ[V:9825]」
 キィニチは唇を噛み締めてなるべく声を漏らさぬように気を配った。だが数回ずりずりと擦るだけで快感に力が抜け、あっという間に解けてしまう。きもちいい。きもちいいから。不思議なことに、環境が違うからか普段の自慰よりも数倍感じ入ってしまっている。出したい、気持ちよくなりたい、夢中で官能を追い求めていた。
「[V:9825] ……ん、……んん゙[V:9825] ぁッ、ぁっ」
 弾んだ息の隙間からはあえかな声が溢れていく。ケイ、ケイ、と心の内で何度も繰り返し呼んだ。あの人はどうやって人を抱くのだろう。そんな話はしたことがない。昔のように共に住んでいない今、会わない時間をどう過ごしているかもキィニチにはさっぱり分からなかった。ケイは聞いても話してくれないことが多い。もし、仮に他の魔法使いと愛し合っていたらとても嫌だ。
 割れた薄氷のような、伸びた水の軌跡に生温い涙が混じり合う。キィニチを甘やかす時の声や、穏やかな光を灯す瞳、白磁の滑らかな肌と細やかな作業が得意なスラリと伸びた指。自分にだけ向けばいい。思い出すと胸がいっぱいになる。誰だって想うくらいは自由なのだ。すき、すきだと。
「ぁん、……ッ[V:9825] はぁ、ぁ」
 始めは薄い色だったはずの亀頭が、今はぷっくり腫れたように赤く染まっている。蜜のように溢れた先走りを掬い取って混ぜ合わせ、手のひらでぐちゅ、ぐちゅと音を立てながら先端を潰すと、また「んぅ[V:9825]」と声が落ちた。
下半身から湧き上がるとろけるような快楽がじわじわ全身に拡がっていく。音もさながら、視覚的にも「いやらしいことをしている」という認識が一層キィニチを昂らせる。

 ガチャ、と戸惑いなく開けられた扉に、一切の音が失われたように思えた。
「ねぇ、君遅いよ? 抱き枕としての自覚、が……ァわ、……わァ」
「!? け……、ッや、ちが、……これ、は」
 サァ、っと血の気を失い顔が青くなるのを感じた。座り込み下だけ服を脱ぎ捨て陰部を触っている。なにをしていたのかと、弁解や言い逃れはできなかった。「え、……っと」ケイが肌を叩く水を止める。瞬間、耳に痛いくらいの沈黙が訪れた。虫ピンで留められた獲物のような痛みを胸に抱えながら視線を下げる。
 文章を脳内で綴っては打ち消すを繰り返したが、まともな言い訳一つ、思いつかない。
「……邪魔してごめんね、続きどうぞ。ぁ、せっかくだし見てていいかな?」
「ぇ、…………いや……、さすがに」
 落ち着きを取り戻した声で見てていいかな、なんて言葉が返ってくると思わなかった。人の家でこんな時間にと咎められるか、黙って寝室に戻ってしまうか、呆れられても仕方ないことだと思ったから。
 すっかり萎えてしまった陰茎に視線が集まる。キィニチは行き場のない恥ずかしさに身体を真っ赤に染めた。
「あらら。……寝れる?」
 そして信じられないことに、この状況でもケイはキィニチを抱き枕として連れて戻りたいらしい。あまりのマイペースさに狼狽えるキィニチ。長身が首を傾ける仕草はどこか幼さがあり、惚れた弱みか場違いに可愛いと思ってしまう。
 頭を支配するような熱は落ち着いてしまったので、眠れるは眠れるはずだが出していない以上また繰り返しこういった事象が起きるかもしれないと思うと気が重くなった。返答を濁す。
「寝れない? 手伝ってあげようか」
「っ」
 思いがけない提案に動揺して、あからさまに声が詰まった。簡単に見透かされたその挙動に「はは」と笑みを漏らされる。
 幼い頃に使っていた踏み台をケイは身体のサイズまで大きくしてその上に腰掛けた。膝をくつろげてポン、と叩き「おいで」と穏やかに笑いかけられる。キィニチはどうしたらいいのか分からずに濡れた地に座り込んだまま左右に視線を揺らす。ごくり、と乾いた口でようやく唾を飲み込んだ。好奇心や羞恥や恋心を全て呑み込んで、従順を捨てきれない足取りで近づいた。迷いを導くように腕を取られ、横に抱えられる。
「いいこ」
 額に柔くご褒美のように口付けられた。いい子なはずは、ない。たまらず許しを乞うように首に腕を回して擦り寄った。とりあえず怒ってはいないようで、呆れてもいないらしい。不安が取り除かれた次は緊張や高揚が一度に襲い掛かりキィニチは脚を落ち着かなく擦り合わせる。
「けい……」
 思った以上に焦れて急かすような声がでた。
「ん? あ、ごめんごめん、触れていい?」
 手伝うとは、触れるとは、本当にそういうことなのだろうか。薄く開いた唇が震える。
「……気持ち悪く、なければ」
「ふふ。ないよ、全然。そんなこと言わないで可愛い子」
「……ん」
 なんだかよく分からないが、変に思われてもいないらしい。この魔法使いが変な人でよかった。
 籠った熱気も随分落ち着き、雪解けの水は遅々と排水口へと流れている。天井や壁から不規則に落ちた水滴が、密やかに響きながら地に落ちている。じっとりした空気が肌を包んでいた。
 まつ毛についた涙を払うように瞬きをすると思考も視界も鮮明になり、眼前に晒された痴態にどうしようもない気持ちになった。そんなことは知りたくなくて顔をケイの胸に埋めてはすぐに気になって、視線を下半身へ戻してしまう。呼吸が落ち着かない。
「ねぇ、君こそ気持ち悪くない?」
「……ない。俺も、大丈夫、だ」
「そう」
 願ったり叶ったり、という言葉を唾と共に飲み込んだ。ケイは薄い唇に微笑みを湛えたまま、キィニチの陰茎を優しく掬って手のひら全体で包み込む。「ッ、ん」と漏れた情けない声を聞かれたくなくて唇を噛み締めた。
 熱を分け合うように扱かれた後は、指先が亀頭を往復した。親指が鈴口の周りを擽り、僅かに滴る先走りを伸ばしていく。数回くるくると円を描いてから、蜜を垂らす真ん中の小さな穴を指で埋めるように触れられた。ぬめる体液の力を借りて、接着したまま僅かに振動させ、素早く動かされることで思考が溶かされてしまう。
「そこ、ぁ、ぁッ[V:9825]」
 触れられて間もないうちから、呼吸は急速に乱れていく。無意識に足の指をぎゅうっと丸め、迫り来る波に耐えた。
 一人でする時とは違い、予測できない動きが着実に快楽を運び込む。
「っは、ぁ……[V:9825] んぅ」
 竿を人差し指と中指の指間に挟み、そのまま動かされる。どうやって人を抱くのだろう、という解をまさかこんなにも早く貰えるなんて。都合がいい。夢見心地だ。上下に焦らすような動作と思えば、力が加わり宥めるように撫でられる。絶え絶えの息のまま、手のひらで隙間なく握り込まれて「ひ、ぁ[V:9825]」と声が溢れた。密着したケイの指が動く時に、ぐちゅ、と顔を覆いたくなるような粘着質な音が鳴る。
「っふ、ンん[V:9825] 音、ぃやだ……ッ」
「音? あぁ……、ごめんね、聞こえちゃうね」
「ぅ、……ぁ、くそ、っ[V:9825] ァ、やっ」
 音も嫌だし声も嫌だ。輪を作り、圧がかかった指が動くと、ちゅ[V:9825]くちゅ[V:9825]とあからさまに卑猥な音に耳まで犯されているように思えた。嫌だ嫌だと喚いて煩わしいだろうに宥めるようにあやされる。
「でも気持ちよさそうでよかった。偉いよ、えらい」
 恥ずかしさで顔を埋めていると耳元で声がかかる。続けて髪の毛にそっと口付けられていることに気づいたので、吸い寄せられるように顔を見せると額に唇が落ちる。優しくて、柔らかくて、好きで、泣きそうになる。幸せの味がした。とろりと甘い快楽に浸されて身体の力が抜けていく。抱えられた身体は、どこもかしこも火照って最早隠しようがない。
 にゅるにゅると滑りを利用して動く手のひらは次第に速くなっていく。軽やかな、しかし絞り出すような動きに腰が震えた。
「……はぁ、ぁっ[V:9825] んぅ゙[D:12316][D:12316][V:9825][V:9825]」
 息を切らしながらも下を覗く。一度出しているのにも関わらず痛いくらいに勃った己の性器は、今までで見たこともないくらい張り詰めていた。大きな白い手に包まれ先端だけが顔を出す。赤く腫れた亀頭からはとぷ、とぷと絶えず先走りが垂れてケイの手を汚していた。
「ぅ、[D:12316][D:12316]ん゙ッ、ぁ[V:9825] っ[V:9825]」
「……我慢してるの? しなくていいよ早く楽になりなよ」
「や、だって、うぅ[V:9825] んッ」
 快楽に向かって素直に楽になりたい気持ちが大きいが、触られて嬉しく思う気持ちも大きい。キィニチは必死に首を振った。
「自分でやったほうがいい? そうする?」
「ぁ、ちが、……んッ、出、したら、ぁッ[V:9825] おわ、る、から……[V:9825][V:9825]」
 意思を確認する問いかけに、なんとか返答する。もう少しだけ、もう少しだけこの時間が続けばと、引き伸ばして耐えているがもう限界が近い。
「なぁに、それ」
 吐息だけで笑うような淡い声が耳に入った。ひだまりのように思える場違いな笑い方に胸がいっぱいになった。
 目の前の身体を抱きしめて鼻を首元に押し付ける。小さな花を束ねたような春の香り。溢れた涙はケイの薄手の服に滲んでいった。本当は、好きと言いたかった。
「ぁっ! で、でちゃ[V:9825] でる、から、けい、けぃ[V:9825]」
汚してしまうから手を離して欲しいのか、そのまま官能を与え続けて欲しいのか、キィニチには判断がつかないまま絶頂を迎えた。身体が跳ね、意識が弾けたように散らかっていく。
「ぁっ[V:9825] あ、あぁ、[D:12316][D:12316][D:12316][D:12316]ッ[V:9825][V:9825]」
 声量も我慢ならなくて、ただただ身を任せるしか選択がない。解放の末、勢いよく飛び出た精液をケイの手が受け止めた。乱れた呼吸のまま顔を寄せると心を見通せるのか、頬に口付けられる。お返しにキィニチからも唇を寄せるとケイは慈しみを含んだ顔で受け入れた。
 汚れていない側の手でしっかりと抱きしめられる。昔からよく知っている安心できる場所。息を弾ませたキィニチは余韻の残る身体で少しの空気が入り込まないほど肌を合わせた。服越しというのがただただ惜しい。

 涙の浮かぶ視界で呼吸を整える。眠りから覚めてほんの数十分で、日常は目まぐるしく崩れ去ってしまった。
 キィニチはケイの白く伸びた髪の毛を引っ張って視線を寄せる。こんな時だからこそ、話せる気がした。
「最近、俺はおかしいのかって、考えたりして」
 昔と随分勝手の違う身体のこと、これからを不安に思っていること。なにより、幼い頃から育ててもらったと言っても過言でないくらいの相手へ、性的な欲求を向けてしまっていること。ずっと好きだが、その「ずっと」はおかしいのではと、十四歳にして不安に思えてきたのだ。
 キィニチは明確に自他境界を分けて物事を捉えられる性格であるし、一般的に語られる幸せが魔法使いである自分に当てはまるとは思っていない。それでも、例外があった。
「けい……おれ、変じゃないか……?」
 これは全てに対しての問いだった。曝け出した不安な心は柔くてすぐに傷ついてしまう。否定されたいのか肯定されたいのか、キィニチにも分からない。
 ケイは数度の瞬きを繰り返し「変……」と考え込んだ。手のひらに残った白くねばつく体液を見つめ、親指と人差し指で弄んだ後、唐突に口に含む。迎えた赤い舌や、濡れた唇が閉じられる瞬間をキィニチは信じられない光景を呆然と眺めていた。
「……こんなものじゃない? 大丈夫」
「なめ、……なくても、よかったんじゃ、ないか」
「味とか見た目は、変じゃなかったと思うけど。……、……もしかして、そういうことではない……?」
 二人は無言で見つめ合う。突如として訪れたよく分からない緊張感の中、キィニチは僅かに首を縦に振った。
 ケイは過ちを悔いるように静かに瞼を落として、深いため息を吐く。キィニチはキツく抱きしめられたが、抵抗もせず大人しく身を委ねていた。
「あ、はは…………。うん、ごめんねやり直したい。なんでそう思った? 僕に教えて」
 ケイはずっと一人で永く過ごしているので、自分の速度を大切にしながら生きている。その人が吐いた言葉を取り戻すように矢継ぎ早に話し出したので、キィニチは面白くなってつい小さく笑ってしまった。言えない、言えないのだが、心が少し軽くなった。
 慌てた顔のまま、戻ろうか、と魔法で身体と服を綺麗に整えられた後に、横に抱えられ寝室へと移動する。成長に伴い背が伸びるにつれ、めっきり抱き上げられなくなった体躯。久しぶりの浮遊感を享受した。嬉しいと思ってしまうのは、場違いな感情だろうか。