『ーーと言う訳で、私も皆の旅に参加してもいいかな?』
「ああ!一緒に行こうぜ!」
「もちろんよ!人数は多いほうがいいし」
「うれしい!ロゼリアとかナマエのポケモンのお世話してもいい?」
いいよ、と言ってユリーカの頭を撫でた。
さすが断られるとは思ってなかったけど、思ったよりも皆が嬉しそうで安心した。
「ほらね、言ったでしょ?みんなナマエのこと大歓迎よ」
『ふふふ、ありがとう』
ほっとしていた私に耳打ちしてそう言ってくれたセレナ。サトシにセレナに本当にいい友達に恵まれたなあ、と心の中で思う。
ふいにシトロンくんを見ると目があったのでにこっと笑いかけた。
「シトロン、モジモジしてどうしたんだ?」
「な、何でもないです!さあ、行きましょう!次はショウヨウシティですよ」
「ああ、そうだな!」
「ちょっと待って。ていあーん!
せっかくミアレシティに戻ってきたんだし、プラターヌ博士に挨拶してから行こうよ」
右手を上げてセレナがそう提案した。皆がその提案に賛成したのを確認して私はセレナの隣に立った。そしてセレナと声を合わせて大きなバスケットを開けた。
「『じゃじゃーん』」
「昨日、ナマエと一緒にマカロン焼いたんだ!」
『私はセレナのお手伝いしただけなんだけどね』
「そんことないよ。ナマエがとっても手際よくて助かっちゃった」
昨日の夜、セレナがキッチンでマカロンを作るのをたまたま見たから少しだけ手伝った。
そのときに、一緒に旅をしたいって事も話したんだけどマカロン作りをそっちのけで喜んでくれた。それに"同い年の女の子と一緒なら凄く安心!"と言われたから、私も嬉しくなった。
「わあ、カラフル!おいしそう!」
「博士と一緒に食べよう!」
みんな、マカロンに目をキラキラさせていたのでお菓子作りは大成功だった。
*
『博士、お久しぶりです』
「やあ、ナマエくん。久しぶりだね!キミのお父さんから既に聞いてるよ。こっちで何か困ったらいつでも頼ってね」
『あはは…。そうなんですね。ありがとうございます』
博士に挨拶をすると、既に私がカロスに来ることはパパから連絡がいっていたらしい。心配症のパパを持つのも案外大変だ。それから博士にサトシ達と旅をする事を伝えた。
「みんな一緒に旅をすることになったんだね。素敵なアイデアだよ」
「博士!皆さんに食べてもらおうと思ってナマエと一緒にマカロンを作ってきたんです!」
そう言ってセレナがバスケットを開く。博士は鼻をくんくんさせた。
「ん〜、甘い誘惑だね」
「へえ、美味しそうね。じゃあお茶にしましょう」
私達はお茶の時間にすることになったんだけど博士は仕事があるようで、ソフィさんと5人で談話室のテーブルを囲んだ。
「じゃあ、みんなで頂きましょう!」
「って、どこにあるんだ?」
『あれ?マカロンがない…』
テーブルの上にあったマカロンがなくなっていてキョロキョロしていると、ソフィさんが観葉植物の裏にいた犯人に声をかけた。
その犯人はハリマロンというカロス地方の初心者向けポケモンの1匹だった。サトシがハリマロンに図鑑を向けると説明音が流れた。
"ハリマロン いがぐりポケモン
普段 柔らかい 頭の 棘は 力を こめると 鋭く尖り 岩をも 貫くことが ある"
「かわいい〜」
「マカロンが欲しかったら言ってくださいよ。みんなで食べましょう?」
シトロンがそう言ってハリマロンに手を差し伸べた。
「痛っ!」
ハリマロンは頭の棘に力を込めてシトロンの手を刺すと、マカロンを口いっぱい手いっぱいに持って逃げていってしまった。
『大丈夫?怪我してない?』
「ええ、大丈夫です」
『シトロンくんは大丈夫でも、手の方は大丈夫じゃないみたいだけど?』
棘で刺された指を見ると血が少しだけ滲んでいた。私はカバンから絆創膏を取り出すと指に優しく巻いた。
『ごめんね、こんなのしかなくて』
スボミーのかわいいイラストが描かれた絆創膏なんて恥ずかしいかもしれないけど、今はこれしかないから仕方ない。
「い、いえっ!あ、ありがとうございますっ。助かりました」
するとシトロンはキョロキョロと視線を泳がせた。何だか今朝からちょっとだけ変なシトロンに不思議に思った。
シトロンはすりすりと私が巻いた絆創膏を撫でながら、ハリマロンが逃げていった先をじっと見つめた。