ショウヨウシティへ向かい旅を続ける私達は開けた原っぱの真ん中で次の街へ続く道を進んでいた。
すると突然サトシが急に立ち止まった。
「何だ?今の音…」
「え、何?」
私達はキョロキョロと周りを見回して耳を澄ましてみる。だけど、何も聞こえては来ない。
「何も聞こえませんけど…」
「うん」
「気のせいじゃない?」
『風の音とかそういうのじゃないの?』
「いや、確かに聞こえたんだって」
そういうサトシは真剣な顔をしていて私達もより注意深く周りを見回した。
数秒の間が空いたあと、ぐるるるとお腹が鳴る音がした。
…サトシから。
「まさか、」
「アンタたちのお腹の虫じゃないっ!」
「へへへ」
『もうすぐポケモンセンターにつくし、そこでランチにしようか』
ユリーカがツッコミを入れると、サトシとピカチュウは少し恥ずかしそうにしながら笑った。最近はもっぱらサトシのお腹の音がランチタイムを告げるチャイムになっている。
「…待って、あの音は」
低いエンジン音がだんだんと近づいて来たことにセレナがいち早く気がついた。
すると、道の向こう側から猛スピードで煙を上げながら1台の車が走って来るのが見える。
運転手は私達など見えていないようで、スピードそのままに突っ込んで来た。
「わあああっ」
「危ないっ」
『きゃっ』
反応に遅れた私を、ユリーカを片手に抱いたシトロンが空いた手で引っ張ってくれた。セレナとサトシも道の脇に寄ったようでみんな無事だった。
私達は間一髪、車との衝突は避けれたが、当の運転手は何も言わず走り去っていった。
「危ないなあ」
「ったく、何なのよアイツ」
「ナマエ、ユリーカ、大丈夫ですか?」
「うん!」
『あ、ありがとう。シトロンくん、その、手…』
シトロンへ抱きかかえていたユリーカを下ろすと、私とユリーカに優しくそう聞いてきた。
何故かユリーカは下ろしてあげたのに私の手は未だに握られている。それに恥ずかしさがジワジワと押し上げてきて、シトロンの目を見ることが出来なくなる。
「えっ、あっ、ああ!すみません!」
『う、ううんっ、気にしてないよ。助けてくれてありがとう』
「い、いえ。あははは…」
パッと離された手に名残惜しさが残る。お互いにモジモジしているうちに向こうからまたエンジン音がした。
「…どいて!どいてー!」
ジュンサーさんの大きな声が聞こえ、そっちを見ると猛スピードを出しているバイクに乗ったジュンサーさん横を通り過ぎていった。
「ジュンサーさんが追いかけているって事は、」
「車で逃げていたのは悪い奴って事ですね?」
「何か事件かも!」
「よし、俺達も行ってみよう!」
おそらく何か悪い事をしたであろう車の男を追っているジュンサーさんを私達は追いかけた。
車とバイクのスピードに到底追いつけるはずもなく、ジュンサーさんはどんどんと遠くなっていった。
「っはあ、…もう、だめ」
一番最初に体力に限界が来たのはシトロンで、地面にへたり込んでしまう。
「お兄ちゃん、しっかりしてよ」
「大丈夫か?」
『シトロンくん、大丈夫?』
みんなで座ってしまったシトロンに駆け寄る。
すると、シトロンはすぐ近くに何かあるのに気がついた。
「な、何かいますよ?」
視線の先にはゲージのようなものがあり、ちょこちょこと出てきたポケモンはコフキムシだった。
「見たことないポケモンだ…」
サトシが駆け寄り、ボケモン図鑑をかざす。機械音声が流れ、コフキムシの説明がされる。
"コフキムシ 粉吹きポケモン"
"鳥ポケモンに襲われると黒い粉を撒き散らす。体を覆う粉は体温を調節する"
するとコフキムシは黒い粉を撒き散らしてこちらを威嚇した。
『黒い粉?これは…』
「警戒しているみたいですね」
「落ち着け、コフキムシ。俺たちは敵じゃない。味方だ」
サトシが視線を合わせてコフキムシにそう話しかけると、ばたんと体を地面に付けて倒れた。
「ああっ!しっかりしろっ」
『その子、弱ってるみたい』
「急いでポケモンセンターに連れて行こうよ」
「それなら任せて!ポケモンセンターはこっちよ!」
セレナが素早くマップでポケモンセンターの場所を調べる。
こうして私達は弱ったコフキムシを治してもらうために、ポケモンセンターへ急いだ。