『やーっとついた』

長い空の旅を終えて、ようやく私達はシンオウ地方からカロス地方についた。
飛行機を降りると腕を空に向け、思いっきり伸びをする。足元でロゼリアも同じようにしているのを見てふふっと笑ってしまった。
どうやら、何年かぶりのミアレシティに心を踊らせているのは私だけじゃないらしい。笑っていた私を見てロゼリアは早くと言わんばかりに鳴いた。

空港を出ると真っ先に目に入ったのはプリズムタワー。街の中心にあり、ここミアレシティのシンボルだ。
初めてそれを見たのは、この広いミアレシティで迷子になった時だった。その時は首が痛くなるほど高いプリズムタワーが少しだけ怖く感じた。
今となってはあの時の記憶さえ懐かしく、胸の奥がぎゅっとなった。

『ミアレシティ、久々だね。相変わらずお洒落でキラキラしてる。』

ロゼリアを連れてメインストリートを歩く。街のすべてがキラキラしていて、ブティックのショウウインドウから見える服やアクセサリーは小さい時にずっと眺めていたことを思い出させた。
それだけじゃない。この街には私の淡い初恋の思い出も沢山詰まっている。

『そういえば、ロゼリア以外の子たちはカロス地方初めてだもんね。ポケモンセンターで少し休憩したら見て回ろうか』

そう言うと、腰につけた3つのボールがカタカタと揺れた。この子たちも新しい街にワクワクしているのかもしれない。
急ぐ気持ちでポケモンセンターへ向かう足取りも早くなっていった。


*


ポケモンセンターへ向かう途中、とある噴水広場が見えた。

『あ、ここ…』

プリズムタワーを背に噴水から水がキラキラと吹き出している。その光景に懐かしさが一気に押し寄せてきて、自然と足がそっちに向かっていった。

ここは、初めて来た海外で迷子になって泣きじゃくっていた私に彼が声をかけてくれた場所だ。
その時は迷子になって、周りにいた人全員が見たことのない格好や髪色をしていて、私はもう家に帰れないんじゃないかと大きな不安に駆られていた。
そんな時に私に手を差し伸べてくれたのが彼だった。優しくて、発明が大好きで、電気ポケモンへのたゆまない愛も持った彼に幼い私は恋をした。
昔の記憶が蘇ってきゅっと私の胸を締め付ける。そういえば、彼はまだこのミアレシティにいるんだろうか。
そんな事を考えて、私はぼんやりと噴水を見つめた。

『あれロゼリア?』

ふと足元を見るとさっきまでいたロゼリアがいなかった。キョロキョロと周りを見回すも姿は見当たらない。
慌てて広場を出るも見知った後ろ姿は見えなかった。たった1.2分いや5分も経っていないはずなのに、何処へ行ってしまったのだろうか。
知らない人がまるで他人かのように私の横を通り過ぎていき、昔ここで迷子になった時の記憶が再生される。
そして、ぶわっと押し寄せた不安に目が熱くなった。私は泣くまい、とふるふると顔を横に振って走り出した。


*


『ロゼリア?ロゼリアー?どこにいるのー?』

どのくらい探し回ったか分からない。額からは汗がたらり、と流れる。足もだんだんと疲れてきて、走れなくなっていた。
休憩がてら近くにあったベンチに座る。空を見るとカロスについたときにはまだ下の方にあったた太陽が真上に来ていた。
ミアレシティに来て、もしかしたら彼に会えるかもしれないなんて浮足立っていたのが悪かったのかもしれない。だって、こんな広い街でロゼリアを見失って見つかる保証なんてない。
どんどんと自分を責めていると、1筋の涙がこぼれ落ちた。

その時、カタカタと腰のボールが揺れてグラエナが出てきた。くぅん、と心配そうに鳴くと私の頬を伝う涙をそっと舐めた。

『心配してくれてるの?ごめんね。ロゼリアが急にいなくなっちゃって…』

心配してくれているグラエナを優しく頭から背中まで撫でる。すると嬉しそうに私にすり寄ってきた後、低い声で鳴いた。

『一緒に探してくれるの?』

そう聞くと頷いたグラエナはくんくんと周りの匂いを嗅ぎ始めた後、おもむろに歩き始めた。そして着いて来いと言わんばかりに鳴いた。


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