お気に召すまま、お嬢サマ




いつも住んでる家の周りとは違って、道端に所狭しとテントが張られそこで果物や食べ物が売られている。
前に衛生上大丈夫なの?とか聞いたら、大丈夫じゃなかったらオレら死んでるっスと言われてしまった。
この街には似合わない綺麗なシルクのワンピースを靡かせて、目的の人を探す。キョロキョロしてるのと服装のせいも相まって視線が集まる。今日は黙って出てきたからお付きの人はいないし、変な事に巻き込まれたら外出すら許されなくなりそうだから慎重にしなくては。そう思っていると、グイっと腕を引かれて路地裏へ雪崩込む。そして手を引っ張った人は私を後ろからぎゅっと抱きしめた。

「ねえ1人で歩いてたらオレみたいなハイエナに連れ去られちゃうッスよ。お嬢サマ?」

私を抱きしめた人物は首に顔を埋めてグリグリとおでこを擦り付けた。どこかの本で読んだことあるけど、これはマーキングの1種らしい。大きめの耳がぴくっと動いてくすぐったい。顔の横に来た頭を優しく撫でると私はその人物に話しかけた。

「ラギーくん!やっと会えた!」
「ナマエちゃん、ホントに変なヤツとかいるから迂闊にこの辺歩かないで欲しいんスけど」
「でもここ通らなきゃラギーくんの所にいけないよ?」

はぁー、と大きくため息をついたラギーくんは抱き締める力を強くした。ちょっと痛い。

「ナマエちゃんに言ったオレがバカだった。次から来るときは連絡して?迎えに行くから」
「えー別にいいよ。なんか冒険してるみたいで楽しいじゃん?」
「冒険してるみたい、で済んだらいいんスけどねえ」

すると鼻をくんくんとさせたラギーくんは、私の手に持っているバスケットを見る。あ、気がついたかな?ラギーくんのためにドーナツを買ってきたんだ。私が1番好きなパティシエがいるお店のものなんだけど。

「これ、もしかしてドーナツ?」

気がつくと私のもの手の中にあったバスケットはラギーくんの手に渡っていて、いつの間にっと思ってるうちに蓋を開けられた。

「もうっ、勝手に開けないでよ!せっかく内緒で持ってきて驚かせようと思ったのに」
「オレに内緒なんてムリな話っス。特に好きなものは匂いですぐに分かっちゃうんスよ?」

そう言って首に唇を寄せちゅっとキスをすると、すーはーと私の匂いを嗅ぎ始めたラギーくん。恥ずかしいのとくすぐったいので身動ぐが、抱き締められているためそれも上手くはいかない。

「やっ、恥ずかしいよ。匂い嗅がないで…」
「だめ、逃げないで。オレの大好きな匂い嗅がせて欲しい」

さっきからずっとこの体勢だし、そろそろラギーくんの顔がみたい。依然として私の首近くでスンスン匂いを嗅いでるラギーくんの耳をそっと触る。ぴくっと耳が反応した、あっかわいい。

「せっかくラギーくんに会いに来たんだから。そろそろ顔みたい、な」
「もう、しょうがないッスね」

ようやく離してくれたラギーくん。彼の方へ向き直ると前会った時と変わらずニヤッとした笑顔で犬歯が覗く。その右手にはしっかりと私のバスケットが握られており、私が脳内で思い浮かべた渡すシチュエーションはもう既に崩れていてそれに肩を落とす。

「それね、私のお気に入りのパティシエに頼んで作ってもらったの。沢山作ってくれたから、おばあさんとか小さい子達の分もあるよ!ほんとに美味しいから皆で分けて食べてね?」
「……はー、これだから金持ちは」

大きくため息をついて、額に手を当てるラギーくん。どう思ってるかまでは分からないけど軽く馬鹿にされた気がしてムッとする。そしてラギーくんの右手にあるバスケットを取ろうとした。

「もういいもん、そんな事言うならドーナツあげない!返して」
「やだね、貰ったものは返さないッス」

シシシッと特徴的な笑い声を出して右手を高く上にあげる。私の身長的に絶対に届かない位置まで上げられて余計にムカつく。ぴょんぴょんと飛んで試みるも一向に手が届かない。するとラギーくんの手が腰に周りラギーくんに引き寄せられる。

「これはもうオレのものッスよ」

そう言うとニヤッとした笑顔でラギーくんは私の唇に噛み付いた。はむはむと唇を甘噛みされて口を開けてしまったが最後、舌が入り込んできて追い回される。
ラギーくんの舌に捕まり絡められ、じゅるじゅると吸われる。気持ちよくてフワフワしてると唇が離れた。唾液が糸のように伸びて切れる。どくんどくんと心音が早くなる。

「っはぁ、ラギー、くん。いきなりやめてよ…」
「でもこんなに心臓バクバクしてる。ナマエちゃんそんなんだとすぐに死んじゃうッスよ」
「ラギーくんのせいだよ!ほら、行くよもう!」

ラギーくんの胸を押して距離を取ると左手を掴み路地裏を進んでいく。今日の目的はドーナツを皆に届けることなんだ、ここでラギーくんに流されてはいけない。

「ナマエちゃん道分かるんスか」
「分かんない!」
「はいはい、オレが案内するッスよ。ナマエお嬢サマ?」

その言い方ちょっと馬鹿にしてるから嫌なんだけどなあ。ラギーくんは私の前に行くと繋いだ手の指を絡めて進み始めた。