相対的幸福論




※エー監、結婚if


「ねぇ、起きて。エース起きてよ。」
「んん〜、もうちょい…」

微睡みの中、心地よい声が名前を呼ぶ。オレの愛しいナマエの声。
目を開けず手探りにナマエを探す。掴んでぐっと引き寄せて抱き締める。抱き枕のように抱き込むと、また意識を手放そうとした。
その時ぎゅっと鼻がつままれ息苦しくなり、目を開ける。目いっぱいに映ったナマエは眉間に皺を寄せていた。
あ、まずい。怒ってるよこれ。

「エース?早く起きてよ、もう11時過ぎてる。今日買い物行こうって言ったの誰?」
「あと5分こうさせて」
「んもう、5分経ったら叩き起こすからね」

そう言うと大人しくナマエは抱きしめられる。腕に収まるくらいちっさい。すりっと脚を絡ませ腰に手をやると昨日あれだけ感じた肌の感触ではなく布だった。

「…なんでお前だけ服きてんの」
「裸のままで朝ごはん作るわけないでしょ」
「えー、裸エプロンでも良かったんだけど?」
「変態」

バシバシと胸を叩いてくるのを気にせずぎゅうぎゅう抱きしめる。朝起きてご飯できてるってこんなに幸せだっけ、と考えながらまだ目は開けない。
いい感じにナマエが暖かくて良い匂いでうとうとしてると5分なんてすぐに経ってしまった。

「はい、5分だよ起きて。私ご飯の用意残ってるから」

そう言ってオレから離れようとしたナマエをぐいっと引っ張って"おはよう"の挨拶と供におでこにキスをした。
リビングへ向かうナマエの背中をを見守りながらぼうっとベッドに座る。昨日乱雑に脱ぎ捨てた服は綺麗に畳まれていて、本当に一緒に暮らしてることを実感する。
適当にTシャツとスウェットを着ると、朝ご飯を食べに寝室から出た。


*


朝食後、買い物に行くために準備をする。オレは2.3分で準備できたから、ナマエの準備をソファからぼーっと見つめる。
下地をつけてファンデーション、アイシャドウ、などなどを順番に顔に乗せていく。だんだんと顔が作られていく過程を見るのが何気に好きだったりする。
すっぴんの幼い学生時代の時の顔も、メイクをして大人っぽくなった顔も好きだ。

「なに見てるの、見られると手元狂う」
「見るくらい何も減らないっしょ?いいじゃんか」

鏡越しに目が合ってそう言われた。化粧も後半戦に差し掛かってるナマエに近づき後ろから抱き締めた。びっくりして肩が揺れる。

「もう、びっくりさせないでよ」
「ねえ。リップさあ、オレに塗らせて?」
「変なことしない?」
「変なことって何?塗るだけじゃん」

怪しげな目で見つめてくるナマエはそっとオレにリップを渡した。そのリップが去年の誕生日にあげたローズカラーのもので嬉しくなる。キャップを外してぷるんとした唇へ色を付けていく。何故だか、目を瞑ってリップを塗られてるナマエに少しだけドキッとした。

「はい、終わり!結構上手くできたんじゃね?」
「ありがと…んっ」

そっと目を開けたナマエにキスをした。
唇を離すとさっき塗ったリップが少し薄くなっていて、オレの唇に移っているのが分かる。親指でそっと移ったリップを拭った。

「…っは、ご馳走様」
「変な事しないって言ったじゃん!また塗り直さないと!もう、エース信用できない」

バシバシとオレの肩を叩いてるけど顔真っ赤じゃん。ぷりぷりと怒り始めるナマエにもう一回キスしたらもっと怒られるだろうか。