相対的幸福論






「ねえ、このマグカップ可愛くない?ハートついててエースっぽい」

ハートがついた2つのマグカップを持って、どっちがいいかうんうん悩む横顔を見つめる。付き合ってからナマエはお揃いに拘るようになった。
何でか聞いても答えてくれなかったけど、いつかに酔った勢いでぼそっとこう漏らした。

"自分がここにいるって証拠がほしい"

それ以上は何も言ってくれなかったから詳しい意図は分からない。けど、この世界に残って生き続けるナマエの不安がお揃いに現れてるんじゃないか、ってオレは勝手に思ってる。いつ消えるか分からない中生きていくのなんて、そりゃ不安だよな。
それも全部引っくるめてナマエと一緒いる事を選んだんだし、そのくらい背負わせてほしい。
まだどっちか悩んでるナマエに隣の棚に置いてある狸がプリントされたマグカップを取った。

「そしたらナマエはコレだろ?」
「私は狸じゃないんだけど!」

ちょっと揶揄っただけでムキになるところはいつまで経っても変わらない。かわいいな、と思いながらナマエが持ってたマグカップの片方とその色違いをカートに入れた。

「まだどっちか迷ってたんだけど」
「そんなんしてたら日が暮れるだろ、パパっと決めないと」


*


その後も色々必要なものを買ったら大荷物になってた。二人で両手いっぱいに袋を持つ。歩き回ってたし少し疲れてきたから休憩しようとベンチを指差した。

「休憩しよーぜ。オレあそこのジュース買ってくる。炭酸でい?」
「ん、ありがとう。荷物見ておくね」

自販機から適当に炭酸ジュースを2本買ってベンチまで戻る。
隣に荷物沢山置いてぼーっとしているナマエにイタズラ心が働いてそっと近づく。だんだんと見えてくるナマエの顔。
あれ、なんでそんな寂しそうな顔してんの。
オレはナマエの視線の先を見た。そこには小さな男の子とその両親らしき男女。ナマエは男の子を真ん中にして仲良さそうに手を繋いで歩いていく姿をずっと見ていた。
学生の時から寂しいとかそういうの全く言わないけどいっちょ前に思ってんじゃんか。オレはナマエの旦那なんだけどなぁ。
ちょっとだけイラッとしたからナマエに後ろから近づいて首に炭酸ジュースを押し付けてやった。

「ひゃっ!?」
「ぷはっ、変な声」
「いきなりするからでしょ!」

予想通りの反応をしたナマエに少し安心する。寂しい顔なんて見たくないから、まだこっちのむくれた表情の方がマシだ。そしてむくれた顔をしたナマエがオレの方を振り返ったから、鼻をつまんでやった。

「ぼーっとしてっからだよ、ばーか」