嘘をひとつ





「エースくん、私達別れよっか」
「は?」

突然、ナマエさんからそう言われてびっくりして固まる。
え、オレらただ部屋でのんびりしてただけじゃん。なんでそうなんの。

「ナマエさん、意味分かんないっすよ」
「そのままんまの意味だよ?エースくんも無理して私に付き合ってくれてありがとう。じゃあね」
「いや、ちょっ、まっ、、、」

読んでた本をパタンと閉じたナマエさんはそう言うとオレの部屋を出ていった。呼び止めようとしたけど突然のこと過ぎて何もできなかった。
まだほんのりナマエさんの香りが部屋に残ってて今さっきの事が嘘のように思える。1人部屋に残されたオレは呆然とすることしかできなかった。

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「今日のエース静かなんだゾ。変なモンでも食ったか?」
「グリムもそう思うか?朝からずっとこんな感じなんだ」
「風邪ひいたのかな?」
「馬鹿は風邪ひかないから違うと思うゾ」

教室の机の上で突っ伏してるとオレの周りに寄ってきてガヤガヤと言い始める3人。いや2人と1匹か。
昨日あれから一睡もできなかった。どれだけ振り返っても何か別れるような事した記憶がない。
はああ、と大きなため息をつくとガバッと顔を上げてグリムの首を掴み、デュースにヘッドロックをする。

「…お前らさっきから聞こえてんだよ!コノヤロー!」
「ふ、ふな〜!?離すんだゾ!!」
「ちょっ、エース!ギブギブギブ!」

オレの腕を叩くデュースとグリムを離すと残りの1人、監督生のこめかみに握りこぶしを当てグリグリさせる。痛いって叫んでるけど気にしない。
ひと通り2人と1匹に技をかけたあとオレは叫んだ。

「オレは今、傷心なんだよ!!お前ら慰めるくらいしろよ!」
「…?」
「は?」
「エース本当におかしくなっちゃったんだゾ」
「えっ、オレがおかしいの?今の状況の方がおかしくね?エースくん今すっげえ傷ついてるのに!?」

なんか怒るのも疲れてきた。オレはバカとド天然と獣の相手をやめてまた机の上に頭を乗せた。また大きなため息が出る。

「傷ついてるって何かあったんだゾ!」
「何かあったなら話してみてよ」
「そうだ!僕たちで解決できるかもしれない!」

この2人と1匹に話しても何も解決しなさそう。でも誰かに言わないと辛くて押しつぶされそうだったから、話すことにした。

「………、フラれた。ナマエさんにフラれた。」

オレがぼそっと言うと、目をぱちくりさせたこいつらは耳が破けるくらいの大声を出した。うるせえよ、クラス全員がこっち見てるじゃんか。

「嘘だろ!?ナマエ先輩と昨日も仲良く寮で話してたじゃないか!」
「オレにもわっかんねえよ」
「エース、何かやらかしちゃったんじゃないの?」
「お、おい子分!今エースは傷ついてからどストレートな発言はよすんだゾ」

それも全部聞こえてんだよ監督生にグリム…。あー、こいつらに話すんじゃなかった。そう後悔しながらウダウダ言い始めてる2人と1匹を無視して机に突っ伏した。