息抜きは糖分で






「ナマエちゃん。エースちゃんと別れたんだって?」
「ケイト、それ誰から聞いたのよ」
「けーくんの情報網ナメないでよね」

昨日、エースくんとついに別れてしまった。
エースくんには申し訳ないけど私が耐えられなかっただけ。私より2つも下のキミはどうせすぐに新しい彼女なり楽しい事を見つけるだろう。私から振った癖に思ったよりメンタルがやられてるのが余計に虚しい。

「ナマエちゃんから振ったのに随分落ち込んでるじゃん。そんなになるなら何で振ったのさ」
「エースくんは私じゃない方がいいのかなあって」
「どうして?」

ケイトは私の前の席に座ると後ろを向いて興味津々に聞いてきた。
まあ話してもいいか、と思ってぽつぽつと話し始める。


事の始まりは些細な嫉妬だった、と思う。
エースくんといつも仲いいメンバーに女の子がいるのが少しモヤっとした。マブとか言ってたし気にしないようにはしてた。
でも、いくら友達とはいえ近い距離間と私といる時とは違うリラックスした笑顔を見せるエースくんにだんだんと疑問を抱き始めた。そんな時に私は聞いてしまったんだ。

"やっぱりタメの方が楽だわ"

これが直接私の事を言って無いとしても、私が今まで積み重ねてきたものが許容量を超えた。そこからエースくんといてもその言葉が脳内再生されて苦しくなった。
だんだんと自分に自信が無くなっていき、エースくんに無理させて付き合ってもらってるんじゃないかすら思い始めた。たった2年、されど2年違うだけでこんなに違うものなのかと痛感した。
思い出しただけで鼻の奥がツンとしてくる。油断したら涙が出そうで考えるのをやめた。
相変わらず目の前のケイトはニコニコしてて、いつも楽しそうで羨ましい。

「そんな傷心のナマエちゃんのために、今週末ここのカフェ行かない?最近流行りなんだって〜」
「パフェ美味しそう」
「でしょでしょ?行く?」

そう言って満面の笑顔でスマホの画面を見せてくるケイトに少しだけ心が軽くなった。お誘いに承諾するとケイトは待ち合わせ時間だけ告げると自分の席に戻っていった。


*


「ナマエちゃん!ちょっと食べるの待って、マジカメにアップするから!」

キラキラと目を輝かせて私の目の前にあるパフェの写真をパシャパシャとるケイト。
その姿にふっと笑いがこみ上げる。私、こういうのマメじゃないからケイトは本当にすごい。

「ね、ケイト。もう食べてい?」
「ん、おっけー!マジカメ用のやつも撮れたしいいよ」

ケイトの許可が下りたので私の目の前にパフェを寄せてスプーンで掬って口に入れる。ホイップの甘さと苺の酸味が絶妙でほっぺが落ちそうだ。

「ん〜!おいしい、幸せ。ケイト、連れてきてくれてありがとう」
「いーえ。ナマエちゃんの笑顔久々に見れたし、けーくんは大満足だよ」
「…私ってそんな笑ってなかった?」
「ここ最近のナマエちゃん、自分が思ってる以上に不格好な笑顔だったよ?」

ケイトいわく、私は相当無理して笑っていたらしい。
まあそりゃそうだよね。日に日に精神ダメージは膨らんでいくし、エースくんはエースくんで何故か私のところまで訪ねてくるし。会わないようにするので疲れちゃってたのもある。だから本当に良い気分転換になった。

" パシャ "

「ん、今撮った?」
「ナマエちゃんが美味しそうに食べてるから、つい。これはマジカメに上げないし、後で送ったげる!」

そう言ってスマホの画面に映し出された私は幸せそうにパフェを頬張っていた。
その後、ケイトのマジカメには私のパフェが綺麗に撮られた写真が載せられていた。

自分はコーヒーしか飲んでないくせにね。