果し状にはご注意を




「ブッハwwギャーッハッハッハwwやべえwwデュースwそれはwwヒィィww」

昨日、3時間くらい待ったがナマエは来なかった。
肩を落として寮へ帰ろうとしたら部活終わりのエースに声をかけられた。
そしてエースからナマエが放課後すぐにポムフィオーレ寮へ帰るのを見たという事を知った。
正直、何かあったのかと思ってずっとソワソワしていたから、それを聞いたとき安堵の気持ちと何故此処に来てくれなかったのかという疑問だけが残った。
僕の何がいけなかったのか、エースにそれを言ったら冒頭のように大きな声を出して笑い始めた。

「エース、ここは食堂だぞ。声量には気をつけろ」
「ッwwいやムリwwしんどいw」

お腹を抱えてヒィヒィ笑ってるエースにだんだんと腹が立ってくる。こっちは真剣に悩んでいるのにコイツは。

「笑うような事、僕は言ってないだろ」
「いや、ッフフww果し状みたいな手紙来たら男でも行かねーよwwデュースくん、ラブレターって知ってる?ww」
「そのくらい、僕だって!…よ、要件だけを書いたらああなったんだ!」
「や、知らねーからああなったんでしょ。女子怖がらせてどーすんだよ」

笑いすぎて涙を流しながらエースはそう言う。もしかしたら僕はナマエを怖がらせてしまったんだろうか。
そういえば朝話しかけた時もどこか落ち着かない様子だった。

「ナマエ、今日は来てくれるだろうか」
「デュースが呼び出したって分かってんなら、来てくれるんじゃね?知らねーけど」

そう言うとカツカレーを頬張ったエースはそれ以降何も言わずにもぐもぐとご飯を食べ始めた。僕もオムライスをスプーンで掬う。

「エース、デュース、ごめん。先生に呼ばれてた。」
「デュースはまたオムライスなんだゾ。飽きねえな!」

先生に呼ばれてた監督生とグリムが昼食のトレーを持って僕達のテーブルに座った。僕は斜め前に座った監督生を見る。
今まで何も思わなかったが、そういえば監督生は女子だったなと思い出す。

「監督生はどういう告白をされるのがいいんだ」
「ちょ、デュース、いきなり何?」
「そういえば監督生は女子だったな、と。」
「なんかちょっと腹立つ。まあ、男らしくバシッと言ってくれるのがいいかな」
「なるほどな」
「なになに?デュース、ナマエちゃんに告白すんの?」
「ちょ、監督生聞いてくれよ!デュースが昨日さあ〜」

さっきまで食べていたのに口を開いたエースが僕の手紙の件について話そうとした。
急いで止めようとしたが時すでに遅し、その後散々監督生とエースに笑われてしまった。


*


放課後、鏡舎裏でぼーっと地面を見つめる。
今日も来てくれなかったら僕はたぶん嫌われてしまったんだろう。そう思うと胸が苦しくなった。
僕は何処で間違ってしまったんだ。鏡舎の壁に背を預けて地面を揺れる草を眺めていると温かくてゆっくり流れる時間に意識が飛びそうになった。
ぼやっとしていると、ガサッと音がして音のした方を見る。丁度壁の角からひょっこり顔が出ていた。ナマエがこちらを見ていたのだ。
ばっちり目が合ったと思ったらナマエはキョロキョロ周りを見たあと踵を返して走り出した。咄嗟に僕は追いかけた。

「ナマエっ、なんで逃げるんだ」
「やっ、デュースくんついてこないで、きゃっ」
「うおっ!?」

目の前を女子走りで駆けていくナマエに陸上部の僕はすぐに追いついた。腕を掴んで引き留めようとしたら、勢いと力加減を間違った。
急に後ろに引っ張られたからナマエはバランスを崩す。僕は横に倒れていくナマエを支えようとするけど、咄嗟のことでうまくできず一緒倒れ込んでしまった。
僕はナマエを下敷きにしないように地面に肘をついた。

「っ……!?」

地面に肘をつく瞬間に瞑った目をゆっくり開けると、目の前いっぱいにナマエの顔があった。ついた肘はナマエの顔の横で、僕はナマエに馬乗りをしていた。
お互いの顔は鼻と鼻がくっつきそうな距離にある。
ナマエからいい香りがする、瞳は少しだけ水分を含んでいて、眉は少しだけ下がっている。
その姿に僕の中であらぬ感情が湧き出す。心拍数が早くなり、ドーパミンが分泌される。

ナマエが好き、好きだ、大好きだ。かわいい、良い匂いがする。好きだ、キスしたい。…キスしたい。

気がついたら僕はゆっくり顔を近づけて唇を重ねていた。ふわっと香るフローラルの香り、柔らかい唇にどんどん思考は溶けていく。
数秒、僕はハッとして唇を離した。どれくらいキスしていたか分からないけど、かなり長くしていたように感じた。

「す、すまないっ」

バッとナマエから降りて、横に正座する。今、僕はなんて事を。
ナマエもゆっくり起き上がるとぺたんと地面に座った。乱れた髪を直して、スカートについた汚れを払いながらこう言った。

「…デュースくんは好きでもない人とキス、できるんだね」

そう言うとぼろぼろと涙をこぼし始めた。涙は止まることがなくどんどん溢れだす。
何を言っているんだ。僕は、ナマエが好きで、さっきは感情が昂ってキスしてしまっただけなのに。
多分何か誤解している、それを伝えないと。嗚咽混じりに制服の袖でゴシゴシと涙を拭うナマエの腕を僕は掴んだ。

「僕は、ナマエが好きだ」
「っえ…」

ナマエきょとんという効果音が似合うくらい目を丸くして、口を開ける。本当はもっとちゃんと言うつもりだった、こんな成り行きで言うとは思ってもなかった。

「、うそだ…」
「嘘じゃない。ナマエに告白しようとして昨日、鏡舎裏に呼び出したんだ。本当はこんな感じで言うつもりじゃなかったんだが…」
「だって、デュースくんは、ユウちゃんが好きなんじゃ…」
「どうしてだ?監督生もエースも友達だ」
「な、にそれ。…私が勘違いしてただけじゃん」

最後にぼそっと言ったナマエの言葉は小さくて聞こえなかった。それにしても僕が監督生を好きだなんてどこから聞いたんだ。

「僕が好きなのはナマエだ。ナマエが他の奴と話してるといい気がしないし、昨日だって来なかったから死ぬほど心配した!」
「わ、私もっデュースくんが好きだよ。ずっと好きだった!」

そう言うとまた涙を流し始めたナマエにびっくりする。どうすればいいか分からなくてオロオロする。

「おわっ、泣かないでくれっ、泣かれるとどうすればいいか…」
「うっ、デュースくんっ、デュースくんっ」
「ほ、ほらっ!僕はここにいる!」

僕の名前を何回も呼びながら泣いているナマエに、手を広げてここにいる事を伝えだ。ナマエは勢いよく僕の胸に飛び込んできた。
しっかりと受け止めると、ゆっくり手を背中にまわす。初めて触れるナマエの体は僕の腕にすっぽり収まるくらい小さくて柔らかくて、少し力を入れたら折れてしまいそうだった。

「デュースくん、」
「ん?」

しばらくそのままでいたら名前を呼ばれた。抱きしめていた腕を緩めてナマエを見る。さっきまでの泣き顔ではなくなっていた。
頬は少し紅くてまだ水分が残った瞳、そんなナマエの表情や密着した距離感に僕はまたキスをしたい衝動に駆られる。
だけど、さっき勢いでしてしまっただけに何となくやりづらい。

「デュースくん、すき、すきだよ」
「ああ、僕もナマエが好き。大好きだ。」

目があってお互いに愛を伝える。何故か目が離せなくて、無意識にお互いの顔が近づいていく。
目を閉じると、すぐ後に唇に柔らかいものが重なった。数秒、触れるだけのキスをしたあとゆっくりと唇を離した。
少し照れながら俯いているナマエに僕にこう言った。

「…ナマエ、連絡先を教えてくれないか」
「ふふっ、確かに。私達まだ交換してなかったね」

もう果たし状みたいなメッセージ送らないでね、と冗談交じりに言ったナマエをまたぎゅっと抱きしめた。

「ああ!ちゃんとラブレターの送り方は勉強する!」