受取拒否






私の想い人であるデュースくんはオンボロ寮のユウちゃんのことが好きだ。

いつも一緒にいるし、私といるときよりもリラックスした表情で楽しそうにしてる。それを見てると少しだけ胸がチクチクと痛くなった。
私はデュースくんを好きになってから2ヶ月くらいで、この事実を突きつけられた。そう、私の恋はあっさりと敗北を期した。
そんな訳なんだけど未だに諦めきれない。だからもう少しだけ好きでいることをどうか許してほしい。
そしてこれからもお友達という枠でいいから関わり続けたい、そう思うのは図々しいだろうか。


何となくその場に居づらくなって勢いで教室を出てしまった。エースくんとユウちゃんが来るまで時が止まったかのようで、世界に私とデュースくんしかいないように錯覚した。
あのままキスしちゃったらデュースくんは私のこと好きになってくれたのかな…。
なんて少しだけ紅く染まったデュースくんの顔を思い出しながら考える。
いやいや、そんな事したら私はただの変態女になってしまうじゃんか。

「…私が、ユウちゃんだったら良かったのになあ」

そう呟いたらボロボロと目から涙が溢れた。まだ寮にすら帰ってないのに泣いちゃったら変に思われる。
ぶんぶんと頭を振って裾で目元を少しだけ擦る。
あ、目腫れちゃってたらヴィル先輩にお小言を言われちゃうじゃん…。


次の日の私は朝からどんより気分だった。
寮に帰って目元のケアをしっかりしたつもりだったのに、朝起きるとばっちり腫れていた。
ヴィル先輩には色々言われたし、昨日のユウちゃんとデュースくんを思い出してまた辛くなるし散々だ。

今日は何となくデュースくんと話したくなくて、いつも近くの席に座ったりしてたのに敢えて反対側に座った。魔法史、魔法薬学、数学を受けたあたりで休み時間にデュースくんと目があった、気がした。
いつもだったら1回くらい話しかけてるはずなのに話しかけて来ないから気になってるのかな。いや、そんな訳ないか。自惚れるのも大概にしないと。
はあ、と大きなため息をついて次の錬金術の実験の為に白衣を取りにロッカーを開けた。
ロッカーを開けるとパサリと4つ折りの紙が下に落ちた。気になって拾い上げて中を見る。


"放課後、鏡舎裏で待つ。一人で来い。"


えっ、なにこれ果たし状?
その文字を何回見ても言葉の意図が分からない。差出人の名前もないし、字の形を見るに男子っぽい。
そもそも決闘を挑まれるような事した覚えもない。どうしようと考えてたら友達に呼ばれたので、ポケットに手紙を突っ込んで小走りで実験室まで向かった。



「…それ、果たし状かもね」
「うっ、やっぱり?でも私、そんな決闘を挑まれることした記憶ない。それに男の子なら素手の殴り合いとかでも勝てないよ」
「何で戦おうとしてるの。もしかしたらタチの悪いイタズラかもしれないじゃん、そんなの無視しときなよ」

昼休み、友達に相談したらこう言われた。
こんな手紙が来て素直に行く人なんていないよね。
私は身に覚えもないこの紙切れを食堂のゴミ箱に捨てると、友達と一緒に午後の授業のため教室へ戻った。


*

次の日1限目の授業を受ける為、いつものように机に座りテキストを出していると、誰かが目の前に来て私の机をばんっと叩いた。
びっくりして肩が揺れる。恐る恐る顔を上げると目の前にはデュースくんがいた。

「?…デュースくん?どうしたの?」
「昨日っ、なんで来なかったんだ…」

眉を下げてまるで捨てられた子犬みたいな顔で見つめてくる。しかし私にはデュースくんの言ってることが分からない。
昨日はデュースくんと私は何の約束もしてない。何なら会話すらしてないはず。

「昨日?そんな約束してない、よ、ね?」
「………、手紙」
「え?」
「っ、手紙、ロッカーに……」

ボソっと何かを言ったデュースくんにもう一度聞き返すと、私から目をそらしてキョロキョロさせながら手紙と呟いた。
それで私の中で点と点が繋がった。昨日の果たし状はもしかして…。

「昨日ロッカーに入ってた果たし状、もしかしてデュースくんだったの?」
「っ!…そ、そうだ。ずっと待ってたのにナマエが来ないから、すごく心配した。何かあったんじゃないかって…」
「ご、ごめん…」
「いや、いい。今日も放課後に鏡舎裏で待ってるから!」

デュースくんは勢いよく言い切るとエースくんたちの座ってる席に戻ってしまった。
私、デュースくんに呼び出されるような事したかな。もしかして本当に決闘?
何が目的か分からないから怖い。行ったほうがいいのかな?もしかしたら絶交のお願いかな。
ネガティブな思考になってぐるぐる考えていると授業が始まってしまった。