君の隣は、オレが。




ナマエさんに別れようって言われてから数日が過ぎた。
未だその事実を上手く自分の中で処理できなくて、至るところでナマエさんの思い出を探してしまう。お揃いで買った物とか、ナマエさんに好きだって伝えた中庭だとか、見るたびにぐっと苦しくなった。
何回かナマエさんと話をしようと思って3年生のところに行ったりもしたけど、クラスの人からはいないとしか言われなかった。オレは明らかに避けられていた。

「あっ、ナマエ先輩」
「は?えっ、ウソどこ?」

移動教室のため廊下をぼーっと歩いてると、監督生がそう呟いた。オレはキョロキョロして必死にナマエさんを探すけど、見つからない。

「エース、それ嘘だぞ」

デュースにウソって言われた瞬間に、やっぱりかと思う。ナマエさんは、最近寮ですら見かけないし本気で避けられている。だから、こんなところで見れる訳がない。
思いっきり落胆したあと、デュースとグリム、監督生にだんだんと腹が立ってきた。

「はああああ?お前らふざけんなよ!」
「何で僕まで!!」
「ふなぁーー!痛いんだゾ!オレじゃなくてコイツにするべきなんだゾ!」

グリムとデュースに思いっきり技をかけていると、監督生が真面目な顔でこう言った。

「エースがいつまでもぼーっとしてるからだよ。そんなに気になるなら寮が一緒なんだし押し掛ければいいんじゃない?」

そんなの分かってるけどこの状況で話なんてしてもらえるはずないじゃん。
無理矢理に押し掛けてもっと嫌われたらどうしよう、とか柄にもなく考えちゃってる。
ふっとデュースとグリムを掴んだ手を離すと、奥の渡り廊下にナマエさんが見えた。

「…ナマエさん」
「あ、本物だ。エース、今チャンスだよ。話しかけてみたら?」
「この距離はどう考えても無理なんだゾ」

普通に考えて大声出すか飛行術使うしか無理だろ、と心の中でツッコミを入れる。久々に見たナマエさんはオレの記憶の中と変わりなくて笑った顔がとても綺麗だった。
よく見ると隣にはケイト先輩がいて、ナマエさんは凄く楽しそうだった。やっぱりオレみたいな年下じゃなくてケイト先輩とかトレイ先輩みたいな方がいいのかな。並んで歩く2人は誰から見てもお似合いだった。

「グリムの言うとおりこの距離は流石に無理っしょ。授業遅れるし行こ」

2人を見たくなくてオレは教室へ急いだ。本当は今だってナマエさんの隣にはオレがいたはずだったのに。


*


週明けの月曜日、合間の休み時間に暇つぶし程度にマジカメを開いた。このあとオレはその事を後悔することになる。
ハッシュタグがたくさん並べられているケイト先輩の投稿がタイムラインにぽんと出てきた。どうやらケイト先輩は週末にカフェ巡りに行ってたらしく、パフェの写真が載せられていた。その写真にあるパフェの奥には一緒に行ってた人のであろうスマホが置かれていて。

「…ナマエさんのじゃん」

そう気づいてしまった自分が憎い。気づかなかったら何もなくハートボタンを押して終わりだったのに。ご丁寧にハッシュタグには #カフェデート の文字。
ナマエさん、ケイト先輩ともう付き合ってんのかなあ。オレよりかっこいいもんなあ、なんて考えて自分で落ち込む。

「なになにケイト先輩のマジカメ?」

監督生がオレのスマホの画面を覗き込む。パフェ美味しそう〜とか呑気なことを言ってる監督生のお気楽さが羨ましい。そりゃ、気づかなかったらそう思うよな。やっぱりナマエさんもこういう映えスポットデートの方が好きだったのかもしれない。

「まあ、エースよりケイト先輩の方が女子慣れしてそうだもんね」
「お、おい子分!やめろ!お前の発言せいでいつもオレが技をかけられるハメになるんだゾ」
「そうだぞ監督生、これ以上何も言うな!」

グリムとデュースが慌てて監督生の口を抑え始める。なんだかんだ、腹立つけどこのメンツの居心地は悪くないと思ってる。
オレがナマエさんと別れてからも元気づけようとしてくれてるし。感謝してるっちゃしてる。まあ、さっきの発言は許さねえけど。オレは2人と1匹に詰め寄る。今日はどんな技をかけてやろうか。

「ちょっ、エース。一旦落ち着いて、ほら、どうどう」
「オレは馬じゃねえよ」

手のひらをこっちに向けヒラヒラとさせる監督生にじりじりと詰め寄る。手首を掴んだあとデコピンでもしてやろうか、と考える。

「あっ、ほら、エース、ナマエ先輩いるよ」
「そういう嘘よくねえよ。デコピン2回の刑〜」
「や、ほんとだって!ほら、後ろ!」
「は?本当にナマエさんがいる訳ねえじゃん…、か。」

後ろを指してナマエさんがいると言う監督生に半信半疑になりつつ振り返った。そこには本当にナマエさんがいて、ガッツリ目があった。
数秒お互い動けずに固まっていたが、その膠着を破ったのはナマエさんだった。踵を返して、小走りでどんどんと遠ざかっていく背中。オレは監督生を掴んでた手を離してその背中を追いかけた。すぐにナマエさんには追いつけて、腕を掴む。

「ナマエさん!やっっと会えた。オレ、聞きたいこととか話したいこといっぱいあるんすけど」
「私は何もないから、手離して」
「やだ、離したらナマエさん逃げるでしょ」

少し俯きがちに手を引くからら、オレは手を離すまいと少しだけ力を入れた。お互い拮抗の状態が続き、暫くするとナマエさんが腕の力を抜いた。どうやら折れてくれたみたいだ。

「ここじゃアレなんで、オレの部屋行きましょ」