憲紀と



「もう、憲紀フラフラしないで」

買い物かごを持ったまま興味深そうに商品棚を見ては違うコーナーへ行く、を繰り返している糸目をようやく見つけた。私がお菓子どれにするか迷ってたのも悪いんだけど勝手にフラフラどこか行くこの男にも問題はある。

「すまない。こんなに沢山色んな物が並んでるのが珍しくてね」
「ほんと今どきそんな人、憲紀ぐらいしかいないよ」

呆れ気味にそう言うと、手に持っていたお菓子とパックジュースを憲紀が持っているカゴへ入れる。するとカゴの中に赤い細長い箱があるのを見つけてしまった。0.01mmの文字の下に小さく書かれていたサイズはMになっている。

「なに、これ」
「こないだ全部使ってしまったと思ったんだけど、違ったかな」

表情を変えずにそういう憲紀は私が入れたお菓子のパッケージをまじまじと見つめている。多分、食べたことないんだろうな。そんな憲紀を放って私は、Mサイズのコンドームの箱を持って棚に戻そうと売り場へと向かう。

「買わないのか?」

不思議そうに私の手を掴んだ憲紀はそう言った。買うって言うのも恥ずかしいけど、そういう事じゃない。これ根本的な問題だ。

「そういう事じゃなくて、」
「…?」
「これじゃないよ。これMサイズだもん」

私がそういうと憲紀の目が少しだけ開かれる。そして私の手の中にある箱を取るとサイズ表示をじっと見た。

「…あ、本当だね」
「もう、これだと憲紀のは入らないでしょ?」

ぼやっとしてる憲紀に呆れてそう言う。しかし思ったよりも大きな声で言ってしまって後悔した。周りに人がいたら”これからセックスします。この人はLサイズです”って言っているようなものだ。

「っ、君…、声が大きい」

しかし私より恥ずかしそうにした目の前の憲紀を見て、私の恥ずかしさはどこかへ行ってしまった。キョロキョロと周りを気にする姿にふっと笑う。夜はあんなに雄なのにこういう所は初心でかわいいと思ってしまう。

「憲紀が買おうとしたんでしょ。…そんなにシたい?」
「あのねえ…」
「じゃあこれ棚に戻してくるね?」

そう言ってコーナーへ行こうとしたら掴まれた手に力が入り後ろによろけた。とん、と胸に背中を預ける体勢になると、ぐいっと顔を近づけた憲紀がこう言った。

「私だって年頃の男なんだ。君と枕を交わしたい、と思ってる」

至近距離でそう言われて、ぶわっと顔に熱が集まる。いくら周りに人いないからって、不意打ちでそういう事しないでほしい。私は恥ずかしくて何も言えずに黙ったまま俯く。

「君だって、私のサイズ分かるくらい好きなんだろう?
なら、Lサイズ持ってきてほしいな。ここは広いし、物がいっぱいあって私は迷子になりそうなんだ」

少しだけ熱がこもった声で憲紀はそういうと、掴んでいた手を離して私の頭をそっと撫でた。
私はぎゅっと手にあるMサイズの箱を握りしめて、Lサイズを取りに行った。