恵くんと



「?」
「手だよ。手繋ぎたいの、恵くんと」
「ほら」

スッと差し出された手に自分の右手を重ねた。お互いに付き合ってるのに未だに慣れなくてこういうカップルらしい事をする時は何だかぎこちない。
だから今日は勇気を振り絞って私から行動してみた。でも恵くんはいつもと変わらないから、私はもう一歩踏み出してみることにする。
そっと重ねた手の指を絡めた。そしてつうっと指先で軽く撫でたあと、きゅっと握る力を強めた。

「っ…。」
「恵くん?どーしたの、きゃっ」

ぐいっと繋がれた手が引っ張られて前のめりになる。バランスを崩した私の体をいとも簡単に受け止めた恵くんはそのまま私を抱きしめた。

「外で、あんまそういう事すんな。」
「そういう事って…」
「あー、もう分からんならそれでいい。とにかく変なことするな。」
「私はただ恵くんと手繋ぎたかっただけなのに」

ただ繋ぎたかっただけなのに、恵くんは嫌だったのかな。自分の事ばっかりで嫌な気持ちにさせたかもしれない。そんな不安に駆られる。

「嫌じゃない。けど、あんまそういう可愛いことされると俺が困る」
「どういう…っん」

胸に当てた顔を上げると恵くんの唇が覆い被さってきた。見事に捕らえられた唇は数秒いやもっと触れ合っていたかもしれない。

「こういうの、もっとしたくなるから」