とげくんと



「しゃけ!」

満面の笑みで目元を細めた棘くんは私の右手をすくい上げた。きゅっと握られた手を私に見せてくる姿が嬉しそうで私も嬉しくなった。

「たっかな〜!いっくら〜!」
「とげくん。はしゃぎすぎだよ」

ぶんぶんと小さい子のように揺らす棘くんに手が引っ張られる。高専内ではあるけど傍から見れば高校生が手を繋いで振り回しているから大分目立つ。パンダくんあたりに見られてたら明日くらい冷やかされそうだな。

「明太子」

こっちも、ともう片方の手も繋がれた。向かい合わせて手を握り合う。いつの間にかシェイクハンドの繋ぎ方から指が絡まる恋人繋ぎに変わる。少しだけ上にある棘くんの顔を見つめると、ふわっと笑って前髪が揺れた。
目があって数秒。キスしたい、そんな気持ちで胸が埋め尽くされた。でも棘くんは口元までチャックで隠れているし、私達は両手が塞がっているからチャックを下ろすことができない。

「おかか。…ツナ、ツナマヨ?」
「うん」

手を離してチャックを下ろそうと考え、手を引っ込めようとしたらぎゅっと力が強くなり阻止された。
キスしたい?と首をかしげて聞いてきたので私は素直に頷いた。

「高菜、明太子?」
「えっ、そんなこと」
「すじこ?」
「うん、わかった」

口でチャックおろしてよ、と言われて戸惑った。そんな恥ずかしいこと、と思っていたら棘くんはズズッと私に顔を近づけた。私の口の前まで来たチャックが揺れた。唇ではむっと咥えて下まで下げる。金属音と共に口元が顕になった。

「しゃけ、ツナマヨ」

よくできました、の言葉と共に見えた唇が私のと重なった。