悟くんと




「手、繋ぎたいの?」
「う、うん」

いつも手を繋ぐのも、キスをするのも、それ以上をするのも悟くんから。羞恥心に勝てない私は未だに自分から手すら繋いだことがない。
つい先日、雑誌で受け身な女は飽きられるという記事を見てしまってから私もいつかは、なんて不安にかられた。

「誰と?」

勇気を振り絞って「手を繋ぎたい」とティーンみたいな小さなお願いをしたら、悟くんはそう返してきた。丸いサングラス越しに見える綺麗な瞳に捕らえられる。
分かってるくせに、私が手を繋ぎたい人なんて1人しかいないのに。
でも言葉にしないと繋いでくれない、そんな気がした。わざわざ腰を曲げて私と目線が合うようにしてくれてるのが余計に恥ずかしくなる。

「っ〜、悟くんと、」
「僕と?」
「悟くんと、手、繋ぎたい」

たった1言、それを言うだけなのに心拍数がかなり上がった。多分顔は真っ赤で茹で蛸のようになっている事だろう。

「いいよ」

右手がすくい上げられてぎゅっと握られる。大きい手に包まれるように手が繋がれて再び私達は歩き始める。自分から言えた事が嬉しくて少しだけ、いつもより少しだけ悟くんに寄ってみた。肩がぶつかりそうなそんな距離。

「名前からなんて珍しいね、どうしたの?」
「…どうもしてない」
「どうもしてない事ないでしょ」

フッと笑った悟くんが少しサングラスをずらしてこちらを見つめた。

「名前はもっと我儘になっていいんだよ。したいことあるなら言ってよ。いつも僕からばっかりだと、つまんないでしょ。甘えていいんだよ」

こくり、と頷くとぽんぽんと頭を撫でられてつむじにキスをされた。さっきよりも心音がばくばくと大きくなる。
ああもう、悟くんのせいで寿命が縮まりそうだ。