キミは策士?





「そう言えば、貴方にお見合いの話が来てるわよ」
「…え?」

お正月に実家に帰省してのんびりこたつで暖をとっていたら母が突然そんな事を言い出した。手に持っていたみかんの一欠片が口に入る前に落ちた。

「みかん落としたわよ、もう」
「今なんて?」
「だから貴方にお見合いの話が来てるって」

どうやら聞き間違いではなかったようだ。
私はまだ17歳だしお見合いなんて早すぎる。いや、この界隈じゃ普通なのかな。血筋大好きで思考が古い人達多いし。
私の家は呪術師の家系だけどそこまで権力もないしみんな緩い感じで、血筋とか呪力があるないとか気にしてないものだと思ってた。
もしかして母も呪力量の多い娘が生まれたし、名家に嫁がせたら…って所まで考えてやめた。うちの母に限ってそんな事はないと信じたい。

「お見合いって、私まだ結婚する気ないよ」
「あら彼氏いないんでしょ?」
「そうだけど…」
「じゃあ、好きな人くらいいないの?」

その時ふっとおにぎりの具しか話さない同級生が頭に浮かんだ。帰省前に彼と話したことなんて日常会話だったしあんまり記憶にない。
だけど「しゃけ」と笑顔で言う顔だけはハッキリと思い出せた。それを思い出しただけで胸がきゅっと詰まる。

「いない、よ」
「ならいいじゃない。会うだけ会って、それから決めればいいわ」

この恋を成就させるつもりが無いから、いないなんて咄嗟に言ってしまった。なんだか年明けから大変な事になってしまった、と大きなため息をついて片手に持っていたみかんからひと粒剥いて口に入れた。


*


「名前がお見合いだって?」

年明けの登校日、真希ちゃんにボソッと相談したら大きな声で聞き返された。
あーみんなこっち見てるじゃん。一気に視線を集めてしまった私は居たたまれなくて真希ちゃんを小突いた。

「真希ちゃん、声!大きいよ、もう!」
「ああ悪い悪い」

ニヤッと笑ってそう言ったけど、真希ちゃん絶対面白がってる。ちらっと横目でパンダくん達の方を見るとこっちもニヤニヤしながら私達の方にやってきた。

「ついに名前も春か〜?」
「明太子?」

パンダくんの後ろからひょこっと顔を出した棘くんは”そうなの?”と興味津々の様子。
ああもう最悪だ。1番知られたくない人にまでお見合いする事がバレてしまった。
真希ちゃんはさっき私が話した内容をそのまま一人と一匹に話し始めた。
母親が唐突にお見合いの話を持ってきたこと、相手の顔はまだ分からないこと、今週末がお見合いだということ。

「なんで顔知らないんだ?普通、写真くらい見せてもらえるもんじゃないのか?」
「しゃけ」
「相手が先に写真見るより自分と会った時の印象大事にしてほしいんだって」
「妙に自信ありげな奴だな」

そうなんだよねえ、と相槌を打つ。普通は写真あるよね。写真とかその人がどこの人かの情報が一切無いから不審感しかないのは事実だった。

「会って良さげな奴だったら受けるのか?」
「ううん。断るつもりだよ」
「こんぶ?」
「…まだ私17だし、結婚なんて考えれないっていうか」

何で?という棘くんの質問にどきっとした。貴方の事が好きだからです、なんて流石に言えない。

「明太子、高菜?」
「…棘くんはさ、そんなに私にお見合いを受けてほしいの?」

”滅多にないことだし、受けてもいいんじゃない?”
と、続けてそう言う棘くんに私の気持ちはどんどん沈んでいく。
好きな人にお見合いを肯定された上に受けろなんて言われたら誰だってそうだろう。

「お、おかか…」
「ごめん。私の事考えてそう言ってくれたのはありがたいけど、これは私が決めるから。棘くんには関係ないよ」

口から出た言葉は少しだけトゲがあるものだった。
”そう言うつもりじゃなくて”
と両手を振った棘くんの言葉は全然耳に入ってこなかった。いくら成就させるつもりが無いとはいえ、流石にこれは心にくる。
新年早々、脈ナシを突きつけられて死にたくなって机に突っ伏した。