恵くんと



「風邪か?」
「…うん。朝からちょっと熱っぽいなって思ってて」

少しだけ火照った体とだるさのせいか、ぼそっと口から出てしまった。それを恵くんは聞きのがすはずもなく私を問いただす。
誤魔化しようも無いから正直に言うと、恵くんの手が私のおでこに触れた。その手越しに恵くんのおでこがつけられて、綺麗な顔がすぐ目の前にやってきた。

「ッ、恵くん。近い、よ」
「こうしないと熱あるか分からないだろ。…確かに熱いな。」

もともと熱かったかもしれないけど、今、恵くんのせいで絶対一度くらい上がった気がする。
どくどくと心臓が鳴るし、こんな至近距離に仮にも片想いの相手がいたら脈拍も上がるのは必然だ。
恵くんに聞こえてたらどうしよう。

「や、やっぱり大事をとって今日は部屋に戻るよっ。じゃあね。」

じっと見つめてくる視線にも耐えれなくて、視線を泳がせたあと恵くんから距離を取って寮へ帰ろうとした。
そのときパシッと腕が掴まれた。振り向く間もなく私の手を引いて歩き出した恵くんに目が点になる。

「送ってく、から」

ぼそっとそう言った恵くんはぎゅっと手を握る力を強めた。表情は見えないけど、ちらっと見えた耳は赤くなっていた。
もしかしたら恵くんも風邪なのかな。