いちごミルクは甘すぎる



空は灰色の雲に覆われ、お世辞にも天候はいいとは言えない状態で星送りの儀式は始まろうとしていた。
隣で大樹の方をまじまじと見つめるナマエは、もうオレの事なんて気にしていないよう。
するとピカッと稲光が見えたかと思うと、ゴロゴロと大きな雷鳴が聞こえる。

「…っっ!」
「うぉっ!?」

雷鳴とともにナマエがぎゅっと腕に抱きついてきた。正直、音というより急に腕に抱きつかれたことに驚いた。
びっくりして彼女を見るとふるふると小さく震えていて、尻尾はくるんと自分の足に絡ませて体を縮こませていた。

「ごめん、トラッポラくん。大きい音苦手なの…」
「あー、うん。気にしてない。」

気にしてないなんて嘘だ。ふにっと腕に当たる柔らかい胸に、もう天候が悪いとか頭から飛んでいってしまった。
何もなければ完璧にご褒美のはずなのに、さっきの事でオレの頭の中は混乱状態だ。この際もうバカになってしまおう、そう思って抱きついてきたナマエをそっと引き寄せた。
初めて触れる彼女は思ったよりも細く、しなやかだった。
オレはナマエを、落ち着かせるようにぽんぽんと頭を撫でる。

「…トラッポラくんの変態」
「お前、減らず口だけは叩けんだな。苦手なんだろ?変態でも何でもいいから、大人しくオレの胸借りとけ」

それからお互いに何も言わなくなった。ナマエはだんだんと震えは収まり落ち着いくる。

「トラッポラくんありがとう。だいぶ落ち着いた。もう大丈夫」

そして、オレの胸に手をついて距離を離そうした彼女の腕を掴んで再び引き寄せる。
それにびっくりしたのか見上げたナマエは思ったよりもオレの顔が近い距離にあったことに動揺して目をキョロキョロとさせた。

「っ!?」
「あのさあ、自分勝手だと思わねえ?」
「な、なにが?」
「ナマエのこと。散々、オレのこと振り回しといて。何がしたいんだよ。ほんとはオレの事、どう思ってんの?」

引き寄せたあと、ぎゅっと抱き締めナマエの耳元でそう言う。するとピクッと耳が震えてオレの頬を撫でた。それが少しくすぐったい。

「と、トラッ、ポラくっ!は、離してっ…」
「やーだ。ナマエが素直に言うまで離してやんねえ」

オレの腕の中から出ようとジタバタし始めたナマエをさらに抱きしめて動けなくする。すると観念したのか暴れるのをやめて、そっとオレの胸に頭を預けた。

「トラッポラくんのバカ。変態。さいてー。」
「はいはい。バカでも変態でも最低で何でも言っとけ」

罵倒の後、ぎゅっと裾を掴んだナマエは聞こえるか聞こえないかのギリギリな小さな声で言った。

「でも、…す、き」

その言葉を聞いた瞬間ぶわっと感情が高まる。素直にそう気持ちを伝えた彼女が、どうしようもなく、可愛くて愛しい。

「やーっと素直になったじゃん」
「うるさい」
「オレもナマエのこと好き。素直じゃないとこも、すぐにオレをバカにするとこも、クッソ甘いいちごミルクが好きなとこも、それから、」
「も、もう言わなくていいっ」

ぽかぽかとオレの胸を叩いたナマエを見下ろすと首まで真っ赤で、まるでエペルが持ってきてくれた林檎みたいだった。

「ふはっ、顔真っ赤じゃん」
「だ、誰のせいだと!」
「オレのせいでーす」
「もう離して!恥ずかしいから!」
「だめ。まだ肝心なこと聞いてねえもん」
「…何よ」
「ナマエにオレの彼女になって欲しいんだけど」

再び服の裾を握った彼女は、静かにこくりと頷いた。そして、するりと長い尻尾がオレの足に絡まる。
2人の間に甘い空間が流れる。今なら、とゆっくり顔を近づけキスをしようとした。

『おい、見ろよ。すごい数の流れ星だ!』
『いつの間にか天候も良くなってるし』

どこかで生徒が大きな声でそう言う。すると、ナマエはオレの腕の中からするりと抜け大樹の方へ視線を向けた。
いますげーイイとこだったじゃん、ふざけんな。

「きれい…」
「ん、そーだね」

あれだけ濃い雲があった空はくっきりと澄んでいて、大量の流れ星が降っていた。
横にいるナマエを見ると流れ星に夢中なようで、目を輝かせていた。
案外こういうのが好きなのも、いちごミルクを見たときみたいに目を輝かせてるのも、可愛いんだよな。

「なあ、ナマエって願い星に何お願いしたの?」
「…秘密」
「なんだよ秘密って。どーせいちごミルク1年分くださいとかそんなんだろ」
「うわ、なにそれ。エースくんだけは言われたくない。エースくんだってろくなお願いしてなさそうじゃん!」
「いま、名前…」

トラッポラくん、ではなく名前で呼ばれた。ナチュラルにそう呼んだナマエは恥ずかしそうにオレから目を逸して空を見上げた。

「べ、別に、名前くらい何でもいでしょ…」
「今度、いちごミルク1週間分奢ってやるよ」

ぷいっと空を向いてしまったナマエをこっちに向かせたくていちごミルクの話をすると、パアッと顔を明るくさせてナマエはこちらを向いた。

「えっ、ほんと!?…っん」

その瞬間、オレは顔を近づけちゅっと短く唇を重ねた。

「ふはっ、マヌケな顔してる」
「っっ、、エースくんのバカッ!」
「今まで散々振り回されてきたんだから、そのお返しだよバーカ」

真っ赤にして腕を叩いてくるナマエのおでこにデコピンをしてやった。
初めて触れたナマエの唇は、ホイップ増し増しのミルクティーよりも、ナマエがいつも飲んでるいちごミルクよりも甘かった。




いちごミルクは甘すぎる  fin.



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